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キュウリの売上高が約7割伸びた理由。産地をけん引する生産者に聞く

窪田 新之助

ライター:

キュウリの売上高が約7割伸びた理由。産地をけん引する生産者に聞く

JA伊万里(佐賀県伊万里市)では過去10年間でキュウリの売上高が約7割伸びている。きっかけは、環境制御技術を活用して、全国でも有数の反収を挙げる農家が登場したこと。既存の農家が、先駆的なその取り組みを参考に増産しているのだ。コロナ禍や燃油高騰の影響も含め、産地の動向を報告したい。

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脱サラして農家へ

中山さん

伊万里市のキュウリ産地をけん引する中山さん

冒頭に紹介した農家とは、伊万里市大川町の中山道徳(なかやま・みちのり)さん(35)。増棟したばかりの35アールを含めた92アールのハウスでは、キュウリを固形培地で栽培している。

中山さんの実家は梨農家。当初は長男が家業を継ぐ予定だったので、次男の中山さんは高校卒業後に愛知県の自動車整備士学校に入学。卒業後は自動車整備会社に勤めた。

兄が家業を継ぐと、父はもともと関心のあったキュウリを作り始めた。ところが、中山さんが社会に出て2年後、父が病気の手術で入院することになった。そこで中山さんは12年前に脱サラして、代わりにキュウリを作ることにした。

儲かることが周囲の刺激に

中山さんが周囲から最初に注目されたのは、軒高2.4メートルのハウスで一年目から反収30トンを達成したことだ。

さらに、2014年からは環境制御技術を試験的に導入していった。噴霧器や二酸化炭素の発生装置の導入に加え、かん水を散水から点滴にするといったことである。その結果、反収は最多で44トンに達した。

「キュウリは儲かる」。中山さんが反収を次々に伸ばしていく姿を見て、周囲の農家の間でもキュウリを作り始める人が増えていった。
JA伊万里キュウリ部会の会員はかつては60人にまで減っていた。それが、いまででは67人にまで回復している。同時に、総生産面積も増えている。中山さんが就農したときには8ヘクタールだったのが、いまでは12ヘクタールにまでなった。

最盛期の売り上げを超える

ハウス

JA伊万里ではハウスの増棟が進んでいる

この流れのなかで、部会員の若返りも進んだ。同部会は、全国のJAの生産部会では珍しく、若手だけの「胡青(きゅうせい)会」を別に設置している。主な対象は50歳以下の農家である。

本部会と比べて、より先進的な技術を学ぶための情報交換会や視察会などを開いている。これは、稼ぎたいという若手の意欲に応えるためだ。胡青会の会員数は24人。つまりJA伊万里きゅうり部会の3割以上を占めている。

若手の多くは中山さんを参考にして、環境制御技術を導入してきた。その成果として反収を上げている。

同部会の売り上げは中山さんが就農した2011年には4億円を切っていたという。それが現在では、最盛期だった6億7000万円を超えて、7億円に迫ろうとしている。

「我々は共選共販で市場出荷しているので、供給量を一定量以上に保つことが産地の信頼や価格の交渉においてとても大事になります。供給量を維持するには、個々の経営で規模の拡大や増収を図ることが求められていますね」と中山さん。

このため、JA伊万里では新規就農者を育てるよりも、既存の農家が増産する動きのほうが活発だ。「すでに技術を持っている人たちに増やしてもらうほうが、田んぼを囲いやすいし、増産につながりやすい」(中山さん)。

2023年2月から作付けを開始できるよう、農家9人が2ヘクタールで9棟のハウスを増築したばかりだ。

水を差したコロナ禍と資材費の高騰

そんな産地の順調な気運に水を差したのが、コロナ禍による販売単価の低迷だ。さらに拍車をかけたのが、燃油代や資材費の高騰である。

「うちの部会でも、この二年間はとにかく厳しかったですね。環境制御機器に投資したくても、できない。油をたかなくてはいけないって分かっているけど、苦しいという感じで……」(中山さん)

ただ、それはほかの産地も同じ。一部の農家は燃油代がとくにかさむ時期に作付けすることを諦めた。

一方、JA伊万里では市場へ安定供給する責任から、従来通りの作付け体系を守ってきた。
「冬場についていえば、全国的に供給量が減った分、販売単価は持ち直してきています」(中山さん)

JA伊万里キュウリ部会は今後、市場に対して冬場の販売単価の交渉をする予定だという。高騰する燃油代を反映してもらうつもりでいる。

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