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YouTubeで野菜を売ろうとは思っていない。「常笑ファーム」はなぜ、動画投稿に力を入れるのか

YouTubeで野菜を売ろうとは思っていない。「常笑ファーム」はなぜ、動画投稿に力を入れるのか

熊本県にある人口4000人足らずの小さな町で、YouTubeチャンネルに投稿している動画が面白いと話題になっている「常笑(じょうしょう)ファーム」。地元テレビ局が取材に来るなど多くの注目を集めているものの、動画の中では農業にはほとんど触れず、商品の宣伝も行っていない。視聴者をただ笑わせるコンテンツを作り続けているその姿勢と、農業にほとんど無関係な動画をアップし続ける意義について話を聞いた。

立ち上げから4年。コロナ禍で方針転換も

ハウス内の多良木さん

小松菜を見せてくれる多良木さん。濃いめのキャラクターと屈託のない笑顔にファンは多い

熊本県球磨(くま)地方の湯前町(ゆのまえまち)にある「常笑ファーム」で代表を務める多良木智晴(たらぎ・ちはる)さん。もともとメロンやキュウリ、米などを作る農家の生まれだ。

ファームの立ち上げから4年。現在は3.5ヘクタールの畑で、小松菜をメインにトマト、ニラ、キュウリ、ニンニク、キクラゲなどを生産している。スタッフは総勢6名になった。

当初はイタリア料理のレストランなどに卸すパセリ、バジル、マイクロリーフ、アーティチョークなどの西洋野菜を作っていたが、コロナ禍により飲食店からの需要は激減してしまう。

そこで一般家庭で日常的に食べられる野菜を作る方針に切り替え、周辺でほとんど生産されていなかった小松菜に挑戦しようと考えたのが、現在に至るきっかけだ。

産地として知られる福岡県久留米市の小松菜農家に視察に行き、目にした小松菜の美しさに引かれ、きれい!作ってみたい!とシンプルに感じたことが決め手になった。美しい小松菜を自分の手で作ってみたい、その思いが大きなモチベーションにつながったという。

小松菜

ハウス内の小松菜。山から流れてくる美しい水で育つ

すぐに小松菜の栽培を始め、熊本県南部で最も人口規模の大きい八代市エリアをターゲットにして売り込みをかけた。現在は複数の事業者に卸すほか、物産館やコンビニエンスストアにも出荷している。合わせると週に2,000袋以上になる。競合の少ない野菜の中から、自分たちの土地や規模、スタイルに合うものを見つけられて良かったと感じているという。

野菜を売ろうとは思っていない。Youtubeの動画投稿で目指すもの

YouTube動画

常笑ファームのYouTube動画の一例。テロップも熊本弁のまま

常笑ファームのYouTubeチャンネルは、農作物の販売促進を目的としたものではない。
多良木さんは「農作業の様子や野菜そのものに関する内容を発信しても、一般の視聴者にはなかなか見てもらえないし、第一におもしろいものにならない。農業に特に興味のない人たちにも単純におもしろい動画として見て、笑ってもらいたい」と話す。

おもしろさが一番大事と言い切るその姿勢はもはや芸人なのでは、とつっこみたくなる潔さだ。

60本以上の動画を公開している中でも農業に直接関わるものは少なく、小松菜のハウス内や畑の様子もほとんど映らない。「常笑ファームの小松菜に合うカップラーメンを探して市販のカップ麺を食べ比べる企画」など、自社の農作物を扱いながらも農業に興味のない視聴者が楽しめる内容になっている。

YouTube撮影風景

キレッキレの動きを見せる多良木さん(左)。SNS担当の石神さん(右)が撮影を行う

効果音やテロップを始めとする編集作業が丁寧に行われた動画は、エンターテインメントしての完成度が高い。取材のため真剣に視聴していたつもりが、思わず笑ってしまうおもしろさだった。ファーム内の明るい雰囲気や人間関係の良さが感じられ、軽妙な熊本弁の語り口も楽しく観ていて飽きない。

YouTubeに興味を持った地元のテレビ局が取材に来るなど大きな話題になり、さまざまな反響があった。まずは話題になりたい、興味を持ってくれる人を増やしたいと考える場合、常笑ファームのチャンネルは参考になるだろう。

自社農場のため、そして地域のために

ファーム内の様子

農場内の様子。湯前町は市房山の麓、中山間地域に位置する

人口4,000人足らずの湯前町は熊本県南部にあり、令和2年7月豪雨と呼ばれる災害の被害を受けた。この豪雨災害により、限界集落化が30年早まったとも言われている。農業に従事するかどうか以前に、そもそも若者の人口が少ないのが町の大きな課題だ。

決して有名ではない町に移住者を呼び込むことは簡単ではないが、「YouTubeを通じて少しでも湯前町に興味を持ってくれる人を増やしたい」と多良木さんは語る。また、湯前町で育った子供たちが、大人になっても地元で暮らせる環境も求められている。

地元に仕事がない、おもしろいことがない、農業は大変できつい、といったイメージを払拭するためにも、YouTubeの動画が役に立てばと常笑ファームでは考えている。ファームの現在地について真面目に語るのではなく、明るく楽しく、あくまでも自分たちが楽しみながら取り組んでいる様子が印象的だ。

もうひとつのキーワード「農福連携」

スタッフさん達と多良木さん

ハウス前で記念撮影。左端は16歳の従業員、カナト君

常笑ファームの農業において、YouTubeと並んでカギとなるのが「農福連携」である。
経営母体にあたる「株式会社常笑」は、障がい児通所支援事業を営む企業だ。農福連携事業として常笑ファームを立ち上げたのが4年前になる。

株式会社常笑の社長である藤岡洋史(ふじおか・ひろふみ)さんと多良木さんは、空手の先輩・後輩の間柄だった。多良木さんはある日「うちで農業部門をしてみようと思うが、やってみらんや」と藤岡さんからスカウトされたという。

SNSのネタ出し・撮影・編集を担当する石神さんは、もともと多良木さんの「パパ友」だった。子供が同じ空手道場に通う縁で知り合った多良木さんから誘われ、介護福祉士から転職した。信頼できる地元の仲間同士で協力し合い、日々試行錯誤を重ねている。将来は就労継続支援A型事業所を作りたいとも考えているという。

石神さんは「何らかの特性を持った子や支援の必要な子でも、農業のさまざまな仕事の中には、その子に合った作業が必ずある。幼児期から就労まで対応できる体制を整え、湯前町に来たら親も子も安心できる環境を作っていきたい」と語る。

名前のとおり常に笑いを忘れず、皆がいつも笑顔で過ごせる町を作りたい。持続可能な農業、そして持続可能な地域のコミュニティを作りたい。そんな志を持って、常笑ファームは今日も全力で農作業とYouTubeに取り組んでいる。

編集後記

YouTubeの動画がおもしろい!と熊本県内で話題になっている「常笑ファーム」。
常笑ファームは私たち肥後ジャーナルの事務所がある熊本市内から車で2時間ほどかかる場所にあるが、YouTubeやInstagramでの評判が自然に耳に入ってきた。知名度を上げ、地域を盛り上げる手段としてのSNSの威力を改めて感じる。
そしてYouTubeの動画で笑いながら、常笑ファームの小松菜を食べてみたいとうっかり思ってしまうのは私だけではないだろう。

取材協力:常笑ファーム
インスタグラム:@jyo_shou.farm
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