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生み出す価値は卵だけじゃない!? 6年で売上3倍! 養鶏界のチャレンジャー!

生み出す価値は卵だけじゃない!? 6年で売上3倍! 養鶏界のチャレンジャー!

全国の農場を渡り歩くフリーランス農家のコバマツです。物価の優等生と言われる卵も、今では飼料高騰などの影響で価格が上がっています。一方、市場とは一線を画すブランド卵を確立して高価格で直販をする農家も。そもそも卵を高く売れば生き残れるのでしょうか? さらに、消費者を引き付ける差別化のコツとは? 生き残りをかけてチャレンジを続ける養鶏場の若きリーダーを訪ねました。

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常識の殻を破りたかった! 就農1年で祖父の養鶏場を継ぐ覚悟

農業界では現在、物価高騰による飼料や資材の価格高騰で苦境に立たされている人も多いのではないでしょうか。しかし、「そんな飼料・資材の高騰は、やり方次第では養鶏界、農業界にとってむしろチャンスでもある」そんなことを話す人がいます。農業界全体の経営環境が厳しさを増す今、どんなことがチャンスなのか、そのチャンスをつかむために必要なことは? 祖父から養鶏場を継いで独自ブランドを打ち出した若き沖縄の養鶏場の社長を取材しました!

■ノーマン裕太ウエインさんプロフィール

プロフィール写真 1989年生まれ。大学卒業後、沖縄県内の通信系企業に就職し、通訳の仕事に従事。2016年、沖縄県うるま市で祖父が経営していた株式会社徳森養鶏場に転職、2017年に代表取締役に就任し養鶏場を継ぐ。弟と「ノーマンブラザーズ」を結成し、SNSなどで自社農場の情報発信や卵の販売を行う。さらに、うるま市農業委員や沖縄県養鶏農業協同組合理事など地域の役員も積極的に引き受け、若手農業経営者として農業全体をより良くしていくために活動している。

コバマツ

裕太さん、全然農家っぽくない雰囲気ですね! 養鶏場を継ぐ前は何をしていたんですか?
父がアメリカ人、母が沖縄の人で、僕自身はアメリカ生まれ沖縄育ちです。ほとんど沖縄で過ごしてきましたね。沖縄の大学の法学部を卒業した後は沖縄の企業に就職して通訳系の仕事をしてました。祖父が沖縄のうるま市で養鶏をやっていましたが、継ぐことになるとは思っていませんでしたね。

裕太さん

コバマツ

農業と全然関わりがない経歴ですね! そこからどうして養鶏の道を選択したんですか?
20代半ばの頃、就職した職場で働き続けることに疑問を感じて、転職を考えていました。その時期にちょうど、うるま市に住んでいた両親が海外転勤になって、実家の一軒家が空くことになったんです。僕は当時すでに家族がいたので一軒家に住みたいなと。実家の近くには祖父の養鶏場があって働けるし、一石二鳥だと思って転職しました。最初から「養鶏をなんとかしたい!」という気持ちはなかったですね。

裕太さん

ノーマンブラザーズ ラスト

祖父の代の1967年から経営している養鶏場

コバマツ

転職を考えてたのと、一軒家が空くというタイミングが重なって養鶏の道に入ったんですね! 初めての養鶏のお仕事、大変じゃなかったですか?
もともと、体を動かすのが好きだったのでキツいとかはなかったですね。でも、やっていくうちに、祖父の代から変わらない農場のやり方や養鶏業界をもっと改善していきたいという思いが強くなっていきました。

裕太さん

コバマツ

例えば、どんなことを改善していきたいと思ったんですか?
まず、感覚で仕事をしている現場を改善したいと思いました。鶏舎に鶏が何羽いるのかさえ、祖父含めて従業員の誰も知らなかったり。飼料などの経費の計算もされていなくて、祖父の感覚で全てやっていました。他には、スタッフが皆ほぼ毎日のように働いていて。「効率化することで休みも作れるのでは」とも思いましたね。そうやって一個一個感じたことを従業員や祖父に改善するように提案して実践していきました。そして、転職して1年で徳森養鶏場の代表になりました。

裕太さん

作業する裕太さん

当初は提案をしてもなかなか社員から受け入れられず現場を改善していくことも苦労したとのこと

コバマツ

養鶏業に転職して1年で代表になって会社を継ぐって、早いですね! 任せる側も引き受ける側も覚悟がいると思うんですけど。
祖父から事業承継の話が出たとき、やるなら全力で農場や農業界を良くしていきたいと思って、すぐに継ぐことを決めました。もともと僕は「目の前のことには全力で取り組んでいきたい!」という性格なので、継ぐことに迷いはありませんでしたね。

裕太さん

コバマツ

私だったら初めての1年の養鶏の経験だけだと「ずっとやっていけるかな?」と迷ってしまいますが、目の前のことに全力で取り組むマインドを持っている裕太さんだからこそ選択できたことですね!

Not a Chicken. I’m a Challenger!

チャレンジ精神を持って経営者に

コバマツ

事業承継して自分の農場を良くしようと思ったのはわかるんですが、養鶏や農業界全体も良くしたいと思ったのはどうしてですか?
養鶏に携わって、農家自身が自分達の業界のことを一番信じていないなと感じたからです。
「どうせやっても変わらない」
「今まではこうだったから」
「良くならない」
そんな声をよく耳にしました。農業も改善できること、楽しいこともいくらでもあるはずなのに。

裕太さん

コバマツ

農業ってやっぱりまだまだ昔からのイメージやルールに農家自身が縛られている面ってありますよね。そこを変えていきたいと思ったんですね!
変わらない、挑戦しない農業界を目の当たりにして、農場の経営理念として「Not a Chicken. I’m a Challenger(臆病者じゃない、挑戦者だ。)」を掲げました。養鶏だからってチキンじゃない! 挑戦して変わっていけるということを伝えていきたいですね。
「良くなるかどうか」「変われるかどうか」そんなの自分達次第だと思うんです。「徳森もできたんだから自分達も変われる、良くなれるのでは」そんなふうに農家自身が変わろうと思える存在になれたらと思っています。

裕太さん

VISION

経営ビジョンにも自分達から殻を破り、挑戦していくということを掲げている

コバマツ

裕太さんが感じた農業に対する閉塞(へいそく)感のようなものを、自分が変わることで変えていきたいと思ったんですね! Not a Chicken. I’m a Challenger! 私も使います!

独自飼料でブランド卵「くがにたまご」誕生!

コバマツ

裕太さんは卵のブランド化でもチャレンジしていますよね! 徳森養鶏場のブランド卵の「くがにたまご」ってどういった卵なんですか?
「くがに」は沖縄の言葉で「黄金」という意味です。うるま市の特産品である「黄金(くがに)芋」を混ぜた飼料を食べた鶏が産んだ卵なので、この名前をつけました。

裕太さん

トクモリ 卵

徳森養鶏場のロゴがデザインされた卵のパッケージ

クガニ卵かけごはん

黄身が奇麗な黄金色!

コバマツ

うわぁ! 黄身が鮮やかで奇麗! どうして黄金芋に着目したんですか?
栄養価などで差別化している卵もありますが、そこはすでに競合が多くいます。そこで、地域に根差した特産品で何か差別化できないかと考えたんです。黄金芋は養鶏場がある地域の特産品ですし、黄金芋を食べた鶏が産んだ卵は色も味も良かったので、「くがにたまご」として売り出していくことを決めました。

裕太さん

コバマツ

そうですよね、全国探しても黄金芋が取れる地域は限られていますし、エサの産地が養鶏場のある地域なら差別化にもなりますもんね。
この差別化が成功して、今はうるま市の直売所でも2年連続売れ筋NO.1の商品として表彰されました! 県内では取り扱いのお店も増えてきましたね。

裕太さん

賞状

地域からも愛されるブランド卵として認知されていった

コバマツ

くがにたまごとしてのブランディングが成功して販路も広がっていったと思うんですけど、黄金芋を飼料にプラスして配合することで、経営面ではどんな手ごたえを感じていますか?
飼料の経費は以前よりもかかっています。でも、市場に出さなくても販路を確保できるようになって、利益が伸びました。売り上げは祖父の代から比べて6年で3倍になりました!

裕太さん

コバマツ

ブランド卵として確立していけるかどうか不透明な状態で、飼料に経費をかけるという挑戦をするって、勇気がいることだと思います! そこにもチャレンジ精神を持って自分達から変わろうという姿勢があるんですね。

ノーマンブラザーズとして卵の販売、発信をする!

コバマツ

弟さんと一緒に、「ノーマンブラザーズ」として卵や養鶏の情報発信をする取り組みもしていますよね!
ノーマンブラザーズ

弟のノーマン渉太(しょうた)トーマス(左)さんも農場経営に参画し、現在は兄弟で養鶏をしている

弟もジョイン(参加)して挑戦できる幅が広がりましたね。イベント出店やYouTube配信、アパレルや加工事業もやり始めました。

裕太さん

アパレル

業のイメージアップを目的にアパレル事業も展開している

コバマツ

弟さんと2人そろうとインパクトもありますね! すごく情報発信に力を入れているなという印象ですが、販路拡大や新しいビジネスチャンスにつなげるためなのでしょうか?
いいものを作っても発信しないと何も伝わらないので。さらに、自分達が挑戦している姿も知ってもらって、農家だけじゃなくて、皆を元気づけたい、挑戦する気持ちを届けたいという思いでやってますね。
そうやって「農業を良くしていきたい」「挑戦していきたい」という思いを届けていくうちにどんどん販路も広がって、お客さんもついてきましたね。

裕太さん

コバマツ

発信することで、他の農家も裕太さん達の取り組みを知れるし、消費者も農家が頑張っていると応援したい気持ちになりますよね!
イベント出店

イベントにも積極的に出店している

学者や、堅苦しい感じの人が農業を語るのも大事なんですが、農業にまず興味を持ってもらう入り口的存在になっていきたいなという思いもありますね。

裕太さん

コバマツ

ノーマンブラザーズみたいな若い兄弟が楽しそうにいろいろと活動していたら、農家も消費者も興味を持ちやすいなと思います! やったことを発信していくって大切ですね!

物価高騰はチャレンジのチャンス!

コバマツ

今の養鶏業界についても裕太さんの視点から意見を聞いてみたいです!
今、物価高騰で飼料や資材も値上がりして農業界全体が苦しい状況と言われていますが、挑戦を続けてきた裕太さんから見て、打開策は何かありますか?
僕は「物価高騰はむしろ農業界にとってチャンス」だと思っています。

裕太さん

コバマツ

え、どういうことですか?
今まで変わらなかった古い体制を、農家自身も行政も真剣に考えるようになったと思います。それに物価高騰に関しては、消費者も関心を持っているタイミングです。
今、古い体制を変えていくことを進めていくことができれば、周囲の理解も得られる。そして消費者もいろいろなモノが値上がりしているので、卵の値上がりに対しても理解が得られやすいと思うんです。

裕太さん

コバマツ

確かに今、自治体ごとに、物価高騰対策のための事業があったりして、農家も経費を削減するために自分達の営農スタイルを考え直している人が多いように思います。消費者にも、これだけ全国的にメディアで物価高騰と報道されている中の値上がりは理解が得られやすいかもしれませんね。
大変だと言われている状況ですが、それは「今までのやり方を続けていたら」という話。どんな状況でも打開策はあると思うんです。今は、変わらなきゃいけない、変わっていけるチャンスだと思っています。

裕太さん

今後の挑戦

コバマツ

裕太さん、今後の挑戦は何を考えているんでしょうか?
今後は規模拡大も見据え、海外進出も視野にいれて頑張っていきたいですね。日本って、いろいろな卵の食べ方をしている国だと思うんですよね。生卵を食べる国も珍しいですし。国内外から沖縄県に、くがにたまごを食べに来てもらう。そんな風に、徳森養鶏場から養鶏、農業を元気にしていきたいです!

裕太さん

コバマツ

海外進出や観光も視野に入れて新しい挑戦を考えているんですね! 今後も裕太さんが徳森養鶏場の社長として、そしてノーマンブラザーズとして挑戦していくことで、養鶏だけでなく農業界も盛り上がっていきそう!

ノーマンブラザーズ ラスト
最近の養鶏業界では、鳥インフルエンザや卵の価格高騰もあり、農家が大変というイメージが先行しがちでした。しかし、裕太さんの「自分達の農場から現状を改善して発信していこう!」という姿は、大変な中でも自分達のやり方次第でチャンスはいくらでもあるんだなと感じさせてくれました。苦境こそ変化のチャンス。Chicken(臆病者)にならず、常にChallenger(挑戦者)であり続ける裕太さんの姿は、黄金色に輝いて見えました。

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