沖縄黒糖アンバサダーとなったHY
HYは沖縄県うるま市出身の4人組バンド。メンバーは新里英之(しんざと・ひでゆき)さん、名嘉俊(なか・しゅん)さん、許田信介(きょだ・しんすけ)さん、仲宗根泉(なかそね・いずみ)さん。全国的に知られるグループとなった今でも、拠点はあくまで故郷の沖縄だ。各地でライブ活動をしながら、沖縄の魅力を伝えてきた。
そのHYが2022年に就任したのが「沖縄黒糖アンバサダー」だ。就任後、全国のライブ会場でファンに黒糖を配るなど、PRに努めている。
さらにその縁で、HYが主催する「HY SKY Fes2023」でも沖縄黒糖エリアを設けることになった。
3月17日に行われた前夜祭では、HYメンバーと沖縄県黒砂糖協同組合の神里(かみさと)ルミさんとトークセッションし、沖縄黒糖の現状についても紹介した。
沖縄黒糖はサトウキビが原料で、日本のサトウキビ生産量の半分以上を沖縄県産が占める。
サトウキビは県内各地で栽培されているが、沖縄本島産のものは主に蜜分を分離した白糖用。一方で、比較的栽培面積の小さな離島で栽培されたものは黒砂糖に加工される。
現在、黒糖を生産しているのは伊平屋(いへや)島、伊江(いえ)島、粟国(あぐに)島、多良間(たらま)島、小浜(こはま)島、西表(いりおもて)島、波照間(はてるま)島、与那国(よなぐに)島の8島だ。それぞれの島で味わいや色など個性の異なる黒糖作りをしていることも紹介された。
しかし今、黒糖の在庫が過剰になっているそう。在庫過剰の理由は、台風が直撃しなかったことなどによるサトウキビの豊作や、新型コロナの影響による需要の減少だ。
HYが黒糖アンバサダーとして活動するのも、消費を拡大し在庫を解消したいという沖縄の黒糖関係者の思いを受けたものだ。
HYメンバーは「ミネラルも入っていて疲労回復にいい。ライブの合間の疲れた時に黒糖エリアに立ち寄ってほしい」とファンに呼びかけた。
沖縄黒糖を使った商品が勢ぞろい
3月18日から2日間、フェス会場の一角に黒糖エリアが設けられた。沖縄県黒砂糖協同組合の黒糖作り体験ブースをはじめ、黒糖を使った加工品の試食・試飲ができるブースが出店。沖縄に住む人は普段から一口サイズに割られたブロック状の“黒砂糖”を食べているそうだが、今回はさまざまな形で黒糖を原料として使った商品が紹介され、フェスの来場者がライブの合間に訪れていた。
HYの新里さん、名嘉さん、許田さんの3人も黒糖エリアに登場。地元ローカルのテレビ番組の撮影クルーと一緒に各ブースを巡った。
「まるごとバナナジュース」は、東京でバナナジュース専門店を展開する「Banana×Banana」が粟国島の黒糖を使って開発したもの。日本薬科大学の学生が、HYも参加した特別授業の一環でパッケージデザインやプロモーション展開を考える様子が、沖縄のテレビ番組でも紹介された。
そのほかのコーナーでも、各ブースの担当者の商品開発のこだわりや思いを聞いたり、来場者と交流したりしていた。
HYの新里さんは「今、黒糖が余っているというけど、それはみんなに黒糖のことを知ってもらうきっかけのためだったんじゃないかと、良いほうに捉えています。今日はこの黒糖エリアも盛り上がって、黒糖作りコーナーにも子供たちがたくさん来てくれてよかった」と、コメント。名嘉さんも「黒糖は、おじいおばあの家に行ったら必ずあった身近な食べ物。これからも音楽を通して応援していきたいですね」とアンバサダーとしての意気込みを見せた。
エリア内では、プロテイン愛好家として知られる“プロテインひろこ”こと森口裕子(もりぐち・ひろこ)さんが開発した、黒糖プロテインの試飲も。森口さんは「カフェ代わりに飲める味にしました。黒糖は甘さにコクがあってミネラルも豊富。タンパク質は質の良い糖質とセットで取ることでより吸収が良くなるので、理にかなった配合になったなと思います」と商品の仕上がりに自信を見せた。
黒糖を使ったあんまんを作ったのは、名古屋肉まん本舗。愛知を代表する食材を使った肉まんなどがメディアでも多数取り上げられている人気店だ。今回は、皮にもあんにも黒糖を使った黒糖あんまんを開発。担当者は「黒糖は風味があって甘さがやわらかい」と、黒糖のポテンシャルを高く評価していた。
離島の産業として、黒糖生産が必要な理由
今回の「HY SKY Fes2023」での沖縄黒糖エリアを主催した沖縄県黒砂糖協同組合の宇良勇(うら・いさむ)さんは、「サトウキビの栽培や黒糖作りは、それぞれの島に人が住み続けるために必要」と話す。
宇良さんによると、離島における経済効果の高い作物がサトウキビだとのこと。「マンゴーやパイナップルだと生産して売るだけで、その島で加工して付加価値をつけることが難しい。しかも、台風が来たら相当な被害を受けることも多い。しかしサトウキビは、台風で倒れてもダメになるのは2割程度で済みます。しかも島で加工し、黒糖にするので、島内での仕事が作れるんですよ」と、作物としての魅力も説明してくれた。
一方で、島内では過疎や高齢化が進み、黒糖産業を支える若い人が少なくなっているという。「島それぞれで品種や土壌の違いなどで特徴ある黒糖作りをしていますが、今いる農家の年齢はだいたい60代以上。ですから、黒糖を業務用でたくさん使ってもらうことで黒糖の産業を盛り上げ、新規就農者や移住者も呼び込んでいけたらいいなと思います」と、黒糖産業による島の課題解決への期待ものぞかせた。
いわゆる“黒砂糖”の状態では消費量も販路も限られる黒糖を、BtoBの形で全国に広げようという今回の取り組み。島の産業を守り、そこで暮らす人々の生活を持続可能にするために、黒糖はさまざまな商品に姿を変えて、全国に飛び立とうとしている。