販売額増の背景に「10億円販売達成プロジェクト」
まずは同JAで「白神ねぎ」の栽培がどれだけ広がっているかを押さえたい。ここでは1996年度と2022年度(いずれも3月16日時点)の数字を比較しよう。
まず生産面積は36ヘクタールから224ヘクタールと6倍以上になった。
販売金額は、1億4700万円から17億4000万円と11倍以上になった。ここで気になるのは、生産面積の倍近い勢いで販売金額が伸びているのはなぜか、ということだ。
答えは出荷数量と単価にある。同期間におけるそれぞれの推移を見ると、出荷数量は710トンから4604トン、1キログラム当たりの単価は208円から379円と増えている。いずれも生産面積よりも大きな増加率である。
では、なぜそんなことができたのか。答えは、一つのプロジェクトにある。それは、JAが2013年度に県山本地域振興局や能代市、藤里町、JAねぎ部会と着手した「白神ねぎ」の「10億円販売達成プロジェクト」だ。名前のとおり、2012年度に8億円だった販売額を10億円にするというものだ。
目標達成のために実行した三つのこと
その目標のために実行したことは主に三つある。まずは作付面積と販売単価、反収の増加だ。このうち作付面積について、JAは2013年度、前年度からの増反分について10アール当たり2万円の助成金を用意。能代市も連動し、同5万円を払うことにした。これで作付けを増やすほか、新たに作る農家が出てきた。
二つ目が、部会員による抜き打ち検査の実施だ。すべてのネギは、農家が個別に選別した分を集荷して、共同で出荷と販売をしている。
ただ、農家が個別に選別すると、品質が不均一になりがちで、市場での評価を落としてしまう。それを避けるため、導入したのが抜き打ち検査である。
検査に通らなかった農家へは口頭で注意する。二度目には別枠での出荷とする。三度目には出荷を停止させる。これで市場での評価が上がったことは、単価が示すとおりだ。
三つ目の策として、新たな作型である「越冬早取り」を開発した。
JAが市場調査をしたところ、7月中旬から8月上旬にかけては端境期となることが判明。そこでこの時期に出荷できる技術をつくり出したのだ。
反収の増加を果たせたのは、営農指導の強化によるところが大きい。10アール当たりの出荷量が500ケースに満たない農家をリスト化し、集中的に回って改善点を注意した。さらに、病害虫の発生や市況など営農に関する情報を適確に収集してもらうため、配信方法をファクスからメールマガジンに変更した。ファクスだと、農作業を終えてから自宅で確認することが多い。これでは、相場に応じて収穫作業の力具合を加減することができない。人によってはファクスの用紙が切れていることに気づかず、情報が届かないことも起きうる。
こうした努力が功を奏し、2016年度には念願の販売額10億円を超える11億円を達成。その後も順調で、18年度には15億円を突破した。
関係機関との強固な連携
JAがこれら三つのことを遂行できた背景には、関係機関との強固な連携がある。
とくに能代市の力の入り方は並ではない。農業の研究機関である「農業技術センター」を独自に設立。JAとともに、農業発展のための研究課題に取り組んでいる。先ほど紹介した「越冬早取り」という作型もその成果だ。
以前であれば、JA管内でネギが取れる作型は春と夏、秋冬という三つの期間しかなかった。JAが販売単価の底上げを図るため、市場調査をしたところ、7月中旬から8月上旬は全国的に端境期になっていることを発見した。
そこで、どうにかしてこの時期にも出荷できるようにしようと、同センターと一緒になって品種の選定や種まきの時期などを検討して生み出したのが、「越冬早取り」という作型である。具体的には10月に種をまき、雪解けを待って4月に定植する。
ただ、この作型を導入するには課題があった。10月に種をまいてから4月に定植するまで、苗をどうやって越冬させるのかということだ。厳冬期を迎える秋田県北部で苗の生育を安定させるには相当規模の育苗施設が必要だった。
そこで、JAがハウスを持って、農家に代わってそこで育苗することにした。90坪のハウス2棟を建て、3ヘクタール分の苗を供給できるようにしたのだ。農家にとっては稲刈りや秋冬取りのネギの収穫に専念できるのも良かった。
ただ、作り手が増えて、供給が追い付いていないという。だから、「ハウスを増棟することは要検討課題」(JA)。
JAは2022年度、白神ねぎの販売額の目標を21億円にしていたが、大雨の影響などで届かなかった。ただ、2023年度は新たな作り手が増えて、栽培面積も225ヘクタールになる見込みであることから、再び21億円を目指している。