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飼料の国産化は進むか。生産する耕種と利用する畜産、それぞれに課題

飼料の国産化は進むか。生産する耕種と利用する畜産、それぞれに課題

日本の畜産飼料の自給率は25%。国産と呼ばれる畜産物の多くも、輸入飼料によって生み出されている場合が多い。その輸入飼料の価格や供給量は国際情勢に左右される。ウクライナ情勢や新興国の食肉需要の高まりなど、日本はこれまでのように飼料を輸入し続けられるのだろうか。そんな疑問を受けてか、国産飼料に注目が集まっている。2023年1月に行われた日本政策金融公庫による「国産飼料作物に関する調査」の結果を見ていこう。

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注目の集まる飼料の国産化

毎日のように肉や卵、乳製品などの畜産物を食べるという日本人は多いのではないだろうか。牛丼やハンバーガーなどのファストフードでも肉は手軽に食べられるし、学校給食では牛乳が出る。卵の用途は多様で、気付かぬうちに卵を使った食品を口にすることもあるだろう。
そんな畜産物の2021年度の自給率を見てみると、牛肉が38%、豚肉が49%、鶏肉が65%。このほかの畜産物である卵は97%、牛乳・乳製品は63%だ。
しかし、これらを生み出すために家畜が食べる飼料の自給率は25%しかない。
もはや輸入飼料がなければ、国産の畜産物は安定的に生産できない状況だ。これまではそんな状況でも特に問題はなかった。配合飼料は安く、量も十分に輸入することが可能だったからだ。しかし、国際情勢の変化や円安により輸入飼料の価格が高騰している。一方で、需給の関係からコスト増加分を商品価格に転嫁できず、経営状態が悪化している畜産農家も多い

こうした状況を受け、日本国内で飼料の国産化の必要性を訴える声は高まっている。これまで飼料の国産化に向けた取り組みが全くなかったわけではないが、世相を受けて注目が集まった形だ。

日本政策金融公庫では、2023年1月に融資先の農家を対象に「国産飼料に関わる取り組み」について調査を行い、7424件の回答があった。

耕種農家の飼料作物生産の取り組み状況

これまで農林水産省から「水田活用の直接支払い交付金」の制度などで水田の転作作物として飼料用作物の生産には交付金が出ている。実際、飼料用米やWCS(ホールクロップサイレージ=発酵粗飼料)用稲の作付面積は増加傾向にある。本調査においても、飼料用米の生産に取り組んでいると答えた稲作農家は、全体では半数を超える51%。地域別にみると、都府県の取り組み率は56.5%だったが、北海道では37%と、地域性による差が出た。

出典:国産飼料に関わる取り組みについての調査結果(日本政策金融公庫農林水産事業本部)

一方で、WCS用稲や子実トウモロコシ、牧草といった飼料作物の生産については、取り組んでいる耕種農家の割合は全体の15.4%にとどまった。全体の取り組み割合は飼料用米に比べて低くなっている。

出典:国産飼料に関わる取り組みについての調査結果(日本政策金融公庫農林水産事業本部)

畜産農家の国産飼料の活用状況

では、畜産農家側の国産飼料の利用状況はどうだろうか。飼料の種類、畜産の業種別に違いがみられた。

出典:国産飼料に関わる取り組みについての調査結果(日本政策金融公庫農林水産事業本部)

まず、飼料米を含むWCSや子実トウモロコシ、牧草などの国産飼料作物の活用が最も進んでいるのは、北海道の酪農で79.6%だった。しかし、31.3%は「取り組んでいるが、拡大意向はない」と回答している。北海道ではすでに牧草などを自給している酪農家も多い。また、国産飼料の生産拡大・利用拡大の課題として北海道の酪農家の50.3%が「各種作業を行う労力が不足」と答えており、拡大したくても拡大できない事情もありそうだ。

一方で、都府県の酪農では国産飼料作物活利用に取り組んでいる農家は78.7%と北海道を少し下回るものの、「今後拡大したい」と答えた割合がそのうち60.9%と、国産飼料の活用の拡大に意欲的。また肉用牛でも取り組みは73%に上り、拡大の意向のある農家も52.9%だった。そうした意欲の一方で、都府県の酪農家の51.2%が「生産用地の確保・整備が難しい」としており、北海道とは違う課題が見えた。

エコフィードの活用は

稲わらや麦わら、作物残渣(ざんさ)などの栽培過程で出る副産物や、おからやしょうゆかすなどの食品の製造過程で出る副産物、売れ残った食品などを活用した飼料を「エコフィード」という。これらの飼料としての利用についても調査が行われた。

飼料として生産しているわけではないが、栽培の副産物として出る稲わらや麦わらや規格外の作物といった作物残渣も、飼料として活用することが可能だ。稲わらは肥育牛の飼料として利用されていることから、肉用牛での活用はすでに進んでいる。中国から稲わらが輸入されているほどだ。しかし、養豚や養鶏ではエコフィードの活用はあまり進んでいないという結果が出た。

出典:国産飼料に関わる取り組みについての調査結果(日本政策金融公庫農林水産事業本部)

一方、食品製造副産物などの食品残渣の活用は、都府県の酪農家で最も進んでいた。牧場の近くに乳牛の餌として適切な副産物を出す工場などがあれば、工場側としては廃棄の費用や手間が省け、牧場側は餌を得られるという関係が成り立っているのかもしれない。

出典:国産飼料に関わる取り組みについての調査結果(日本政策金融公庫農林水産事業本部)

しかし、どんな食品でも餌として適切であるというわけではない。また、家畜の種類ごと、もしくは求める畜産物の味や品質に合わせて給餌する必要があるため、餌の品質に非常に気を使っている畜産農家は多い。

アンケートに回答した畜産農家の36.4%が国産飼料の利用拡大の課題として「飼料の品質安定化が難しい」と回答している。これは、飼料作物の利用も含めての課題として回答しているものだが、畜産農家が品質の安定した飼料を求めている現実を反映しているといえるだろう。

生産・利用拡大に課題は

国産飼料の生産・利用拡大に関する課題として、「収支(補助金含む)が合わない」と答えたのは、耕種農家全体では56.2%、畜産農家全体の40.6%だった。また、耕種農家の41.1%、畜産農家の38.9%が「作業機械や調整設備等の不足」も課題に挙げており、態勢が整っていないことも浮き彫りになった。

出典:国産飼料に関わる取り組みについての調査結果(日本政策金融公庫農林水産事業本部)

2023年4~6月期の配合飼料供給価格は、直前の1~3月期に比べて全国全畜種総平均で1トンあたり2000円の値下げとなり、少し落ち着きを見せている。しかし、飼料価格が国際情勢に左右される現状が変わったわけではない。
国産飼料の拡大に関してはある程度の投資やコストも必要であることから、輸入飼料の価格によって国産飼料の拡大への取り組み方が変わる可能性もあるかもしれない。今後農家はそれぞれの経営状況に合わせて対応することが求められるだろう。

【資料提供】日本政策金融公庫 農林水産事業本部

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