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飼料危機を見越して先手! 自給飼料を地産地消する方法

飼料危機を見越して先手! 自給飼料を地産地消する方法

2019年度の日本の飼料自給率は25%で、穀物がメインの濃厚飼料に限ってみればわずか12%にとどまる。飼料の供給を海外からの輸入に頼っていたことで、日本の畜産農家は今、飼料価格の高騰の打撃を受けている。この飼料を国産に切り替えるだけにとどまらず、地産地消することができればと願う畜産関係者は多いのではないだろうか。そんな中、地元での飼料の供給体制を整えたJAを取材した。

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供給が不安定な輸入飼料を、いち早く国産に切り替え

輸入飼料の価格が高騰し話題となっている昨今、その原因はウクライナ情勢や円安だという印象を持つ人は多いだろう。しかし、実際はもっとそれ以前から、日本の飼料の輸入には不安定要素が付きまとっていた。特に近年、人口の増加とともに食肉需要の高まった中国の影響は大きい。中国はかつて飼料の輸出国だったが、自国内での飼料の需要が増えて輸入量が増えた。今後は、飼料の国際市場において日本が中国に「買い負ける」事態も起こりうるといわれている。

そんな中、早くから国産飼料の供給体制を整えたのが、JA鹿児島きもつきだ。国の畜産基盤再編総合整備事業などを使って、新たに和牛繁殖の牧場やTMRセンターなどの施設整備を行った。地域内で飼料を自給する体制づくりの中で、地域の未利用資源を活用するとともに、耕畜連携も実現。こうした取り組みが、地域の高齢化による生産量の減少などの問題の解決にもつながっているという。

JA鹿児島きもつき

地域の畜産農家の減少に対応し、完全分業化

同JAが管轄しているのは、鹿児島県の大隅半島。鹿児島県内で最も畜産のさかんな地域だ。和牛のオリンピックとも呼ばれる全国和牛能力共進会でも優秀な成績をおさめており、その肉質にも定評がある。そんな優れた和牛を生産するために、同JAの組織内では完全な「分業化」を実践している。

分業化の仕組み

JA鹿児島きもつきが実践している分業化の仕組み

黒毛和牛の繁殖を行うのは、同JAの子会社、きもつき大地ファーム株式会社。2009年、同JA管内の畜産農家が高齢化により減少傾向にあったため、和牛繁殖の生産基盤を維持するために設立し、翌年から運営を開始した。
今回の事例に該当するのは同社のうちの鹿屋農場と南大隅農場。2農場合わせて規模は繁殖雌牛1000頭で、繁殖成績が良いのも特徴だ。全国の分娩間隔の平均が約400日強とされる中、ここでの分娩間隔は最短で340日、現在は360日ほどとなっている。生まれた子牛は7~10日ほどで母牛から離し、JA鹿児島県経済連が運営する「肉用牛哺育・育成センター」へ送って飼養する。そうすることで、次の母牛の発情期にすぐに種付けが可能になるという。

子牛

きもつき大地ファームで生まれた子牛(画像提供:JA鹿児島きもつき)

このように短い分娩間隔を実現するには、雌牛が繁殖障害を起こさないよう健康状態を良好に保つことも必要だ。そのため、独自の配合バランスを整えた「完全混合飼料(TMR)」を与えているという。従来の個人経営の畜産農家ではこうしたTMRの材料調達や配合などにもかなりの労力がかかっていた。そこで同JAではその作業も分業することで効率化を実現した。

高品質の飼料を作るために、材料から地域で調達

きもつき大地ファームで牛に給与されるTMRを生産しているのは、同JAが運営するTMRセンターだ。その原料は、地域内から調達している。

地域内のバイオマス「デンプンかす」も活用

デンプンかす

デンプンかす(画像提供:JA鹿児島きもつき)

鹿児島の有名な野菜と言えばサツマイモ。大隅半島でも生産は盛んで、同JAではサツマイモからデンプンを生産するデンプン工場も運営している。しかしそこで出る「デンプンかす」は、費用をかけて処分しなければならず、この活用もTMRセンター設立の目的の一つだった。
TMRセンターができて以来、このデンプンかすもTMRの原料の一部となり、年間2000トンほど活用している。地域内での原料確保は運搬費用の節約にもつながり、非常に効率が良いのも助かっていると担当者は言う。

地域内の生産者が技術を統一して粗飼料を生産

きもつき大地ファームで給与される粗飼料は100%地元産。同JA子会社である有限会社アグリーン鹿屋、ほか3軒の地元農家で粗飼料生産部会を結成し、のべ340ヘクタールで生産を行っている。部会内ではタネの種類や栽培方法、さらに粗飼料を保存するためのサイレージの細かな方法まで統一した技術を確立し、品質を維持しているのが特徴だ。
品目はイタリアンライグラスやスーダングラスといった牧草やエンバク、WCS用稲。収穫後は、それらを乳酸発酵させて保存可能にするためにサイレージフィルムに包み、TMRセンターに運ぶ。牧草は季節によって収穫されるものが違うが、それぞれサイレージにして長期保存したものを使うことで、年間を通じてTMRを同じ配合割合にすることが可能になる。それによって、季節による飼料の違いがなくなり、牛が常に同じ栄養を摂取できるというメリットがあるそうだ。

サイレージ

TMRセンターに積み上げられた粗飼料のサイレージ。保存期間を長くするために緑のサイレージフィルムを使用

こうした取り組みもあって、年間6300トン生産するTMRの原料のうち、輸入に頼ることが多い濃厚飼料は500トンほどしか使っていない。担当者によれば、それでも2022年からの飼料価格高騰の影響はあったという。これが全部輸入物だったら、打撃はかなりのものだったことだろう。

地域内循環で耕畜連携へ

以上の取り組みで、耕畜連携も可能になった。きもつき大地ファームで出た牛のふん尿は粗飼料を生産する田畑に堆肥(たいひ)として還元されているからだ。

粗飼料畑

牧草を栽培している畑

現在この仕組みはJA組織内で完全に循環している状況だ。地域の畜産農家の廃業が進む中、JA組織がその穴を埋めつつ大規模かつ効率的な営農へと移行することで、地域の畜産を再編成している。

畜産は飼料を輸入に頼ることが多い分、どうしても国際情勢に左右される。今さかんに叫ばれている「食料安全保障」とは切っても切れない関係だ。一方で、飼料の高騰分を肉の価格にそのまま転嫁できるかといえば、現状はまだ難しいだろう。地域の中で飼料の価格に左右されない体制をどのように作っていくか、それをいかに持続可能にしていくかが、今後の日本の畜産の未来を握っているのかもしれない。

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