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無農薬レモンのそばにいるのは七面鳥。日本で唯一の循環型農業の姿

無農薬レモンのそばにいるのは七面鳥。日本で唯一の循環型農業の姿

過去に大きな公害を経験するも、危機に直面するたびに乗り越えてきた熊本県水俣地域。自然との共生を目指す有数の環境モデル都市と認定されたこの地で、完全無農薬、そして日本で唯一の「七面鳥農法」でレモンを育てているのが株式会社ミスターオレンジである。なぜ七面鳥農法を思いついたのか、これによりどのような効果が得られるのか、同社代表の安田昌一(やすだ・しょういち)さんに話を聞いた。

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住宅地に突然の七面鳥

閑静な住宅街に突如現れるビニールハウス

「ここです」。そう言って案内されたのは、住宅街の中心にあるビニールハウスだった。レモン栽培の場所といえば海沿いの露地だとばかり思い込んでいた我々は、この時点で面食らうこととなるが驚きはこれだけではない。

5羽の七面鳥がビニールハウス内を悠々と歩く

レモンを栽培するビニールハウスの中にいたのは、七面鳥の群れ。「日本で唯一です。七面鳥農法といいます」と笑いながら話すのはミスターオレンジの代表である安田さんだ。

しかも驚くのは、たまに「キエエ!!」と発するその鳴き声。先述したようにこのビニールハウスは住宅地の中にある。鳴き声は問題にならないのかと聞いたところ、元々この地は果樹農園ばかりで宅地ではなかったとのこと。

つまり現在居住している人よりも先に七面鳥は存在していたうえに、慣れた安田さんに対しては威嚇の声をあげないので、鳴き声での苦情はないのだそう。

5羽の七面鳥がビニールハウス内を悠々と歩く

安心安全な作物を作るために必要不可欠なのは土壌であると考え、25年前から試行錯誤を繰り返しながらたどり着いたのが、この七面鳥農法だ。

七面鳥農法とは、その名の通り七面鳥を使った「循環型農業」の一つ。除草剤を使用しないかわりに七面鳥を放つことで、雑草や害虫を駆除してくれる。また、七面鳥の排せつ物も肥料となり、さらに土壌を豊かにしてくれると語る。

なぜ七面鳥という選択肢が生まれたのでしょうか。

筆者


安田さん

たまたまです。コメ農家がアイガモ農法をしているという情報を聞いたことがあるので、それを代用できないかなと思いついた結果ですね。

顔が青いのは威嚇の表れなんだそう

最初はコメ農家と同じくアイガモのヒナを購入し、ハウスに放った安田さん。しかしアイガモは元来、水の中で生活している生物であるため、ハウス内での生育は困難を極めた。そこで、陸で生活している鳥をいくつか試したところ、七面鳥にたどりついたというわけだ。七面鳥は常に動き回って草を食べる習性があるため、雑草駆除に適しているのが主な理由だ。

安田さん

七面鳥ってたまに飛ぶんですよ。体も大きいからダイナミック。だから偶然にもビニールハウスの中での飼育はよかったんです。飛び出さないから。

(七面鳥が逃げ出さないように)それありきでビニールハウス栽培されているんですか?

筆者


安田さん

いえ、七面鳥ありきのビニールハウス栽培ではありません。七面鳥よりも先に考えていたのが、病気は雨が媒介しているのではないかという点です。

たわわに実ったレモン

仮に病気を媒介するのが雨ならば、その雨を避けることで病気にかかる可能性が低くなるのではないかと考え、露地ではなくビニ-ルハウス内での栽培を決めたのだとか。

結果、七面鳥農法にたどり着き、除草剤は一切使わず、ぼかし肥料・発酵鶏ふんなどの有機肥料や環境浄化微生物などを使用した、理想とする土壌が完成した。

農薬よりも鶏ふんの方がコスパがいいのだそう

引き算農業からの脱出

父親の代から果樹を栽培する兼業農家であった安田さん。自身も同じ道を歩むものだと思いながらも、当時は農業には引かれず、青年海外協力隊として11年間ケニアに渡航していた経歴を持つ。

36歳で帰国し、父親と同じ兼業農家をしようと思ったものの、当時の日本はバブル絶頂期。作物は姿形が美しいものでないと売れない、そんな時代であった。

安田さん

見た目が美しい果樹を作るとなると切っても切れないのは農薬ですね。その是非を問うつもりはありませんが、私個人の考えでは、なんて引き算のような農業なんだと思っていました。姿形がいいものを作るためには農薬を使用し害虫駆除を行う。そのためには農薬を購入しなくてはならない。また、どれだけ頑張って出荷したとしても中間の業者に手数料を取られてしまう。つまり、これだけ出荷できたと思ってもそこからマイナスして純利益を考えなきゃならないのが嫌だったんです。

現在ではECサイトを用いて直接取引を行う農家も珍しくないが、これを思いついたのが25年前というから驚きだ。思い立ったら即行動に移してしまうのも安田さんらしく、当時は誰しも当然のように加入するJAの組合員から脱退したのだそう。今でこそ加入未加入の選択肢があるものの、当時は近所の方も連日自宅に押し掛け、説得にあたられたという。

現在よりももっとご近所さんとのお付き合いも密な時代だったかと思います。そこまでして自身の意志を貫き通せた原動力は何だったのでしょうか。

筆者


安田さん

恐らく私の考え方が”農家”ではなく”経営農家”の考えだったのでしょうね。いいものを作ればいつか、という考えに全く共感ができなかった。いいものを作っている自負があるならば自分で売ったほうがいい。その方が見返りが明確になるからモチベーションも上がる。そっちがいいと思っただけです。

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父親から受け継いだ2.5ヘクタールの農地を、どう通年収穫できるようにするのかを考え抜いた結果だった。人生をかけて作っている作物なのだから自身の意志に反するような作り方はしたくない。そのような思いのもと現在も精力的に農作業を行っている。

バレンシアオレンジの木

次に収穫を考えているのはバレンシアオレンジ。理由は「なんか売れそうな気がするから」。これもきっと先見の明というものなのだろう。

自身が正しいと思えることを迷いなく行える職業は多くはない。しかし、それができるのがきっと農業である、と改めて楽しさ奥深さを感じることができた。

農業に定年はない。力そしてアイディアが続く限り安田さんの挑戦は続いていく。

<取材協力>
株式会社ミスターオレンジ
http://mr-orange.net/

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