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年に3回の収穫を実現。北海道と九州の2拠点でカボチャを栽培する農家の挑戦

年に3回の収穫を実現。北海道と九州の2拠点でカボチャを栽培する農家の挑戦

通常は北海道では年に1回、本州以西でも年に2回が限度とされるカボチャの収穫。これを、北海道と九州の2拠点生活によって年3回に増やした農家がいる。北海道の赤井川村に拠点を置く「ABE FARM(アベファーム)」だ。全く異なる2つの地域での生産に至った経緯、約1800キロ離れた場所でそれぞれ栽培を成立させる仕組みについて、代表の阿部良多(あべ・りょうた)さんに話を聞いた。

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新規就農し、北海道と福岡の2拠点生産が始まるまで

赤井川村のカボチャ畑に立つ阿部さん

東京などで会社員として働いていた阿部さんは、2010年に故郷である北海道の赤井川村へUターンした。近隣農家での約2年間の修行を経て、2012年に「ABE FARM」(以下、アベファーム)を立ち上げた。就農当初はうどんこ病などに悩まされたほか、新規就農ゆえに販路開拓にも苦労したという。それでも、先輩農家から助言ももらいながら地道に営業活動に奔走。今では全国の大丸や高島屋などにアベファームのカボチャが並ぶ。

順調に売り先を見つけていった阿部さんだったが、冷涼な気候で雪の多い北海道では冬の間はカボチャを出荷することができずにいた。11月から3月ごろまで除雪車に乗って除雪作業を行うオペレーターとして生計を立てる農家も少なくない。それが当たり前とされる北海道で、阿部さんは別の道を探った。

「農業をするために故郷へ帰ってきたのに、どこよりもおいしいカボチャを作れる農家になりたいのに、年間5ヶ月も除雪オペレーターをしていて良いのか。シンプルに疑問でした」。

もし、年に1回だった収穫を増やすことができれば、カボチャ農家としての経験値を倍速で積むことができる。ノウハウが蓄積されればカボチャの品質向上や生産量の増加が見込めるほか、異なる地域で栽培することで天候不良などのリスクも分散できる。そう考えていたところ、ぴったりのタイミングで福岡県の上毛町から声がかかった。

上毛町は大分県との県境にある人口7,000人ほどの町である。町の新たな特産品を作りたいとの思いがあった町長がアベファームのカボチャを食べて気に入り、上毛町で栽培してもらえないかと考えたことがきっかけとなった。2021年には、道の駅の近くにある畑で、カボチャ栽培が始まった。

現在は赤井川村で約8ヘクタール、福岡県の上毛町(こうげまち)で80アールほどの畑でカボチャを栽培している。

2拠点での年間スケジュールと生産の実態

収穫したカボチャ。「E T」と「ほっこり」の2種を栽培している

現在は年に3度の生産、収穫を行っているアベファームでは、おおよそ下記のようなスケジュールで進めている。

地域 植え付け時期 収穫時期
1回目 上毛町(福岡) 4月初旬 7月以降
2回目 赤井川村(北海道) 5月後半 8月末以降
3回目 上毛町(福岡) 8月後半 12月

上毛町でカボチャの生産を始めてみて、さまざまな発見があった。北海道に比べて温暖な九州では、成長速度は2倍近くになる。一方で、病害虫の発生も北海道と比べて2倍ほど多い。

生産を始めてしばらくは気候の感覚がつかめず、予想以上の成長スピードや虫の多さに苦労した。また、雨の多い九州では水やりの頻度や量も北海道とは変える必要がある。2拠点生産では、その土地に合った栽培方法を見つけることが重要だ。

上毛町の畑での作業風景

阿部さんが上毛町での生産に取り組み始めてから、カボチャを作りたいという地元の農家が現れ始めた。今では20人ほどの仲間ができ、阿部さんのアドバイスを受けながらカボチャを栽培している。2拠点生産を行うためには、留守の間も管理できる人を配置しておく必要がある。仲間が増えるのは心強い。

北海道に戻っている間は、上毛町役場の産業課などの助けも借りている。畑の様子を写真に撮って送ってもらい、必要な施策を判断することも多いという。

今のところ体調管理は問題なくできていると語る阿部さんだが、九州と北海道では気温や湿度、日差しの強さも大きく異なる。遠く離れた場所で2拠点生活を送る上では、自身の体調管理も大切になるだろう。

「変態」を自称する阿部さんの熱量

カボチャを見つめる阿部さん

2拠点での生産は興味深いけれどやはり大変でしょう、と声をかけると、阿部さんは「自分は変態だから」と笑う。

交通費や住居費などのコストを抑える工夫として、上毛町では作業器具などを置いているハウス内にテントを張って暮らしている。タンクに溜めた水を生活用水として使い、テントで寝起きする。短い滞在時間を最大限に活用するため、夜中に作業を行うこともある。すべてはカボチャのため、工夫次第で何とでもなるものですよ!と阿部さんは飄々としている。もちろん、両地域間の移動はLCCを使うなどして可能な限り出費をおさえている。

上毛町で阿部さんが暮らすテント。目の前に畑がある

阿部さんは「まだ成功の途上だが、自分はカボチャの生産に人生をかけている」と力強く語る。新しいチャレンジに一歩踏み出す勇気と、軌道に乗せるための具体的な施策は、他の農家にとっても参考になるだろう。情報収集を怠らず、フットワークが軽い点も印象的だった。

順調に見える2拠点生産も、2022年は天候不良で大きな影響を受けた。北海道では6月に2度も霜が降り、秋の福岡では植えて間もない苗が台風での被害にあってしまった。思うような収穫量には届かなかったが、今年こそはと決意を新たに日々の作業に邁進している。

福岡と北海道をつなぐ存在へ

土に触れる部分にマットを引いたカボチャ。ひとつひとつ大切に育てる

アベファームの取り組みを通じて深まる北海道の赤井川村と福岡の上毛町とのつながりも、今後楽しみだ。

すでに両者の道の駅では、お互いに特産品を置くなどしてちょっとしたつながりができている。阿部さんを中心に赤井川村の村長と上毛町の町長で食事をしたこともある。村と町がこれから姉妹都市として連携する可能性もあり、人的・物的交流が増えていきそうだ。

阿部さんの取り組みは福岡のマスメディアからも注目され始めているが、上毛町のカボチャについて今後さらに積極的に発信していきたいと考えているという。

遠く離れた小さな村と町で、アベファームのカボチャの生産を通じて生まれるつながり。
自分自身が農業の、そしてカボチャのスペシャリストを目指し続ける中で、通年で農業をしたい北海道の農家や福岡で新たにカボチャを作りたい人がチャレンジできる場所ができたらいい、と阿部さんは語った。

取材協力:ABE FARM
公式サイト http://abefarm.jp/
Instagram  @good.pumpkin  https://www.instagram.com/good.pumpkin/

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