野菜セットの販売からスタート
多古町旬の味産直センター(以下産直センター)の現在の売り上げは約20億円。多古町をはじめ千葉県北東部の約120人の農家がつくった野菜やコメを、全国の生協や消費者グループ、学校給食向けなどに販売している。
設立は1987年。多古町の7人の農家が立ち上げた。3代目の代表の鎌形芳文(かまがた・よしふみ)さんは「零細農家はどうしたら農業を続けることができるのかを考えたことが、設立のきっかけになった」と話す。
創設メンバーは当時、コメを地元の農協に出荷する一方、家族で食べるために小さな畑で野菜を栽培していた。野菜をほとんど出荷していなかったのは、生産量が少ないために市場流通に乗せにくかったからだ。
この野菜を持ち寄り、セットにして販売してみることにした。売り先は東京など都市部の生協や消費者グループなど。大量生産を目指していなかったので、農薬や化学肥料をあまり使っていなかった。この点が、食の安全や安心に関心のある都市部の消費者とつながるうえでプラスに働いた。
「葉っぱつきのニンジン」が象徴する農村の価値
設立当初から重視しているのが、消費者とのコミュニケーションだ。産直センターの近くの農家を消費者が訪ね、軒先で郷土料理を味わう交流会などをずっと開き続けている。その原点となるエピソードがある。
安全で安心な農産物を給食向けに供給してくれる生産者を東京都品川区の教育委員会が探しているという話を伝え聞き、メンバーが委員会を訪問した。すると「葉っぱのついたニンジンを送ってほしい」と頼まれた。
依頼通りに発送した後しばらくすると、葉っぱつきのニンジンを小学生が描いた絵が産直センターに送られてきた。スーパーの店頭に並ぶニンジンしか知らない子どもたちにとって、葉っぱつきのニンジンは新鮮に映ったのだ。
このときの経験で、メンバーたちは2つのことに気づいた。