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ベビーリーフ販売額年間売上15億円超えを果たすまで。黒字継続の背景にある農業の“カイゼン”とは

ベビーリーフ販売額年間売上15億円超えを果たすまで。黒字継続の背景にある農業の“カイゼン”とは

生産の安定、販売の強化、コストの削減など、多くの“カイゼン”すべきポイントが存在する農業現場。経営課題のカイゼンによって黒字経営を確立する農業法人では、どのような取り組みによって経営を安定させていったのでしょうか。株式会社果実堂代表の高瀬貴文(たかせ・たかふみ)さんにお話を聞きました。

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黒字経営の実現に、300以上のカイゼン

熊本県益城町でベビーリーフやアスパラガスを栽培している株式会社果実堂。メイン商品であるベビーリーフは、18種類もの品種を約70ヘクタール、850棟のハウスで年間約750トン生産しており、2022年の売り上げはベビーリーフ単体で約15億7000万円に上ります。

果実堂のベビーリーフ

生産量・売上販売額ともに日本一を誇る同社ですが、初めから順風満帆な経営状況だったわけではありません。当時の問題点として、生産体制が低収量、コスト高であったことに加え、栽培を指導できる人材を欠いていたことが挙げられます。

そんな状況を打開すべく、創業者で前社長の井出剛(いで・つよし)さんから再建を託されたのが、大分県の別会社でベビーリーフを栽培していた現社長の高瀬さんでした。

予算が限られた中で生産性を追求してきた高瀬さんは、高い技術力と経験を買われ、果実堂の生産現場の技師長へ就任。その後、さまざまな分野でカイゼンを実行しました。その数は300以上に上るといいます。

カイゼンとは、生産性の向上を目的に、ムダや危険な要素を費用をかけずに排除する取り組みの総称。高瀬さんが最初に注力したのは品質面のカイゼンでした。当時は今ほどのコールドチェーン(※)が築けていないこともあり、店頭に到着した頃には傷んでいるものもありました。そこで、社内での徹底した品質重視の体系を作り上げたといいます。

生産技術の向上による鮮度の維持、品質を意識した選別作業、店頭到着までの最短化などに取り組んだことで、スーパーなど取引先からの信頼獲得につながり安定的な取引が増えていきました。これにより果実堂は3年で黒字へと変貌。更に、そこから3年でベビーリーフの売り上げ10億円へと成長曲線を描いていきました。

※温度管理が必要な商品や生産物を、低温状態に保ちながら消費地へ届ける物流のこと

果実堂の看板

果実堂が行ったカイゼンについて

会社を黒字化、成長させるためには生産の安定、販売の強化、コストの削減が必要だと考えてきた果実堂。象徴的な取り組みについて、いくつか紹介します。

栽培情報のデータ化

特に夏の時期は、気温の高さから品質が安定しないベビーリーフ。冬の時期も気温が低く成長が遅いなど、年間を通した安定的な生産ができていませんでした。そこで、品質を安定させたり、成長スピードをあげたりするには土、肥料、水分量など、どんな数値が適切なのか、研究を進めました。この結果を、全従業員が理解できるように標準化したといいます。

結果、同社の栽培方法が確立され、データに基づいた栽培を行うことで、どの従業員でも安定して高品質のベビーリーフを作ることができるようになったのです。通年で高品質の商品が安定して生産できるようになったことで、販売も順調に伸びていきました。

果実堂で行う土の研究

作業工程のマニュアル化

高瀬さんが来る前まではマニュアルなどが無かったため、人によって技術や効率に差があったといいます。そこで、作業工程を全てマニュアル化して可視化できるようにし、作業全体の効率アップを実現しました。

また、スキルの見える化に星取表を活用しています。星取表とは作業の理解度やスキルを5段階に分けて管理する手法のことで、その業務を経験したことがない人、1人でもできる人、後輩にも指導できる人などが一見して分かるようになっています。従業員にとっては足りていない経験を目で見ることができるので、成長するきっかけになっているといいます。

果実堂で使う星取表

RPAの導入

RPAとは、Robotic Process Automation(ロボティック・プロセス・オートメイション)の略で、データや数値の入力をロボットで自動化することが可能なシステムのこと。農業現場でも、数値の手入力などが行われていることが珍しくありません。同社では、RPAを導入しており、自動入力により事務の作業時間の削減に役立っているといいます。

注文等の数値が自動入力されている

農業用ハウスのカイゼン

高瀬さんは、元々建築関係の会社出身だったこともあり、日本の農業用ハウスの構造は植物の環境工学に沿っていないと疑問を持っていたといいます。そこで、植物に合ったハウスの開発に自ら乗り出しました。

新たなハウスの利用によって、前述した栽培のデータ化などとの相乗効果もあり、年間の回転数は14回転を実現することができたといいます。

今すぐに農家が取り組むべきカイゼンとは

最後に、高瀬さんにどんな農家でもお金をかけずに取り組めるカイゼンについてお伺いしました。

インタビュー時の高瀬さん

肥料学についての勉強

「肥料学は確実に勉強した方がいいです」と高瀬さん。
「適切な量を知る事で肥料代を削減できます。更には、まく労力すら減らす事ができます。経営者にとっては経費を減らすことができ、従業員にとっても作業の省力化につながるので、やらない手はありません」

自ら勉強し、実践していく経験も、従業員の今後に生きてくると高瀬さん。実際に高瀬さん自身も、独学で肥料を学んできたそうです。このほか、果実堂では知識の共有や作業を理解して取り組めるように、社内テストを実施しているといいます。

果実堂で行われる社内テスト 土壌分析、植物生理、施肥設計、虫、天候、水管理といった項目がある

4Sを徹底

4Sとは、5Sから「しつけ」を取った「整理」「整頓」「清掃」「清潔」のことです。高瀬さんいわく「4Sできてない農家でうまくいっているところは見たことない」そう。
当たり前と思われることかもしれませんが、分かっているけれどできていない農家が非常に多いと話します。常に使う道具の場所や配置など効率を考えると良いでしょう。

カイゼンについて考える時間を確保

「農家のカイゼンは十人十色で作る品目によっても変わってきます。その中で、自分たちでカイゼンすべきポイントを見つける必要があるかと思います。そのためにも、会社内でカイゼンについて話し合う時間を改めて設けるべきです。果実堂では、細かく分野をわけてカイゼンについての会議を行うことで、さまざまな意見が出てくる現状にあります。
また、カイゼンするポイントを見つけるコツとして、他者貢献の気持ちが大事です。逆に、利己的だと私欲が出てしまいカイゼンできずに終わってしまう可能性があります」(高瀬さん)

他者貢献による従業員に重い物を持たせない仕組み作り

農業の現場にはカイゼンすべきポイントが多々ありますが、日本の農業は今以上に良くなるポテンシャルを秘めていると言い換えることができるでしょう。
今より少しでも農業や経営のカイゼンについて考えることができれば、日本の農業は成長していくであろう未来がイメージできた取材でした。

取材協力

株式会社果実堂
果実堂|ベビーリーフ生産量日本一 (kajitsudo.com)
株式会社果実堂テクノロジー
株式会社果実堂テクノロジー (kajitsudotech.co.jp)

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