「二項対立図式」に疑問
筆者は生源寺さんの取材や著作を通してたくさんのことを学ばせてもらった。その中でもとくに大切にしているのが、「農業や農政をめぐる議論には白か黒かの二項対立図式の言説が多すぎるように思う。高飛車な物言いは、農業と農村の良きスピリッツの対極にあるとも思う」という文章だ。
2011年の著作「日本農業の真実」(ちくま新書)にあるこの一節を、筆者は農業取材の指針にしてきた。例えば、農協改革などがテーマになるとすぐ「二項対立図式」が鮮明になり、真っ向からぶつかる意見が飛び交うようになる。そんなとき、できるだけ双方の主張に耳を傾けるようにしてきた。
その関連で、インタビューでは日本の農家のほとんどを占めてきた兼業農家をどう評価すべきかについて質問してみた。兼業農家は「生産性の向上を阻んでいる」など、否定的に見られることが多いように思うからだ。
兼業農家の増加は合理的な判断の結果
――兼業農家はなぜ批判の対象になったのでしょうか。
兼業農家自身の問題というよりも、制度に原因があると考えています。「彼らは農地の転用や転売でもうけている」という見方があります。兼業農家の中で実際に農地を転用してたくさんの利益を得た人がどれだけいるのかはわかりませんが、それが彼らに対する批判につながったのだと思います。
ただこれは農地の指定を外して転用を可能にする制度とその運用のほうに問題があるのであって、兼業農家に責任があるわけではありません。
この点は農協問題とも関連します。農協が(専業農家より)兼業農家を大事にしているという指摘です。都市近郊の農協の多くは、お金を預けてもらって運用するのが仕事の中心になっているという批判があります。そうした地域は兼業農家ばかりなので、農地の転用問題も絡んで兼業批判が強まりました。
――農地の転用も資産運用も「農業以外でもうけている」という批判ですね。ではどうして日本は兼業農家が中心の農業になったのでしょうか。