オモシロ動画でファン獲得! 6次化でブルーオーシャンにこぎだしたバナナ農家
全国の農場を渡り歩いているフリーランス農家のコバマツです。今回はTikTokで面白い動画を配信している「沖縄のバナナおじさん」という人を見つけて、沖縄県豊見城(とみぐすく)市にやってきました。実はこのおじさん、バナナを生産してスムージースタンドを経営している農家さんなのです。6次化して付加価値を付けて売るという手法はよく見かけますが、競合も多くレッドオーシャンになりがち。しかし、これを沖縄の海のような“ブルーオーシャン”にする戦略があるようなのですが……。バナナおじさん自身にいろいろ聞いてみました!
土に埋まるバナナおじさんを探して……
梅雨も明けて、良い季節になってきた沖縄に面白い農家を探しにやってきています。
梅雨明けの6月下旬の沖縄。むっちゃいい天気
暑いので何か飲みたい! スムージースタンドを見つけたのでバナナスムージーでも飲むことにしよう。
いい感じのジューススタンドを発見!
沖縄産バナナを使ったアップルバナナスムージー、1杯600円。Spunky Jr.(スパンキージュニア)というバナナのキャラクターもかわいい
めっちゃうま!! いったいどんな人が作っているんだろう!
SNSで「Spunky Jr.」の名前を検索してみよう!
……いた!
いいね、フォロワーが多い!
TikTokで発見!
この人だ!
ん? 沖縄のバナナおじさん?
え?
バナナについての豆知識動画が面白く配信されている
えーっ!! 土に埋まってるー!
どういうこと!?
よく調べてみると、自分でバナナを栽培して、それをスムージーにして販売しているよう。
いろいろと、突っ込みどころ満載の予感がします。
ということで、直接バナナおじさんに会うために、バナナを栽培している「Spunky Farm」に行ってみることにしました。
さて、現場に着いてみると……
やっぱりバナナおじさんが埋まってた!
コバマツ
あの~、バナナスムージースタンドのオーナーのバナナおじさんですよね? どうして土に埋まってるんですか??
まこやん
コバマツ
バナナの気持ち! さすがバナナ農家ですね。で、どんな気持ちですか?
まこやん
コバマツ
やっぱり(笑)!
ということで、土に埋まって動画を撮る理由など、バンバン聞いていこうと思います!
■「バナナおじさん」こと林誠(はやし・まこと)さんプロフィール
沖縄県那覇市出身。沖縄県内で建設業を経営してきたが、2018年にバナナ栽培をスタートし、現在は1500坪の土地でアップルバナナを栽培。2020年にバナナジューススタンドOLD CORNER STANDをオープンし、自家製アップルバナナや島のフルーツを使ったスムージーの加工販売を始める。TikTokでは「沖縄のバナナおじさん」としてバナナにまつわる面白動画を配信し注目を集めている。自称バナナ王のまこやん。
オモシロ動画配信の理由とは?
着替えを済ませて再登場!
コバマツ
さっきお店でバナナスムージーをいただきました。とってもおいしかったです! あと、TikTokの動画が衝撃的過ぎて会いに来ました!
バナナスムージーを作ってるだけじゃないよ。バナナ農園も経営しているよ!
まこやん
沖縄県国頭村(くにがみそん)、豊見城市の二カ所に農園を所有している
コバマツ
ところで、動画の発信の仕方がかなりインパクトがあって力を入れていますよね! 土に埋まって撮影する理由ってあるんですか?
何回見ても衝撃
若い人、特に子供たちにSpunky jr.のバナナジュースを知ってもらうためかな! 面白おかしく発信することで、まずは認知してほしいなと思っているよ!
まこやん
コバマツ
確かに、この動画を見た人は気になって調べちゃいますね! 私も気になって訪問しちゃったし。バナナスムージーもスーパーで売っている海外のバナナを使ったジュースじゃないんですよね? ちょっと一般的なバナナジュースよりもお値段が高いような……。
ジューススタンドのメニュー
僕の農園でとれたアップルバナナを使った、沖縄県産バナナ100%のバナナスムージーさ~!
まこやん
コバマツ
まこやん
普通のバナナの約半分のサイズ。皮が薄くもちもちとした食感に、甘く、リンゴのような風味を持つ非常に珍しい品種
コバマツ
まこやんさんが栽培したバナナ100%のジュースなんですね! おいしいし、国産で、しかもアップルバナナって珍しいから、納得のお値段!
建築業界からバナナ農家で新規就農したわけ
コバマツ
まこやんさん、もとは建設業の会社を経営していたとか! どうしてわざわざバナナ農家として新規就農したのでしょうか?
建設業って忙しい時期と暇な時期の差がすごいんだよね。例えば、建設の現場って忙しい時は2週間ずっと仕事があるし、無いときは3日に1回とかで波があるの。そんな環境で、現場の職人たちを養うためにはこの波をならさなければいけないっていう課題を感じていて、その方法を探していたんだよね。
そんな中、知り合いから「バナナがこれから面白くなるよ」という話を聞いて、農業に興味を持ったんだ。建設業で時間ができちゃう期間を農業の仕事で埋めることができたら職人たちを安定的に雇用できるぞって思ったんだ!!
まこやん
コバマツ
農業も繁忙期に波がありますけど、建設業も同じような課題があったんですね。確かに、掛け合わせることで双方の業界の「仕事がある時期が限られている」という課題解決につながりますね!
建設業って結構ハードで、だいたい60歳くらいで選手生命が終わっちゃうんだよね。でも、農業という仕事を用意することで、その後も働いてもらえるなと考えたんだ。
まこやん
コバマツ
もともとの建設業の働き方の課題を解決するために農業に踏み出したんですね!
今は建設業の経営は弟に譲って農業に専念しているけど、バナナの栽培が軌道に乗ってきたら、建設業の職人さんたちに働いてもらえるようにする予定さ~!
まこやん
栽培リスク軽減でバナナ栽培に挑戦!
コバマツ
でも、「バナナが面白くなるよ」という話を聞いてバナナ栽培を始めたとのことですが、それだけでバナナ農家として踏み切れちゃったんですか?
建設業でもともと、体を使う仕事をしていたから、農業には抵抗はなかったね。あと、全国的にもバナナの専業農家って少ないということも、農業参入のチャンスなんじゃないかなって考えたんだ。
まこやん
コバマツ
バナナ栽培のハードルは「病害虫」と「価格の安さ」と「台風被害」。この三つがなかなか専業でやる人がいない理由かな。
まず病害虫だけど、僕が着目したアップルバナナという品種は他の品種に比べて、病害虫に強い品種なんだ。二つ目の理由の価格についても、市場に出したら安く取引されちゃうけど、ネット販売や加工をすれば付加価値をつけて高く売れるんじゃないかなって考えたの。
でも三つ目の台風被害については、非常にギャンブル性が高いんだよね。被害を受けずに収穫することができたら収入になるけど、台風を食らったら一発でダメになっちゃう。
まこやん
病害虫が比較的少ないといわれるアップルバナナ
コバマツ
二つ目までは工夫してなんとかなりそうですが、台風は自然災害だからなんともできないですよね……。だから専業でバナナ栽培をする人が少ないんだ。まこやんさんはそこをどうクリアしようと考えているのでしょうか?
建設業で培った技術を活用してバナナ栽培用施設を作ることができたら、被害を受ける確率を減らすことができるんじゃないかなって考えているよ!
まこやん
コバマツ
建設業のスキルを活かして、台風被害リスクを下げるという方法は、まこやんさんならではの発想ですね! 被害に遭うリスクを下げることで安定的に栽培できそう! 周りがリスクと感じていることをクリアすることで、バナナ栽培に踏み切ることができたんですね! そうしたらもっとバナナの収穫量が増えてバナナスムージーも今より多くの人に飲んでもらえますね。施設の完成が楽しみです!
バナナスムージーとして販売するワケ
コバマツ
栽培したバナナは全て加工して販売しているんですか?
今はほとんど加工用で、スムージーとして販売しているね! 固定店舗が一つと、あとはキッチンカーの「Spunky Jr.号」を使ってイベント出店などでも販売しているよ。他のバナナ農家と競合したくなかったので、あえて加工に振り切ったんだ。
まこやん
キッチンカーではイベント出店もしている
コバマツ
スムージーはSサイズが400円、Mサイズが600円、さらに高いものもあって結構いいお値段ですけど、どんな人が購入するんでしょうか?
インバウンドの観光客が多いかな。国内観光客、沖縄の人も結構来てくれるんだよね~!
まこやん
コバマツ
観光客だけじゃなくて沖縄の人も来るんですね! 何か、お客さんを引き付ける特別なことなどしているのでしょうか?
沖縄県産バナナというところで結構皆さん興味を持ってくれるよ! さらに、沖縄県内の他のフルーツとコラボすることで、バナナスムージー自体に付加価値がつくようにしているね。最近は県内のパッションフルーツ農家とコラボして、パッションバナナスムージーを開発して販売しているけど、これが大好評!
まこやん
県内のパッションフルーツ農家とコラボした商品
コバマツ
スーパーリッチな1200円! 私もいただいてみます!!
パッションフルーツとバナナスムージーが別で出て来る
パッションフルーツを自分で入れて混ぜて作る。パッションフルーツの香りも楽しめる
いざ、実食!
コバマツ
濃厚でおいしい! 香りも楽しめるのもいいですね! しかも、コバマツは北海道出身なので普通にパッションフルーツって見たことなかったから、ワクワクするし! なんか自分で作っている感じも楽しい!
ただスムージーとして販売するだけだと高く感じられると思うんだけど、自分で実際にパッションフルーツを入れる、香りを楽しむなどの「体験」を入れることも付加価値になると思うんだよね。
まこやん
コバマツ
写真や動画を撮って思い出になりますもんね!
バナナ単体だったら、海外産などとも競合しちゃうけど、スムージーにして他の作物とコラボすることで商品や発信方法の差別化にもなりますね!
バナナで子供たちを笑顔にしたい!
コバマツ
バナナ農家として新規就農して、加工もして、TikTok配信といろいろなことをしていますが、今後、どんなことをやっていきたいですか?
子供たちに見てもらえたらと思って面白おかしく発信を始めたんだぁ。子供がTikTokを見て、バナナスムージーを飲みたいといったら、その両親と一緒にお店に来てくれることになるじゃない。子供が大人になって家庭を持って、またその子供たちがお店に来てくれるような。そんな風に沖縄産のバナナが根付いていってくれたらなぁって思っているんだ。
まこやん
コバマツ
発信も子供たちを狙っていたんですね! 確かに、子供が「行きたい」といったらその親も必然的についてきますもんね。バナナスムージーを飲んでいた子供が大人になったときに、今度は自分の子供をお店に連れて行って家族で飲むことができたらすてき!
そして、沖縄をバナナ色で黄色く塗りつぶしたいね! まずは自分が安定的にバナナを生産できるようになることで、さらに次の生産者を増やすことにもつながればいいなと思うし。それから新たな商品開発もしたいなぁ。沖縄はアジア圏が近いからMade in OKINAWAで輸出できる可能性もあるんじゃないかなぁとか。いろいろやれることがあると思っているよ!
まこやん
コバマツ
国内ではまだ競合が少ないバナナ栽培だからこそ、国内生産量でも勝負できそうだし、面白いバナナ農家の形もつくれそう! これからいろいろな挑戦ができそうですね!
TikTokのオモシロ動画をきっかけに出会ったまこやんさん。建設業での雇用を安定させるために農業に参入しましたが、今では専業でバナナ栽培に挑戦をしています。
まこやんさんの品種の選び方や加工品の売り方、そしてPRの仕方は、これまでの農家の6次産業化戦略の中ではありそうでなかった形かもしれません。やり方次第では6次化の市場の中にもブルーオーシャンを見つけることができる。そういういろんな学びを得た取材でした。