美しい風景と人の優しさに引かれて
農業興舎は約20ヘクタールの田んぼで稲作を手がけているほか、トマトやブドウを育てている。正式な社名とは別に、会社を紹介するときに「あぐりいといがわ」という名前も使っている。農産物やその加工品には多くのファンがついており、自社のサイトなどを通して販売している。
社員は9人。創業当初からずっと働いている人もいれば、途中から入った人もいる。今回取り上げるのは、そのうちの若手社員3人だ。
稲作担当の真部譲(まなべ・ゆずる)さんは1986年生まれで、糸魚川市出身。飲食店や化学メーカーなどで働いた後、10年前に農業興舎に入社した。
農業を仕事に選んだ理由は2つある。1つは「やったことのない仕事に挑戦したい」と思ったこと。もう1つは「屋外の仕事をしたい」と考えたことだ。海洋高校で学んだので、漁業については授業を通してある程度の経験があった。それらを考え合わせると、農業という仕事が自然と浮かび上がった。

真部譲さん
真部さんは稲作を担当してまず「きれいな所だなあ」と感じたという。農業興舎の田んぼの多くは市野々(いちのの)という山あいの地域にある。田んぼの脇の用水路を澄んだ水が流れ、山の上の方に行くと海を遠望できる。昔ながらの茅葺(かやぶ)きの家屋も残っている。美しいその景観にほれ込んだ。
「人の温かさ」に触れたことも、この地域への愛着をいっそう強めた。農作業で困っていると、年配の農家がやってきて「どうした?」と声をかけてくれる。事情を話すと、「こうすればいいよ」と丁寧に教えてくれる。