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生産量世界一の農産物で海外進出! 海外で売れる商品作りに必要なこととは?

生産量世界一の農産物で海外進出! 海外で売れる商品作りに必要なこととは?

全国の農場を渡り歩いているフリーランス農家のコバマツです。今回は沖縄県大宜味村(おおぎみそん)でシークワーサーの輸出に力を入れているという話を聞いてやってきました。近年、農産物の海外輸出が注目されていますが、今回訪れた大宜味村では、沖縄県から輸出先として近い東南アジアをマーケットにしているとか。輸出先でも似たような作物が取れそうですが、現地の農産物とどのように差別化をしているのか。農産物を輸出する際のポイントについて、現地の生産者、流通業者、沖縄県に話を聞いてきました。

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農産物の輸出を目指してさまざまな取り組みが行われている沖縄県

政府は2030年までに農林水産物や食品の輸出額を5兆円にする目標を掲げています。そんな中、沖縄県ではマーケットが近い東南アジアへの輸出を促進する取り組みが行われているそうです。
人口減少や高齢化の影響で国内の消費が減少傾向にあるため、農産物の販路を海外に求めようという機運の高まりも感じます。しかし、どのようにすれば海外に販路を持つことができるのでしょうか? 
実際に、行政と地域商社、生産者が一体となって東南アジアに販路を広げることを目指す取り組みについて聞いてきました。

コバマツ

沖縄県では「県産農林水産物輸出体制構築事業」という事業をしていて、海外輸出に力を入れていると聞いてやってきました! 実際、どんな取り組みをしているのでしょうか?
この事業では、香港、シンガポール、台湾など距離的にも手続き的にも比較的輸出しやすい国を対象に、現地でのテストマーケティング支援やブランディング支援など、沖縄県産商品を国外で販売するための支援をしています。

沖縄県農林水産課

コバマツ

県でそんな取り組みをしているんですね! 沖縄県からはどんなものが輸出されているのでしょうか?
輸出となると、ある程度の生産量があるものでないと難しいので、事業の支援対象となる品目はもずく、マグロなどの海産物や、シークワーサー、紅芋、黒糖と限定されていますね。

沖縄県農林水産課

コバマツ

輸出するとなるとコストも手間もかかるから、沖縄という限られた場所である程度の量が確保できる品目ということで、限定されているんですね! 輸出先の国では実際どのような販促活動が行われているんですか?
沖縄の特産品を海外に送って、現地のインフルエンサーにPRしてもらったり、現地の有名シェフに調理して店で提供してもらうなど活用してもらったり。逆に、現地のシェフやバイヤーに沖縄県に来てもらって生産地を巡る産地ツアーを実施することで、沖縄県産品について知ってもらう取り組みもしています。

沖縄県農林水産課

コバマツ

海外相手にそこまでのことができちゃうんですね! でも、農家が「海外に農産物をPRしたい! 売りたい!」と言っても、いきなりそんなつながりは作れないと思うのですが……。現地とのコネクションづくりや販促はどのような仕組みになっているのでしょうか?
現地とつながりがある商社に輸出事業を委託して、現地での販促やPRをしてもらっているんです。

沖縄県農林水産課

海外に販路を持つためには

「生産者」「メーカー」「商社」がつながる新たな取り組み

早速、輸出事業を委託しているという商社、株式会社新垣(あらかき)通商をたずねてみました。

お話を聞いたのは、同社の常務取締役、新垣美佳(あらかき・みか)さん。

コバマツ

沖縄県産品の輸出事業をしていると聞いてやってきました! 新垣通商さんでは具体的にどのように事業を展開しているのでしょうか?
沖縄県産商品を香港や台湾に輸出する事業をしています。中でも、現在計画しているのは、大宜味村のシークワーサーを「生産者」「メーカー」そして私たち「商社」の3者の連携で香港に輸出する新しい取り組みです。

新垣さん

コバマツ

新しい取り組み⁉ ではこれまでは、どのような輸出体制だったんですか?
これまでの輸出の流れは、生産者はメーカーに農産物を卸して、メーカーが商品加工をする、それを商社が海外で販売するというものだったんです。
商社である私たちはメーカーとしかやりとりできなかったのですが、生産者ともつながることで、海外での商品のリアルな反応や、ニーズを伝えることができる。さらに、沖縄の生産者からは農産物の特徴や魅力を聞くことができて、より海外現地で商品の価値を伝えやすくなると感じています。

新垣さん

コバマツ

作り手・売り手がつながることで、生産者も海外ニーズを聞く機会が増え、生産意欲や技術の向上につながるんですね。それに、新垣通商さんも生産者が近いことでより販売やPRに力を入れることができそうですね!

大宜味村産シークワーサーとして海外に売り出すワケ

コバマツ

どうして大宜味村のシークワーサーに着目したのでしょうか?
大宜味村はシークワーサーの生産量が世界1位だからです。山ばかりで平地が少なく、農業がしづらい大宜味村ですが、自生していたシークワーサーを産業化したことで、いまではシークワーサーの生産量は沖縄全体の60%以上の出荷量を誇っているんです。

新垣さん

コバマツ

世界でシークワーサーを作っているのはほぼ沖縄だけですもんね! 
ほかにもシークワーサーに注目するポイントはありますか?
さらに、シークワーサーは「ノビレチン」という、健康に良いといわれている栄養成分の値が高いことから、台湾で注目されたのがきっかけで目をつけたんです。
沖縄は東南アジアに近いので、扱う商材も似ていて競合も多いんですが、そういった差別化ができる点があるのも商品として強いなと思いました。

新垣さん

シークワーサーの生産量世界1位の大宜味村は、3000人いる村民の1割がシークワーサーを栽培しているそうです

コバマツ

輸出するにはまとまった量が必要ということで、生産量が多いことが条件というのは前提として、「栄養価の値で差別化する」という視点も重要なんですね!
日本国内と海外では商品を売るにあたって重要な点が違ってくると思うんですけど、海外で売れる商品作りのために力を入れていることってありますか?
海外輸出用では、シークワーサーをジュースなどの加工品にして販売しています。日本人と現地の方では味覚の違いがあるので、味の調整も必要です。
また、パッケージデザインや包装もそれぞれ手に取りやすいものが違うので、そういったものも現地の方を交えてテストマーケティングしています。

新垣さん

現地のニーズに合わせた試作商品をテストマーケティングする

コバマツ

「いいものだから」「日本のものだから」という理由だけじゃ、やっぱり売れないですよね! 現地の人のライフスタイルや味覚に合う商品作りをしないとダメなんだ……。時間もコストもかかりそう!

日本の農産物を高く売ることを目指して

コバマツ

輸出には輸送コストがかかるだけではなく、新たに現地のニーズに合わせた商品作りをしなければならないなど、いろいろと手間やコストがかかるんですね。そこまでして輸出するメリットはやっぱりあるのでしょうか? 値段も高くなってしまって、現地の人に買ってもらえないんじゃ……?
むしろ、生産者の方には「高く売ること」を目指してほしいと思っています。今後国内需要は確実に減っていくので、海外に販路を持つということが大事になってくると思います。「海外に出すなら高くしないといけない。だから売れないんじゃないか」。そう考える生産者の方もいると思うのですが、日本のものは評価が高く、需要があります。少し高くても売れるんです。「国内で今まで売れなかったから売れない」ということはありません。海外で売れる可能性は十分あると感じていますね。

新垣さん

コバマツ

国内では人口減少、消費低迷、農産物の価格が上がらないという声が多いですが、海外の販路ではまだまだ可能性はありそうですね!
海外に向けて大宜味村産のシークワーサーの良さを訴え続けることで、さらに可能性が広がると考えています。海外に商品が認知され販路が広がっていくことで、商品と一緒に大宜味村という地域も認知されることになります。そのことで、外国人観光客が「沖縄県に行こう」となっていたのが「大宜味村に行こう」となるように、観光の目的地としても選ばれる地域になっていくと考えています。人が訪れることでシークワーサーの収穫や加工体験など、新たな経済循環も生み出せるのではないかと考えていますね。

新垣さん

コバマツ

商品の新たな販路開拓だけではなくて、農業を軸にした新たなビジネス展開につながる可能性もあるんですね! 地域にとってのメリットも大きそう!

海外販路で農家の課題解決にもつながる

大宜味村役場の産業振興課によると、シークワーサーは、数年ごとにメディアの影響などでブームになり一時的に生産者がもうかるものの、需要が頭打ちになると売れなくなるという波を繰り返してきたそうです。しかし今後は、輸出による販路拡大や、需要増加による価格の安定などにも期待を寄せています。価格が高いまま安定すれば、若い人も「シークワーサーはもうかるんだ! 自分もやってみよう!」と思うようになり、担い手も出てくるのではないでしょうか。

実際に大宜味村でシークワーサーを生産している松本政隆(まつもと・まさたか)さんにも話を聞きました。

松本政隆さん

コバマツ

大宜味村ではシークワーサーの輸出に力を入れようとしていますが、生産者の立場から、この取り組みに期待することや挑戦してみたいことはありますか?
沖縄県産のシークワーサーの加工品といえばジュースですが、大宜味村ならではのオリジナルの加工品を作って販売していきたいですね。例えばゼリーなどのスイーツを作るとか、独自性がある商品にすることができれば、取引価格も上がると思います。沖縄県内の他の商品と差別化することで、国内外から「大宜味村のものを買いたい」「大宜味村を訪れたい」と選ばれる地域になることができると思うんです。

松本さん

コバマツ

海外で自分が作った農産物を使った加工品が売れていたらかっこいいですよね! 国内では消費低迷といわれていますが、海外で需要があることが分かったら、若い人も可能性を感じて挑戦する人が増えそうですね!
そうですね! 地域にお金が落ちるだけじゃなくて、「自分も大宜味村で農業をしてみよう!」と思う若い人が出てくるんじゃないかという期待はありますね。大宜味村も高齢化が進んでいて、離農が進むと耕作放棄地が増えてしまいます。少しでもシークワーサー栽培に可能性を感じた若い人が挑戦する地域としても選ばれてほしいと思います。
大宜味村はシークワーサーが生産量日本一というのと、長寿日本一と宣言している村です。そこは切っても切り離せない関係だと思うので、農産物と合わせてそういった村の特徴もPRしていきたいですね!

松本さん

「海外に輸出すると手間もコストもかかって高価格になるため、海外で売るのは難しいのでは」。そう考える人も多いのではないでしょうか。しかし、今回の取材を通して、海外では日本の食品への評価が高く、国内では販売できないような高い価格でも、現地に合わせた工夫をすれば十分に販売できる可能性があると感じました。しかし、それを実現させるには生産者の努力だけではなかなか難しいのが実情。そこで、海外輸出のプロである商社が入ることで、農産物を海外で売れる商品にすることができるのだなと感じました。国内では農産物の価格が上がらないという声も多いですが、海外に目を向けることで、農家が利益を上げていく可能性があるのではないでしょうか。

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