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うまくいってる独立農家の共通点【ゼロからはじめる独立農家#60】

西田 栄喜

ライター:

連載企画:ゼロからはじめる独立農家

うまくいってる独立農家の共通点【ゼロからはじめる独立農家#60】

小規模農家の育成に特化した「コンパクト農ライフ塾」ではこれまで300名以上の卒業生を輩出し、講師のカリスマ農家も50名を超えています。その校長である「いもっちゃん」こと井本喜久(いもと・よしひさ)さんに、独立農家でうまくいっている人の共通点やうまくいくための心持ち、そしてネットワークの作り方について聞きました。

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■いもっちゃんこと井本喜久さんのプロフィール

農ライファーズ株式会社代表取締役。1974年広島県生まれ。東京農業大学を卒業するも広告業界に就職し、26歳の時に独立。2012年には飲食事業(フライドポテトとジンジャーエール)を始める。2016年、新宿駅直結のファッションビル屋上で都市と地域をつなぐマルシェを開催し、のべ10万人を動員。2017年、「世界を農でオモシロくする」をテーマにインターネット農学校「The CAMPus」を開設。2020年小規模農家の育成に特化した「コンパクト農ライフ塾」を開始。その後、出身地である広島の限界集落にUターン。使用されなくなった地元集会所や耕作放棄地などを活用し飲食・宿泊・農業などの事業を展開する「田万里家(たまりや)」を開業。

農ライファーズホームページ
田万里家ホームページ
井本さんの著書「ビジネスパーソンの新・兼業農家論」

ご縁の作り方

西田(筆者)

前回はいもっちゃんの農的暮らし実践までの道のりを聞かせていただきました。そんないもっちゃんは「コンパクト農ライフ塾」の校長としても活動されています。「コンパクト農ライフ塾」はオンライン塾なのですが、すごいのが講師陣。毎回よくここまでの人をそろえられるなと思っています。
SNSを活用したマーケティング、クラウドファンディングによる資金集めなど、今の時代はネットワークの広さが経営に直結する時代だと思っています。いもっちゃんはもともと広告業界にいて、ゼロから農家との人間関係を作ってきたとのことですが、まずはご縁の作り方を教えていただけますか。
人間関係は無理に探している感覚はなくて。僕はとにかく人が好きで、未来思考というか夢を語るのが好きなんです。初めて会う人にも理想ばかり語っちゃう。そんなことやってると周波数が似たような人たちとご縁ができてくる。
僕は意志のあるところに人は集まると思っています。一見ビックマウスと捉えられている人も自分の理想に向けて形にしようと頑張っていて、そんな人たちとは心でつながっている気がしている。それでそんな人かもと思ったら、勝手に会いに行って語り合う。そうするとまた面白い人を紹介してくれて、最終的に、現在講師をしてくれているカリスマ農家へのご縁につながっていきました。

いもっちゃん

ご縁づくり

カリスマ農家やさまざまな人とつながる、ご縁づくりの天才いもっちゃん

西田(筆者)

以前「友達の友達はみな友達だ。世界に広げよう、友達の輪!」が合言葉のTV番組がありましたが、それを地でいってる感じですね。
ただ当時はどの農家もいもっちゃんが構想していた「コンパクト農ライフ塾」がなんだか分からなかったでしょうし、そもそもいもっちゃんも何者かも分からない。断られたり不審に思われたりすることはなかったですか。
そりゃあたくさんありました。中にはSNSでブロックされた人もいたりもして。ただお願いするというより、とにかく自分たちの思いを伝えて、それで理解してもらえなかったら仕方ないかなと。

いもっちゃん

西田(筆者)

いもっちゃんでもそんなことが。私だったらかなりヘコみそうです。
それでもいもっちゃんから他人の悪口は聞いたことないので、そこはすごいと思っています。
もちろん否定されるとショックではあるけど、僕も自分のやりたいことに対して本気なので、その時はご縁がなかったと。でも「ありがとう」の気持ちを持っていると、この失敗から学ばせてもらったと思えて、次の農家とのコミュニケーションを円滑にする糧にできました。

僕は人間関係は自分の鏡だと思っています。そうして前向きに続けていると以前は拒否された人でも久しぶりにコンタクトとると、力になってくれたりすることもあります。

いもっちゃん

西田(筆者)

悪口や愚痴を言わない。いもっちゃんの場合はそれが自然にできているところがあるのでしょうが、そこを心掛けることは大切ですね。

最先端カリスマ農家たち

西田(筆者)

数多くの農家と会っているいもっちゃんですが、その中でも印象的な人、影響を与えられた人を教えていただけますか。
本格的に農家行脚(あんぎゃ)をはじめたのが2018年の初頭からですが、一番最初に会おうと決めていたのが、淡路島の菜音(ざいおん)ファームの代表である菅原伸悟(すがわら・しんご)くん、通称MUDO(ムドー)くんです。MUDOくんとの初めての出会いは僕が24歳、MUDOくんが20歳の時。その時MUDOくんは渋谷のClubのオーナーで、僕もよく遊びに行ってました。その後、音楽レーベルを立ち上げ、アーティスト、文化人のマネージメントをしていた。

そんな都会暮らしバリバリのMUDOくんが、3.11の震災をキッカケに淡路島に移住し農業をやりはじめたと聞き、驚きました。

実際に会って話した時に彼が「俺は農業ではなく農ライフやってんだ」と言っていて、僕はその時初めて「農ライフ」という言葉を聞きました。そして「暮らしの中になりわいをつくる」という感覚も衝撃的でした。
それからそんな農家を勝手に最先端カリスマ農家、またリスペクトを込めて“変態農家”と言うようになりました。

いもっちゃん

菜音ファームMUDOさんと

菜音ファームにて、いもっちゃん、MUDOさん

西田(筆者)

菜音ファームさんのことは以前からすごいと聞いていました。一度お話をうかがいたい、取材させていただきたいと思っていたのですが、いもっちゃんの話を聞き、あらためて思いました。

他にいもっちゃんに影響を与えた人はいますか。
あとは十勝しんむら牧場の新村浩隆(しんむら・ひろたか)さん。北海道十勝の酪農家で100ヘクタールの土地で120頭の牛を放牧して育てています。「自然と向き合い、牛を牛らしく育てている」という言葉に力強さを感じました。
新村さんが6次産業化で作ったミルクジャムは多数の雑誌に紹介されたりして大人気です。

牛乳を商品として売るだけではなく、酪農の文化を伝えたいというのにも感動しました。その時気づいたのが(しんむら牧場は)面積は大規模だけど、やってることは自分たちが目が届く範囲でコンパクト。そこから「コンパクト農ライフ」という言葉が生まれました。

その後は「コンパクトだけどすごい」ということを軸に、いろいろな農家に会いに行きました。今インタビューしてくれている西田さん、そして久松農園の久松達央(ひさまつ・たつおう)さんもその中のひとりです。

いもっちゃん

西田(筆者)

それは、ありがたく光栄です。
面積ではなく「やり方がコンパクト」っていいですね。私も「スモールメリット」「ミニマム主義」と唱えていますので、心から共感できます。

うまくいってる農家の共通点

西田(筆者)

そんなにたくさんのカリスマ農家に会われてきて、いもっちゃんが感じる「うまくいっている共通点」ってありますか。まずはいもっちゃんの中でうまくいっている農家の条件を教えていただけますか。
僕が考えるうまくいっている農家の条件は、ビジネスと暮らしが両立していること。そのうえで「楽しそう」「カッコいい」「健康的」「もうかっている」、この四つを兼ね備えている農家を探して会いに行きました。

いもっちゃん

西田(筆者)

そんな農家の共通点はありますか。
うまくいってる農家の共通点は三つあると思います。
一つ目はビジネスにおいて「ブランドを確立」していること。そして二つ目は「価格決定権をもっていること」。この二つは実際にはセットになります。三つ目は「暮らしを手の中においていること」。自分で暮らしをデザインできている人は軸がブレない。

いもっちゃん

西田(筆者)

「暮らしを手の中に置いている」とは、いもっちゃんの言語化のセンスがとても素敵ですね。
カッコいい農家の姿をどう言語化するかをずっと考え、表現する言葉を磨いてきました。カッコいい農家がいることを伝えたい。そのためには、どう素敵なのか、どこが感動するのかを言葉にしないと伝わらない。
そのことで農ライフが広がればと思っています。そしてそんなカッコいい農家に近づきたいと僕も思っています。

いもっちゃん

西田(筆者)

最後に農ライフを始めたい人に言葉をいただけますか。
「コンパクト農ライフ塾」の塾生に常々言っているのが、「どんなフェーズでも一歩踏み出そうよ!」ということ。そして「アクション(行動)を続けること!」です。

農的暮らしの中には常にやることがあり、アクションの連続。朝から作業があってキリがない。アクションしながら考え進んでいくことが必要。条件がそろってからと考えている人は一生できません。

ただ大切なのは出口を設定すること。未来を見据えながらアクションを起こしていくと失敗もするけどそこに通じる道が開けてきます。

いもっちゃん

農ライファーズプロセス

いもっちゃんが掲げる農ライフへのプロセス

西田(筆者)

時代そのものが大きく変化している中で、農家としてうまくいくなどの条件がそろうことはなかなかありませんよね。私もとにかくアクションしてきて今があると改めて思いました。コンパクトな農ライフを広めていく同志として、これからもよろしくお願いします。 

画像提供:農ライファーズ株式会社

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