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東京生まれのアーティストが、長野で畑を耕しながら発信するZ世代の農ライフ

sato tomoko

ライター:

連載企画:若者の農業回帰

東京生まれのアーティストが、長野で畑を耕しながら発信するZ世代の農ライフ

東京と長野県小諸市で2拠点生活を送り、同市で野菜やワイン用ブドウを作るのは、アーティストで実業家の武藤千春(むとう・ちはる)さん(28)です。人気ダンス&ボーカルグループを19歳で卒業して以来、アパレルブランドのプロデューサー、ラジオパーソナリティー、MCなどマルチに活動。農とは遠い世界で生きてきた彼女が、どうして畑にはまり、自身の農ライフを発信しているのか。これまでの歩みを伺いました。

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農家の困りごとを知りたかった

東京で生まれ育った武藤千春さんが、小諸市で2拠点生活を始めたのは、2019年12月のこと。東京から同市へ移住する祖母の手伝いのため往来し、アクセスの良さと暮らしやすさを実感して「東京で仕事をしながら小諸でオフを充実させたい」と考えてのことでした。

2拠点生活を始めて間もなく、新型コロナの緊急事態宣言が発令され、都内との往来を控えて仕事も小諸市でリモート対応する日々へ。図らずも同市で過ごす時間が長くなった武藤さんは、高校生の時から興味のあった家族のルーツ探しに着手しました。

戸籍謄本や除籍謄本を取り、資料を調べて、家族にゆかりのある土地で聞き込み調査をするなかで、隣の佐久市で1人で農業をする高齢の親戚がいることを突き止めました。話を聞きに訪ねてみると、親戚が暮らすエリアでは高齢化が進み、周囲には耕作放棄地が広がっていました。

少子高齢化、耕作放棄地問題など、日本の農村のリアルを目の当たりにした武藤さんは、自分に何かできることはないか考えずにはいられませんでした。SNSやネットが当たり前の世代が入り込めば、難しい課題も楽しくポジティブな方向に転換していけるのではないかと。

「それを親戚のおじいちゃんに話しても共通言語が少なくて、何ができるのか答えがもらえなかったので、自分で困りごとの数々を体験してみることにしたのです」と話す武藤さんは当時26歳。親戚の畑の隣りの土地を借りて、Youtubeやネットで野菜の作り方を見ながら20坪の小さい畑を始めたことが、農と関わる全てのきっかけでした。

武藤千春さん梅の収穫

畑仕事をする武藤千春さん近影

畑をやってみたら、まさかのドはまり

困りごとを知るという目的以外はノープラン。野菜が嫌いでろくに食べたことがなかった武藤さんが畑で野菜作り。想像していなかった展開が待っていました。

武藤千春さんトラクターに乗る

トラクターを駆る武藤さん

「スーパーに陳列されているような野菜が私にも作れて、食べたらちゃんとおいしくて、野菜はどんな味がするのか初めてわかりました。こうした発見に刺激を受け、イメージとのギャップの大きさで畑にはまってしまいました」と武藤さん。あれも作ってみたい、こんな体験がしたいという好奇心が、武藤さんを畑へと駆り立てます。

初めて畑を始めて2年、現在では小諸市に4カ所の田畑を構えています。そのうちの少量多品目の野菜畑(10アール)では、年間約30種類の野菜を作っています。ワイン用ブドウ畑(20アール)は耕作放棄地を仲間と共に耕し、2022年3月に赤白それぞれ3品種の苗木を植えました。今年(2023年)に入ってからは、3月に南高梅の畑(20アール)に苗木50本を植えたほか、農に興味のあるメンバーとコメ作り(10アール)も始めました。

武藤千春さんワイン用ぶどう定植

耕作放棄地を開墾したワイン用ブドウ畑に苗木を植える

基本的に畑仕事は一人ですが、多くの人と一緒に作業をすることもあります。例えば、ワイン用ブドウ作りではプロジェクトを立ち上げ、苗の定植は都内の友人らにも声をかけて、県内外から家族連れを含む約150人が参加しました。武藤さんのプロジェクトは常に、自分のやりたいことをSNS等で発信して、それを体験してみたい人たちが自由に集まるオープン参加型です。

武藤千春として発信する農ライフ

2021年には、農ライフブランド「ASAMAYA(あさまや)」を立ち上げました。武藤さんが作った野菜をはじめ、こだわりの農産品や加工品が並び、時には廃棄予定の規格外野菜等のレスキュー活動の場にもなるショッピングサイトのコンセプトは、作り手の存在を伝えることです。

ASAMAYAショッピングサイト

「ASAMAYA」のショッピングサイトには、武藤さんの視点と感性を生かした加工品やアップサイクル品も並ぶ

「スーパーで長野県産として売られている野菜の一つひとつは作った人が違います。なのにまとめて長野県産とされるのは寂しい気持ちがします。長野県産の野菜はおいしいよねと言われるよりも、武藤さんの作った野菜めっちゃおいしいと言われるほうがモチベーションが上がるし、畑をやってよかったと思います」と武藤さん。

もしも、気候変動などで露地栽培ができなくなり、技術の進化で産地にかかわらずおいしい野菜が作れるようになったら、何を基準に野菜を選ぶのか。武藤さんは「人」だと言います。だから、ASAMAYAで販売する商品は、この人面白い、突き詰めていてカッコいいなど、武藤さんが実際に会いに行って刺激を受けた人たちの生産物を集め、一緒に加工品などの商品作りをしています。

「農業をしている感覚は、今もないんです」と武藤さんは話します。地域や農家の課題解決の糸口を見つけるためではありますが、何よりも新しい体験や発見が楽しく、毎日の食が充実することに喜びを感じて畑に立っているそう。そういう暮らしの心地よさをシェアしたいという思いで、小諸の人たちと農ライフアンバサダーとして広報や情報発信をしたり、マルシェなどの活動をしたりしています。

ASAMAYAマルシェ

農と自然を感じるマルシェ「ASAMAYA MARCHE」をプロデュース

2022年5月に第1回をASAMAYA主催で行ったマルシェは、同年10月の第2回で3倍の規模になって地域の人たちと実行委員会を組織。武藤さんが実行委員長を務めています。

農ライフの多様な選択肢を伝え届ける人になる

農業や畑をやらなくてもできるのが農ライフです。例えば、かかりつけの農家から野菜を買ってみることも農ライフのアクションの一つです。武藤さんも自分で野菜を作りながらも、この野菜はこの人から買うという、かかりつけ農家が何人かいるそうです。

「とれたての野菜を作った人から直接買うのはすごく楽しい体験です。その人の話を聞いて、畑を見て、産地でいただくのはすごくぜいたく。農の見方が大きく変わると思います」と武藤さん。就農に向けた制度は充実していても、多方面で仕事をして畑もやるようなグラデーションで農を楽しむ人をバックアップする制度がなく、やってみたくても心が折られてしまう人がたくさんいるかもしれません。武藤さんは「いろいろなやり方を提案する人がもっと増えればいいですね」と言葉を続けます。

実際に体験しながら本当にいいと感じたものを伝え、選択肢が広がるものを届けられるようになりたい。自分の視点で農ライフを伝え届けるために、泥まみれで畑仕事をする姿がカッコよく見えました。

武藤さんがプロデュースする農と自然を感じるマルシェの第3回目「ASAMAYA MARCHE 2023」が、9月23日(祝・日)に小諸市のまちタネ広場/大手門公園(小諸市大手1-6)で開催されます。武藤さんのかかりつけ農家をはじめユニークな人たちが出店しているこのマルシェを、「農ライフをやってみたい、出店者に仲間入りしたいなどのアクションにつながる場にしたい」と抱負を語ってくれました。

ASAMAYAマルシェ2023

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