農家のパートナーから農家専用Webデザイナーへ。売り上げ3倍の情報発信方法【ゼロからはじめる独立農家#61】

公開日:2023年09月27日
最終更新日:
不安定な時代において、先々のキャリアを考えることはとても大切。それは農家も例外ではありません。農業の経験を生かしつつ、違う仕事をするという選択も可能でしょう。そんな農業の次のキャリア、「ネクストキャリア」を選んだからこそ、新たな農業の可能性を再発見できることもあるかもしれません。農家専用Webデザイン会社を立ち上げた女性も、10年間農家の妻として農業に携わった経験をもとに、農家の売り上げアップに貢献しています。会社を立ち上げた経緯、そして農家が情報発信で売り上げアップするコツを聞きました。
■ミキさんこと岩神美紀(いわがみ・みき)さんのプロフィール
1981年高知県生まれ。大学卒業後、呉服と宝石の小売店向けコンサル会社に勤務。その後、リクルートにて情報誌「ケイコとマナブ」の編集を担当。29歳の時に地元高知に戻り、コメとショウガを栽培する専業農家と結婚。自身も10年間農業に携わったのち、2022年に農家専用Webデザイン事務所 NoukaDesign を起業。ECサイトリニューアルで前年対比売り上げ3倍、SNSフォロワーを3カ月で5倍に増やす、など農家に寄り添うサービスを行う。
NoukaDesignのホームページ
岩神 美紀さんのX
岩神 美紀さんのインスタグラム
大手企業の編集者から脱サラし、農家と結婚
西田(筆者)
プロフィールを見ただけでも波瀾(はらん)万丈な人生を送られていますが、まずは農家と結婚するまでを聞かせてもらえますか。
呉服屋の娘として生まれ、大学卒業後は都内のコンサルティング会社へ新卒で入社しました。呉服と宝石の小売店を支援する関係で全国を飛び回ってました。フットワークの軽さや個人経営者と接するスキルはその時のたまものです。
その後リクルートに入社し、雑誌「ケイコとマナブ」の編集者になりました。「ケイコとマナブ」は趣味のおけいこ事から仕事に役立つ資格取得まで、さまざまなことをアドバイスする情報誌で、社内では読者の行動をうながすアクションメディアといわれていました。「好きを仕事にする本」というMOOK本のリニューアルを担当し、売上部数の改善をしたことで社内で表彰されたりと、充実してました。
ミキさん
西田(筆者)
そんな状況から、なぜ地元高知へ帰ることにしたのですか。
29歳の時、地元の友人の結婚式に参列し、そこでコメとショウガの専業農家の男性に出会いました。
仕事は充実していたのですが、実家の呉服屋が不渡りを出して大変だったこと、また年齢的に子どもを持つならそろそろ結婚しなきゃと思って、地元に帰ることを決意しました。
結婚した後も子どもが生まれるまで地元の出版社でライター業をしながら、実家の呉服屋を手伝いました。
ミキさん
西田(筆者)
ガッツリ農家になったのはお子さんが生まれてからとのことですが、農家としての日々はどうでしたか。
実際農家の嫁になると大変だと実感しました。日々本当に忙しくて、ゆっくり休めるのは9月の1週間程度。これまで経験した仕事とは全く違うことばかりでしたが、土を触り作物を手入れし、収穫した時の充実感はこれまでにないものがありました。
ケガをしたこともあったのですが、農業を嫌いと感じたことはなかったです。手伝ってるという意識もなく、自分がやりたいからやってると思っていました。
ミキさん

農家時代のミキさん
農家専用WEBデザイナーになったわけ
西田(筆者)
実際に農業に携わり、その大変さとやりがいの両方とも感じていたのに、今の仕事はWebデザイナーですよね。個人事業主として起業した経緯を教えてください。
嫁ぎ先の農家が大きな自然災害の被害を受けたことをきっかけに、経営的に大変になりました。
そこで、収入の助けになればと雑誌の世界に戻ろうと思ったのですが、すでに紙媒体は廃刊が続出している時代になっていました。それで、今からやるならWebだと。しかも在宅でできるWebデザイナーになろうと思いました。
Webに関しては全く知識がなかったのですが、高知県が主催していた「長期実践型Webデザイナー育成コース」を活用して勉強しました。在宅でオンライン学習できるのは今の時代ならではだと思います。
ただこういったこともすぐに収入につながることはなく……。そして、いろいろあって離婚することになり、農業からも離れました。
ミキさん
西田(筆者)
そうでしたか。それこそ収入を得なければならなくなったと思うのですが、就職しようとは思いませんでしたか。
最初は就職しようとしたのですが、私が住んでいるところではWebデザイナーの募集自体少なかったんです。あと、子どもがいるので会社勤務は16時までにしたかったのですが、そういった条件で受け入れてくれるところは皆無でした。
それなら独立するしかないかと。そんなに簡単ではないことは重々承知してましたが、たまたま新卒で入った会社の同期から仕事の依頼が入ってきて、少し自信がつきました。
そして高知県の起業セミナーに申し込み、ビジネスアイディアをブラッシュアップしていきました。
ミキさん
西田(筆者)
セミナー参加など実際に行動しているところがすごいですね。
私は「やるか、やらないか」ではなくて「やるか、やり尽くすか」だと思っています。
ミキさん
西田(筆者)
そんな「やるならやり尽くそう」という思いをもって、起業することにしたんですね。
でもなぜ農家専用にすることにしたんですか?
セミナーの中で本当にしたいことはなんだろうと。そこで農家の嫁として10年間本気で農業に向き合ってきた過去を改めて振り返りました。
農業は大変だけど楽しい。つらいけどやり方次第では稼げる。苦しいけどやりがいがある。
そんな農業の魅力を伝えることを手伝うことが、農業に対する恩返しになると思い、農家を支援する農家専用Webデザイン事務所 NoukaDesign を立ち上げました。
ミキさん

農家に寄り添う情報を自身のウェブサイトにて発信
情報の発信の仕方で売り上げ3倍に
西田(筆者)
2022年の12月に起業したミキさんですが、担当したコメ農家のECサイトでは売り上げが前年比で3倍になったそうですね。その農家さんのSNSのフォロワーが3カ月で5倍になったとか。どのように売り上げを3倍にしたのか、その内容を教えていただけますか。
クライアントのおコメ農家さんはSNSで情報発信を2年していたのですが、フォロワーのほとんどが農家で、売り上げにつながっていませんでした。
そこでどんな方に買ってもらいたのかとターゲットを設定。仮定した人に向けての情報発信をしてもらいました。そうしたところ少しずつ農家以外のフォロワーさんが増えてきました。
増えてきたところで無料プレゼントキャンペーンをしました。コメントを書いてくれた方は当選倍率が上がるといった仕掛けも。そうしたところ3カ月で先の売り上げが達成されました。
また個人だけでなく大きなところから依頼が入るようになったとのことでした。
ミキさん

ミキさんがリニューアルしたサイト
西田(筆者)
農家さんによってはインスタグラムは買ってもらうためキラキラしたもの、X(旧Twitter)は仲間に向けてと使い分けされている人もいますが、それは勝手な思い込みで、ユーザーさんはどちらも見てる可能性があります。
販売をしているのなら、どのSNSでもユーザーになる可能性がある人が見ていることを意識しないと、かえってマイナスになる場合もあります。
ミキさん
西田(筆者)
ミキさんのようなアドバイザーがいてくれれば、SNSの発信などについても客観視できるというわけですね。
ただ、自営業者として売り上げをアップさせたい農家もたくさんいる一方で、アドバイザーに相談すること自体、ちゅうちょしている人も多いかと。
私自身も農家をやっていたのでその気持ちはとても分かります。農家専用Webデザイナーと名乗っているのも、そんな人たちの精神的負担を軽減したい気持ちからです。
ですから、私は無料で農家さんからの相談を受けています。仕事に結びつけたい気持ちはもちろんありますが、それだけでなく、私もたくさんの農家の事情を知りたいので、農家の皆さんと話すことで私の助けにもなっています。ですので気軽に相談いただければと思っています。
ミキさん
西田(筆者)
そういう風に言っていただけるとうれしいですね。最後に農家、またパートナーの皆さんに伝えたいことはありますか。
大変なことも多いと思うけど、自分を変えられるのは自分だけ。やりたいことがあるならやってほしいと思います。人生100年時代、先は長いですしね。
あとは情報発信してほしい。情報を発信すればするほどつながりが増えて世界が広がります。
ミキさん
西田(筆者)
今回こうやってお話をうかがえたのもミキさんが情報発信していたからこそですよね。
これからも農家を支える存在として頑張ってください! ありがとうございました。