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急激に業績回復した評価制度と生産管理 大規模法人の職場環境とは【後編】

急激に業績回復した評価制度と生産管理 大規模法人の職場環境とは【後編】

大規模化農業法人には、社員が生き生きと働き、生産性の高い職場づくりが求められる。年間売り上げ50億円、グループ社員数約240名にのぼるグリンリーフ株式会社では、徹底的な生産性の見える化、独自の評価制度など数多くの工夫をしている。業績アップの秘訣は何か、代表取締役社長、澤浦彰治(さわうら・しょうじ)さんとマイナビ農業の横山拓哉(よこやま・たくや)が対談した。

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プロフィールは前編 をご覧ください。

評価制度の導入と生産性の見える化で業績回復

横山:グループ社員全体で240名弱の社員さんがおられるそうですが、管理はどう行っていますか。

澤浦:約6年前、会社の生産性がすごく悪くて赤字になったんです。そこで設備を整理しつつ、評価制度を導入しました。同時に毎月、業績検討会議を始めました。それまでは自分で業績を管理していましたが、各部門長に管理してもらうように変えたんです。数字、行動、計画、それらを全部結びつけたら、急激に業績が回復しました。

横山:社員に掲げているKPIを教えてください。

澤浦:全社で取り組んでいるのは、人時生産性(にんじせいさんせい)です。従業員一人が1時間でどれだけの利益を生み出しているかを示す指標で、以前は2200円ぐらいでした。今は3800円ぐらいで、今後は5000円を目標にしています。

横山:生産性を見える化するため、システムも作っていますよね。

澤浦:一人の作業員が1時間にどれだけの仕事をしたかが簡単に記録できる仕組みです。例えばホウレンソウの収穫を10人で行う時、一人一人の収穫量がどれぐらいかはなかなか把握できませんでした。ファームシステムによって個人の1日当たりの収穫量や、1時間当たりの収穫量を数値化できます。チームの生産性を測れる仕組みもあります。予定よりも多く収穫できたことがわかれば、私も割増賃金を支払うことができます。

幹部になる人材の共通点

横山:細部まで徹底的に数値に落とし込んでいることが素晴らしいです。社員はどんなキャリアパスを歩んでいくのでしょうか。

澤浦:それぞれの職場で違いますが、全社員共通で日商簿記3級を取ろうと言っています。簿記を持っている人は、見る目が違うんです。

横山:共通言語として成り立つということですね。

澤浦:他にも、殺菌管理主任技術者 や惣菜管理士 、衛生管理者 の資格を持っている人もいます。農場であればトラクターの運転免許など。自分の職場に必要なものを勉強してもらいます。それに関する費用は会社が負担しますし、評価にも反映します。

横山:自己研さんされる環境が出来上がっているんですね。グリンリーフさんは規模が大きいので、澤浦さんの右腕の育成も必要だと思いますが、どうされていますか。

澤浦:幹部の人たちには共通点があるんです。それは、「条件」で会社を選んでいない、ということ。
例えば、専務はうちに転職する際、希望の給与条件に応えられなかったんですが、それでも彼は「やりたいことがうちでできる」と入社してくれました。他の部長陣も同じ感じ。自分がやりたいことと、会社がやろうとしていることの共通点が合致しているから、力を発揮してくれるんだと思います。

横山:しっかりマッチングしているんですね。

澤浦:会社として重要なのは、社長がしっかりしたビジョンを掲げ、人に対しての考え方を持つことだと思います。絵に描いたようなきれい事のビジョンは誰も共感しません。現在の社会や歴史の中から出てきたビジョンや、泥臭いビジョンにみんな共感して来てくれます。そこがしっかりしていなければ幹部は育たないし、幹部になる人が入社してこないと思います。

農業法人の価値は「規模」より「顧客」

横山:澤浦さんのようにすでに大規模化を果たしている農業法人もありますが、今まさに伸びているところ、まだまだこれからのところもあります。どんなことを意識していくと良いでしょうか。

澤浦:法人の価値は、売り上げではなく、顧客がいるかどうか。自社の生産方針を理解して、再生産できる価格で買ってくれる人です。そして重要なのは顧客視点。小さな家族経営でも、お客さんがいて、しっかりしたサービスや商品を届けてリピーターになってもらうことで、その先に経営拡大があると思います。売り上げが50億円になったうちでも、そこをおろそかにしたら潰れるのは早いですよ。

横山:規模にかかわらず、顧客視点が重要なんですね。

澤浦:また、それぞれのビジネスモデルには、適正規模があると思います。例えばコンニャク業界は、全国の総体の売りが500億円ぐらい です。そこで1000億円稼ぐのは無理ですよね。適正規模がどこかを把握した中で顧客を開拓し、その中での占有率が高まれば、他社が新規参入する余地は少なくなります。だから最初から規模ありきでやっていく考え方は違う。うちが規模を大きくしているのは、以前の規模ではお客さんの課題解決ができなかったから。そこに応えるために工場を作ったりしているんです。だからどのお客さんと付き合っていくかで、それぞれのやり方は変わってくると思います。

横山:一社一社が、お客さんありきで頑張っていくことが必要なんですね。

これからの日本の農業

横山:農業の未来をつくっていくために、自治体や官公庁に期待することはありますか。

澤浦:私は青森や静岡で独立支援プログラムをやっているのですが、静岡県の職員が毎回出席しているんですよ。なぜか聞いたら「農家に寄り添ってやっていくためには情報を得て、いいものを広めていかなければならないから」と言うんです。静岡や青森の独立した仲間にも聞いてみたら、とにかく行政の人がよく来てくれると言うんですね。「困りごとがないか」「国や県の方針が出たけど、こんなことができるんじゃないか」とか、とにかくサポートしてくれるんだそうです。また行政の方が農家のところに行くことで、課題を持ち帰り、それをまた制度化するんです。その取り組みはすごいと思いました。

横山:顧客視点と一緒ですね。

澤浦:そういうことをやっていけば、日本の農業はどんどんよくなっていくと思います。例えば、静岡は本当に物事が進むのが早くて。「こういうことをやりたい」と言うといろんな情報を持ってきてくれたり、前向きに提案したりしてくれます。静岡の行政の方にすごいですねって言ったら「静岡は今お茶がダメになって、本当に危機的なんです。だから私たちが頑張らないと、静岡の農業ダメになっちゃうんで」って。行政の方が危機感を持って、一緒に作業着を着て畑に行っています。感動しちゃいました。

横山:最後に、澤浦さんが今後、日本の農業はこうあってほしいと思うことを聞かせてください。

沢浦:一人一人が自分のお客さんを持って、そのお客さんのために価値を届けられるような農業を考えてやっていけばいいと思います。誰かがやったからそれをまねしてやるという時代ではもうありません。見るべきはお客さんです。お客さんがどういうものを欲してるかということにターゲットを絞って、やっていくべきだと思います。

横山:ありがとうございました。

建設中の新工場を背景に。グリンリーフは現在も成長途中だ

(編集協力:三坂輝プロダクション)

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