農業者にフィットした「農業者年金」の加入条件とメリット
農業者年金は農業従事者のための公的年金制度です。国民年金だけでは足りないとされる老後の生活を保証する制度です。農業者年金の加入条件は3つ。農業者なら広く加入することができます。
●20歳以上、60歳未満(原則)
●年間60日以上農業に従事
また、農業者年金には、税制優遇、死亡一時金、国庫補助など、さまざまなメリットがあります。
●自分で決められる毎月の保険料(2万円~6万7000円)
※35歳未満で一定の要件を満たせば1万円から加入可能
●終身年金(80歳まで死亡一時金保証)
●納めた保険料は全額社会保険料控除の対象
●保険料補助制度(条件あり)
このように農業者に寄り添った農業者年金ですが、意外と知られておらず、加入にハードルを感じている方が多いようです。会社員から専業農家に転身し、就農17年目にして農業者年金に加入したという群馬県前橋市の農業経営者に、加入のきっかけと心境の変化を聞きました。
地域の後継者不足の力になる。会社員から専業農家を志す
山田高則(やまだ・たかのり)さん(53)を代表とする山田農園は、水稲と露地野菜の複合経営。家族三世代5人とパート6人が従事し、水稲(980アール)、麦(500アール)、タマネギ(100アール)、チヂミホウレンソウ(150アール)を生産しています。
高則さんは会社員を経て30代半ばで就農。17年が経った53歳で農業者年金に加入しました。きっかけは、息子の康平さん(24)の就農です。妻の真由美さん(53)も一緒に親子3人での加入を決めました。経営移譲を視野に入れ、自身が働けなくなったときの生活と、若くして農業を選択した康平さんの将来を思ってのことです。
もともと建設業の会社員だった高則さんは、土地改良で大型重機の運転に従事するなか、2004年に起きた中越地震の復興事業をきっかけに就農を決意しました。
「せっかく土地を元に戻しても後継者不足で維持できるかどうか」と、新潟県の農業者が不安を口にするのを聞き、地元の前橋市も例外ではないと思った高則さんは使命感に駆られずにはいられませんでした。
実家は兼業農家で両親が水稲栽培をしていましたが、専業農家として経営を成り立たせるために農地を拡大する必要がありました。高則さんはJA前橋市や近隣の農家に聞いて半独学で農業を勉強。1年目にいろいろな作物を試作して品目を選定し、2年目にそれらをスケール化させ、2006年に農業経営をスタート。当初は1ヘクタール未満だった農地は、隣、そのまた隣の所有者から依頼を受けて現在の規模、18.5ヘクタールまで拡大。地域の期待が窺(うかが)われます。
息子も会社員から農家へ。家族で頑張る支えに農業者年金
サラリーマンから自営業の農業経営者になった高則さんは、「経理や確定申告はやったことがなく、厚生年金から国民年金に切り替えて将来の不安もありました」と振り返ります。お金の管理や将来の備えも自己責任です。妻の山田真由美さん(53)がパート勤めを辞めて山田農園の社員第一号に。一緒にJAの勉強会に参加し、大型機械の免許も取って、二人三脚で農業経営をしてきました。
「私たちが40代のときは機械投資や災害もあり、農業資金が優先で年金を積み立てる余裕がなかったよね」と真由美さん。高則さんも「働けなくなったときの不安は常にありました」と話します。実は、就農2年目にJAの個人年金に加入しましたが、営農資金に充てるために貯金を切り崩し、個人年金も解約せざるを得ませんでした。
高則さんが農業者年金について知ったのは、前橋市の農地利用最適化推進委員の活動を通してのこと。「自分が農業者年金を推進する立場になり、改めて制度を勉強させてもらい、50歳を超えた私たちも入れるとわかりました」と高則さん。「息子は民間企業での厚生年金の加入期間も短く、国民年金だけでは不安です。私たちもようやく農業が軌道に乗り、これから息子と一緒に頑張っていきたいと思って加入しました」と言葉を続けます。
ひとり月々2万円で積立を開始。積立金額は2万円から6万7000円の間でいつでも1000円単位で変更できることも魅力でした。「心にゆとりができました」と笑顔の高則さん。これで安心して農業に打ち込めます。
将来への備えで、新たなチャレンジを後押し
高校時代にピザ店のアルバイトで食に興味を持ち、調理師学校を卒業して2年間、ホテルに勤めた康平さんは、山田農園では生産と販売を担当。自分用にも畑を借りてイタリア野菜等の栽培を始め、調理師の先輩や仲間の生産依頼も受けているそうです。
「できるなら若いうちから農業者年金に入ったほうが将来的に絶対いい」というのは、自身の経験を踏まえた父のアドバイス。積立期間が長いほど資産運用が長くでき、納めた金額にプラスして運用益が多く付いて受給できるのは本制度の特長です。
「父は重機オペレーターの経験から機械投資をして少人数で効率的な農業をしてきました。自分はまた違う経験則からできることを探していきたい。その手段が調理や加工だと思っています」と康平さん。六次産業化は父の夢でもありました。
高則さん自身は「息子が継いでくれるので、若い人の雇用を進めて持続的な農業経営をしていきたい。せっかく農業をしているので体が動く限り仕事を続けたいですね」と抱負を語ってくれました。
農業者年金は、農業者に一番身近でわかりやすく、将来の安心を支え意欲を後押ししてくれるというのが高則さんの実感。農業者なら入る価値のある公的年金制度です。
新井さん
(一般社団法人群馬県農業会議・新井 千尋さん)
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