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10年勤めた農業法人を辞め、農産物の販売支援会社を立ち上げ。サツマイモマニアとしても注目される女性起業家の素顔

10年勤めた農業法人を辞め、農産物の販売支援会社を立ち上げ。サツマイモマニアとしても注目される女性起業家の素顔

新潟県小千谷市で「農プロデュース業」を営む新谷梨恵子(あらや・りえこ)さんは、6次産業化のプランニングや農家の販売支援を行い、地元食材を使った農カフェも経営している。2017年の全国女性起業家大賞で最優秀賞、2023年には農林水産内閣祭内閣総理大臣賞などの輝かしい受賞歴を持つ一方、サツマイモマニアとしてTBSテレビ系列「マツコの知らない世界」に出演するなど多彩な顔を持つ。忙しく飛び回る新谷さんに、女性起業家としての道のりを聞いた。

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新規就農から農プロデューサーとして起業するまで

新潟県小千谷市を拠点に活動する新谷さんは東京都出身。東京農業大学を卒業後、結婚を機に新潟へ移住した。農業法人で10年間、栽培だけでなく販路の開拓やサツマイモを使った商品開発業務などに携わったのち独立。6次産業化のプランニングや農家の販売支援を行う「株式会社 農プロデュース リッツ」を立ち上げた。

現在は農林水産省が推進する「農山漁村発イノベーションサポートセンター」にプランナーとして登録。新潟県のほか福島県、群馬県、埼玉県、山形県のサポートセンターにも登録して活動している。

焼きイモソフト

新潟産の食材で作る「焼きイモソフトクリーム」

農作物のプロデュース業のほか、地元食材を使った「さつまいも農カフェきらら」を経営し、自らも店に立って接客する。人気メニューは新潟県産のサツマイモを使った「焼きイモソフトクリーム」だ。さらに県内外で講演活動を行い、テレビや地元紙など数多くのメディアにも出演する。そんな多忙な毎日を送る新谷さんにインタビューさせてもらった。

_____ご出身は新潟ではないのですね。

大学を卒業してまもなく結婚し、東京から新潟に移住しました。小千谷市内の農業法人に就職し、コメのほかスイカやメロン、アスパラ、トマト、ネギなどの野菜も作りました。この頃の就農経験が、現在の自分の基礎になっています。

____農業法人での就農から、どのように現在の事業経営に至ったのでしょうか?

10年間にわたる農業法人での経験から、規格外の農作物を活用したいと考えるようになりました。キズがある部分を切り落とせば問題なく使えるのに、収穫で多忙な時期に加工する余裕がないので丸ごと捨てる。あるいは収穫後の畑に落ちている日焼けしたような実はそのまま処分する、といった状況は、多くの農家さんが経験されていることと思います。「加工する手間をかけるより捨てる方がずっと効率がいい」という現状をどうにかできないか、規格外のものに付加価値をつけたい、という思いが強くなりました。

味は良いけれど規定サイズに満たない野菜は飲食店に卸す、収穫体験で活用するなど、さまざまな工夫を始めました。サツマイモは日持ちするので、冬の間に時間をかけて加工することもできます。試行錯誤しながらも規格外の農作物の加工、6次化に活路を見いだしていくうちに、周囲の農家さんからもいろいろな相談を受けるようになりました。

農カフェきらら外観

地元産の食材を使ったメニューを提供する「さつまいも農カフェきらら」

____それが独立するきっかけになったのですね。

農家は農作物を作るプロであって、販売や加工のプロではないんですよね。調理師の資格があり料理も大好き、そして人と話すことが好きで営業も苦にならない自分は、加工や販売の面で農家さんの役に立てると感じました。困っている農家さんを助けたいという思いが強まり、独立して始めたのが「農プロデュース業」です。2015年、37歳の時でした。農家さんを支援する事業のほか、大好きなサツマイモを使った「さつまいも農カフェきらら」も立ち上げました。

イモぽんソフト

イモ部分を電子レンジで加熱して食べる「イモぽんソフト」

もちろんサツマイモだけでなく、地元の食材を使ってランチやスイーツなどさまざまなメニューを提供しています。また、6次産業化プランナーとして、自分でも加工や販売を実践すべく、カフェで人気の「焼きイモソフトクリーム」を発展させた「イモぽんソフト」を開発しました。冷凍食品なので全国に販売・発送できます。

女性起業家としての道のり

カフェに立つ新谷さん

「農カフェきらら」の店内。テレビを見て県外から新谷さんに会いにくるお客様も多い

___お子さんもいらっしゃるとお聞きしましたが、経営と子育ての両立は大変だったのでは?

起業したのはちょうど子供たちもある程度大きくなり、乳幼児の頃に比べれば少し手がかからなくなってきた時期だったかもしれません。それでも受験や部活の送り迎えもあり、「私も仕事をがんばるからあなたは自分で受験がんばってね」と長男に言っていたくらいです(笑)。義理の両親やスタッフなど周りの人たちの力もたくさん借りたので、感謝の気持ちでいっぱいです。

____現在所属する13名のスタッフさんの中には、新谷さんと同じように子供を持つ女性もいらっしゃると伺いました。

さまざまなスタッフがいて、子育て中の女性や障害のある方も在籍してくれています。自分自身も2人の息子を育ててきて、思うように動けないこともありましたが、いろいろなサポートを受け、たくさんの人に助けられてどうにかやって来られました。子育て中の女性はもちろん、働きたい人が働ける環境を充実させていきたいですね。

_____テレビ出演も数多くこなされていますが、本業への影響などはいかがですか?

テレビに出た直後からお店に来てくださるお客様が一気に増えてびっくりしたこともあります。農プロデュース業に関しては、県外からの問い合わせも増えました。群馬や山形、福島などの近隣県にもよく出張しています。当初は新潟県内が商圏と考えていたのですが、新潟で一番遠い街まで行くよりも群馬県内の方が近いということも。商圏は柔軟に考えています。

また、企業や経済団体、ちょっと変わったところではお坊さんの記念式典などで講演をさせていただくこともあります。起業に関すること、農産品の普及に関することのほか、障害者雇用や農福連携の分野でも、アドバイザー・支援者としての役割が自分にはあると感じています。

また教育機関で講演をする機会も多く、楽しみながら取り組んでいます。食べることや農業の大切さ、好きなことを仕事にする方法、商品開発や売り方を考えるおもしろさなど、子供たちの年齢に合わせて話をしています。

自分がいなくても、事業が続く体制を

新谷さん

大好きな焼きイモを持つ新谷さん

____本当に幅広く活躍されているのですね。今後の展望を教えてください。

40代も半ばになり、次世代へ継承することを考えるようになりました。これまでは何でも自分が先頭に立ち、講演やテレビ出演なども宣伝になればと思い積極的にこなしてきました。今後は自分が引退しても事業を続けていける体制を少しずつ作っていきたいと考えています。

あまり垣根を作らず事業領域を広げてきましたが、これからは6次産業化プランニング・飲食店経営・EC等の販売支援・農家の人材派遣などと事業分野をしっかりと切り分けていくことも考えています。その方が人に任せやすくなりますし、無借金経営を心がけているので、いつか経営を譲る時にもそのまま事業継承ができたらいいですね。

そして誰もが働きやすい職場を作りたいです。今がんばってくれているスタッフのためにはもちろん、地域の活性化にもつながるといいなという思いもあります。
今は外に出ている二人の息子も、いずれ小千谷に帰りたいと考えているようです。いろいろな仕事があって、活気あふれる地域社会を作れたらいいですね。

____小千谷は魚沼産コシヒカリやへぎそば、錦ゴイなど特産品が多いイメージがあります。さらに地域が活性化していくといいですね。

農業インターンの受け入れもしているので、農業をやってみたい人、新潟に住んでみたい人はぜひ来てほしいです。インターン用の宿泊施設も整えていますし、農業といっても幅広く、冬でも仕事はあります。興味がある人にはどんどん来てもらえたらうれしいです。

農業インターン

農業インターンの作業風景。冬でも加工などの仕事がある

取材後記

女性起業家として数々の受賞歴を持つ新谷さん。常に先を見据え、課題解決のためにマルチタスクをこなすパワフルな経営者でありながら、人懐っこい笑顔がとても印象的だった。生き生きと楽しそうに話す新谷さんの笑顔に、一瞬にしてファンになってしまう人も多いだろう。強くてしなやかな農プロデューサー、新谷さんの挑戦は続く。

取材協力・画像提供 株式会社農プロデュースリッツ
「さつまいも農カフェきらら」Instagram:@satumaimocafekirara

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