青森県・三沢市ってどんなところ?
日本屈指のリンゴの産地として知られる青森県の東部に位置する三沢市。東に太平洋を臨み、県内最大の湖、小川原湖(おがわらこ)や、ラムサール条約湿地に登録されている仏沼(ほとけぬま)など、豊かな自然に恵まれています。また、米軍三沢基地があり、米軍人など約3.8万人が暮らす国際色豊かなまちとしても知られています。
三沢市は流通出荷量国内1位を誇る青森県の中でも有数の作付け面積を占めるゴボウをはじめ、斗南藩士・廣澤安任が開いた日本初の民間洋式牧場を持つ畜産業、好漁場を有する水産業と、多彩な農畜水産物を県内外に供給しています。
その三沢市で、繁殖農家を営んでいるのが今回の主人公、荒谷涼香(あらや・すずか)さんです。14歳で牛の魅力のとりこになって以来、畜産業一筋で農場を切り盛りする荒谷さんの現在地と今後の展望をたっぷりお聞きしました。
三沢市淋代地区で繁殖牛農家を営む荒谷さんのプロフィール
荒谷 涼香さん ・青森県三沢市出身の26歳 ・三本木農業高校を経て青森県営農大学校を2018年3月に卒業 ・同年秋に新規・独立就農 ・現在、10頭の繁殖牛を飼育 【繁殖牛農家とは】 |
畜産との出会いは14歳。迫力ある大きな牛の姿に圧倒!
「牛と初めて触れ合ったのは14歳の時です。母の知り合いの農場で見たその力強い姿を前に、あっという間にとりこになってしまいました」
と、話す荒谷さんは現在26歳。繁殖牛10頭を有する農場を経営する若きファーマーです。初めて牛と出会ったその日から、学校が休みのたびに農場に通い詰めた荒谷さんは、畜産を学ぶために三本木農業高校に進学、卒業後は青森県営農大学校でより専門的な知識を習得し、20歳の若さで新規・独立就農を果たしました。
「国や県の給付金制度や融資制度などを活用し、新規就農者として農場経営をスタートしました。高校と営農大学校で5年間にわたって畜産を学んだものの、経営に関しては全くの素人。右も左もわからない状態で不安もありましたが、支えになったのが師匠の存在です」
師匠と呼ぶ月館 啓三(つきだて・けいぞう)さんこそが、14歳の荒谷さんと牛を引き合わせたベテラン畜産家です。以来、畜産家になるためのキャリアパスを明確に示すと共に、農場経営全般をサポートしています。
「“困ったことやわからないことはなんでもサポートするからまずはやってみなさい。生き物相手の畜産業は経験こそが一番の財産だよ”と、背中を押してくれた啓三さんの言葉が何よりの励みになっています」
知識だけではどうにもならない人工授精の難しさに直面
師匠の支えがあったとはいえ、繁殖牛4頭からスタートした就農当初は順風満帆とは言えず、苦労したこともあったと荒谷さんは言葉を続けます。
「最も大変だったのが人工授精です。営農大学校時代に家畜人工授精師の資格を取得したとはいえ、知識だけではどうにもならない受胎の難しさをまざまざと感じました。
獣医さんに依頼をすれば受胎の成功率は高くなりますが、その分費用がかかります。経営を考えると自分で行うのが理想ですが、受胎に至らない場合は購入した凍結精液がムダになってしまいます。そのジレンマに悩んだ時期でもありました」
と、当時を振り返る荒谷さんは幾度かの失敗を繰り返し、現在は自ら人工授精をし、受胎も高確率で成功するまでに成長。年間10頭の子牛を出産、市場出荷9頭を基本に安定経営を目指しています。
「受胎しないと凍結精液がもったいないという理由で、血統があまり良くない安価なものを購入すると、生まれた子牛の市場価値が下がり、利益に反映されないこともあります。また、今、良いとされている血統の凍結精液で受胎しても、2年後の出荷時には傾向が変わっている可能性もあり、高値が付くとは限りません。それは難しさであると同時に、面白さでもあるのが畜産の魅力です」
難しさを面白さと感じるマインドこそが畜産業には必要であることを、自身の経験から語る荒谷さんは、勉強会に参加をしたり、血統構成について自らデータを取り寄せて学ぶなど、意欲的に情報収集をしています。
畜産業は人間の管理が8割。事故は自分の責任
「生き物相手の畜産業はセオリー通りには行かないため、経験を積むことが最も大切です。そのためにも牛としっかり向き合い、個体の特徴を把握し、管理することが求められます。牛を産むのは繁殖牛ですが、母牛、子牛を含め、良い牛をつくるのは人間です。いわば、畜産業は、8割以上が人の管理で成り立っていると思います」(荒谷さん)
万が一、母牛が病気になったり、ケガをした場合は受胎、出産が難しくなるため、機会損失を招きます。良い子牛を出荷するためには日々の健康管理が重要と荒谷さんは話します。
「食欲や糞の状態など、日々の観察を怠らないことで異常を察知することができます。牛の状況に合わせて粗飼料や配合飼料のバランスを調整し、必要に応じて投薬をすることもあります。愛情を持って接することはもちろん、牛の健康も良い子牛を生ませることも全ては私の自己責任のもとに成り立っています」
畜産業は決してきれいな仕事ではありません。まして、牛はペットでもありません。その事実としっかり向き合い、命を育てることの大切さを荒谷さんは教えてくれました。
畜産業の1日〜荒谷さんの場合〜
生き物相手の畜産業は、どのようなスケジュールになるのか、気になる方も多いことでしょう。荒谷さんの1日から、その疑問を解説します!
時間 | お仕事内容・時間の過ごし方 |
---|---|
6:00 | 起床 |
7:00〜9:00 | 牛舎で給餌、清掃、牛の健康観察 |
9:00〜15:30 | フリータイム
朝の仕事を終えると基本的には自分の時間です。場合によっては市場の手伝いをすることもあります。 |
15:30〜18:00 | 牛舎で給餌、清掃、牛の健康観察
出産日が迫っている母牛がいる場合は状況を把握し、早朝や深夜でも駆けつけることもあります。 |
“畜産業は自分の時間を取ることができない”と、負のイメージを抱かれがちですが、荒谷さんのスケジュールを見ると、9:00〜15:30を自分の時間に充てることでワークライフバランスを保っていることがわかります。
荒谷さん
若い世代が当たり前に畜産業を営む未来をつくりたい
「就農6年目を迎えましたが、つくづく思うのは、営農への考えが甘かったということです。人工授精や血統構成など技術や知識の他、経営に関する考えにおいてもまだ未熟です。
私の場合、師匠や先輩たちのサポートでなんとか乗り切ることができています。この経験を新たに畜産業を目指す方に伝え、助け合うことが私にできる恩返しだと思っています」(荒谷さん)
20代で農場を経営する荒谷さんを、地域農業を担う若きリーダーとして期待する声が、時にはプレッシャーに感じることもあると本音を語ります。
「若い人がやっていることが珍しいのではなく、当たり前になることが理想です。そのためにも自分がロールモデルになれるよう、良い牛をつくり続けることが目標です」
と、愛おしそうに牛の世話をしながら真っ直ぐな視線を向ける荒谷さん。その姿からは畜産への情熱がひしひしと感じられます。畜産を志す人にとって荒谷さんの存在は励みとなり、大きな目標になることでしょう。
畜産家を目指すなら、青森県での農業体験がおすすめ!
荒谷さんのように畜産家を目指す方に向け、青森県では農業体験によるインターンシップ制度を実施しています。体験では畜産農家のもとで実際の仕事を学びながら具体的な就農イメージを描くことができます。
/
限定5名募集!
エントリーは2024年2月末まで!
\
■体験できる業種:酪農、肉用牛繁殖、肉用牛肥育
■体験内容:エサやり体験、牛舎の掃除体験、子牛のお世話体験 など
■体験期間:12月〜3月で2泊3日での体験となります(基本的には、月~金曜日)
■詳細はこちら
■お問い合わせ■
青森県農林水産部畜産課 経営支援グループ
青森県青森市長島一丁目1-1
TEL:017-734-9496
FAX:017-734-8144