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農家民宿とは? メリット・デメリットや始め方を農家民宿経営者が解説

農家民宿とは? メリット・デメリットや始め方を農家民宿経営者が解説

農家民宿を始めてみたいけれど、いったい何から手をつけていいか分からない、お客さんが実際にやってくるのか、など疑問や不安をお持ちの農家の方も多いのではないでしょうか。本記事では鹿児島県で農家民宿を経営する筆者が、そもそも農家民宿と何なのか?というところから、農家民宿を開業するための手続きや、集客方法などについて詳しく解説していきます。開業のメリット・デメリットについても、体験談を交えて詳しく紹介していますのでぜひ、参考にしてみてください。

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農家民宿とは?

農家民宿(農林漁業体験民宿)は、農山漁村滞在型余暇活動のための基盤整備の促進に関する法律(略称「農山漁村余暇法」)に定められており、農林漁業者およびその組織する団体等が営業し、主として都市の住民に対して農林漁業に関する作業体験、農林水産物の加工又は調理体験、農山漁村の生活および文化に触れる体験等を提供できる宿泊施設をいいます。(引用:福井県「農家民宿の開業に向けて」

農山漁村余暇法における農家民宿の定義

農山漁村余暇法では「農家民宿(農林漁業体験民宿)業とは、施設を設けて人を宿泊させ、農林水産省令で定める農山漁村滞在型余暇活動に必要な役務を提供する営業をいう」と定義されています。

ここでいう必要な役務とは、農作業の体験指導、農産物の加工または調理の体験指導、地域の農業または農村の生活および文化に関する知識の付与などがあります。

農家民宿と農家民泊の違い

「農家民宿」と「農家民泊」。混同しがちですが、それぞれ異なる法律に基づいており、意味合いが異なります。

「農家民泊」は住宅宿泊事業法(民泊新法)に定める届出を行うことで営業できるもので、比較的開業のハードルが低いのが特徴です。「宿泊費」としてではなく、「体験料・指導料」としてお客様から代金を受け取ります。

一方、「農家民宿」は旅館業法に定められた営業許可を取得して開業となり、「宿泊費」として代金を受け取ります。旅館業法以外に、都市計画法や建築基準法などさまざまな法律が関係してきます。農家民宿に関連する法令については、後ほど詳しく解説します。

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農家民宿とグリーン・ツーリズムの違い

茶畑

筆者が住む鹿児島県南九州市頴娃町の茶畑

農家民宿については前述した通りですが、似たような意味合いの用語で「グリーン・ツーリズム」もあります。グリーン・ツーリズムとは「農山漁村地域において自然、文化、人々との交流を楽しむ滞在型の余暇活動」と定義されています。つまり、グリーン・ツーリズムの滞在拠点が農家民宿であるといえるでしょう。

農家民宿を始めるメリット

農家民宿を始めるメリットとして、自宅の空室などを活用し手軽に開業することができるほか、宿泊客との交流を楽しみながら、副業として収入を得られるので所得向上につながる点が挙げられます。また、宿泊を機に自身の農作物のファンになってもらうことで、本業である農業にも良い効果が期待できるほか、来訪者が増えることで地域のにぎわいづくりに寄与できるなど、さまざまな利点があげられます。それぞれ、詳しく解説します。

必要最低限の投資で始めることができる

宿泊客用の建物を新たに取得する必要はありません。自宅の一室を客室とし、トイレや洗面所などの設備を旅館業法の基準に満たすことができれば営業許可を取得することができます。ただし、宿泊客の安全のため消防法に定められている火災報知器等の設置が義務付けられているなど、各種法令を順守する必要があります。

宿泊者と交流できる

農業をしているだけでは出会えない都心部在住の方や、学生などさまざまな人との交流を図ることができ、より豊かな人生を送ることができます。宿泊施設なので、滞在時間が長い分、深い交流関係を築くことができ、一度宿泊した客がリピーターとして再度訪れてくれる場合もあります。

地域の活性化につながる

地域のありのままの日常を体験することができる農家民宿では、受入れる側も過度なおもてなしをする必要がなく、無理なく続けることができます。また、インバウンドを含む国内外の観光客を農山漁村に呼び込み、地域の所得向上と関係人口創出に寄与します。

農家民宿を始めるデメリット

農家民宿を始めるデメリットとして、許可を取得するのにさまざまな法律が関係していて理解するのが難しいほか、さまざまな人が訪れるのでトラブルが起こる場合があるという点が挙げられます。それぞれ、詳しく解説します。

許可取得のための手続きが必要

農家民泊と異なり、農家民宿は旅館業法にのっとって許可を取得する必要があります。建物の改修などが必要な場合もあり、想定していたよりも多くの投資が必要となる可能性もあります。また、旅館業法以外にも消防法や建築基準法など留意するルールが多くあり、申請手続きを煩雑だと感じる人もいます。

宿泊者とトラブルが生じる可能性もある

いろいろな人が訪れるので、こちらが想定していなかったような問題が生じることがあります。

備品の破損、禁煙スペースで喫煙するなどのルール違反、駐車場以外の無断駐車、夜間に大きな声で騒ぐなど近隣への迷惑行為などが起こった場合、適切に対応していく必要があります。

近隣住民や農家からの理解を得なければいけない

自分の暮らす街に不特定多数の人が訪れることをよく思わない住民も一定数必ず存在します。開業する前にはきちんと説明を行い、宿泊者に対して迷惑行為を行わないようにしっかりと案内する旨を伝え、不安を和らげる必要があります。また、同業者である農家にも開業することを伝えておく必要があります。農業体験などで協力を仰ぐ場面も出てくる場合があるため、開業前に相談しておく必要があります。

農家民宿に関連する法令

農家民宿を開業するためには、旅館業法、都市計画法、建築基準法、消防法をはじめとした各種法令にのっとった手続きが必要です。関係する法令が多岐にわたっており、スムーズな許可手続きを進めるため、関係機関への事前相談が必要です。それぞれの法令について紹介します。

旅館業法

旅館業法において、農家民宿は主に簡易宿所営業に分類され、開業する場合は旅館業法第3条による「旅館業営業許可」が必要であり、許可を受けるためには、客室・浴室・洗面設備・便所等、定める基準に適合する必要があります。簡易宿泊所営業の場合、客室は宿泊客1人につき3.3㎡以上の面積が必要ですが、簡易宿泊営業で新規に開設する農家民宿の場合は客室面積の大きさは自由になりました。また、施設の場所から周囲100m以内に、学校、児童福祉施設等がある場合は、許可されない場合があります。

都市計画法

都市計画区域の用途地域が指定されている場所では、民宿等の旅館が開業できない地域があるため事前に確認する必要があります。

建築基準法

農家民宿の開設にあたり、既存住宅の一部を民宿として使用する際、民宿として使用する部分の床面積の合計が200㎡を超える場合は建築確認申請が必要で、既存住宅の改修・増築等をする場合は、建築確認申請が必要となる場合があります。ただし、住宅の一部を農家民宿等として利用するもののうち、客室の床面積の合計が33㎡未満であって、各客室から直接外部に容易に避難できる等避難上支障がないと認められる場合は建築基準法に該当しません。

消防法

旅館業の営業許可申請を行う際には、許可申請書に所管の消防本部が発行する「消防法適合通知書」を添付する必要があります。これは民宿の開業にあたり、消防用設備等の設置の状況や防火管理者の状況が消防法令の基準に適合しているか確認するものですが、一般住宅扱いとなる場合は、この規制の対象になりません。農家民宿の用途に供される部分の床面積の割合が、50㎡を超える場合、または住宅全体の2分の1以上となる場合は旅館扱いとなり、自動火災報知機設備の設置が必要となります。また、誘導灯・誘導標識の設置を求められる場合もあります。じゅうたんやカーテンは防火製の製品を用いなければなりません。

水質汚濁防止法

旅館業法に基づく旅館業の許可が必要な場合は、厨房(ちゅうぼう)施設、洗濯施設及び入浴施設が水質汚濁防止法に基づく特定施設に該当します。営業開始もしくはそのための改修工事のおおよそ2カ月前までに特定施設設置届出書の提出が必要となるので、農家民宿開業を決めたら早めに保健所に相談したほうがいいでしょう。

浄化槽法

建築基準法で農家民宿として規制緩和対象となる規模(客室延床面積33㎡未満)のものについては、浄化槽は「住宅」としての人員算定となりますが、客室延床面積が33㎡以上の場合は、浄化槽は「旅館」としての算定が必要となり、変更工事が必要になる場合があります。なお、人槽算定はJIS規格で定められています。浄化槽を設置する場合は、市町村への届け出が必要となります。

食品衛生法

農家民宿で食事を提供する場合は、「飲食店営業許可」が必要です。ただし、素泊まり式、自炊式、宿泊者との共同調理を行う場合は「飲食店営業許可」は必要ありません。なお、営業許可を受けるためには、原則として専用の調理場(家庭用とは別場所)が必要となります。

農地法

農地法は、耕作者の農地の取得を促進するとともにその権利を保護し、農地の効率的な利用を進めるために、重要な役割を果たしています。農地の転用には許可が必要です。農地の転用とは、農地を住宅等の建物敷地・駐車場・資材置き場などの用地に地目を変更することです。農地利用変更届は、市町村の農業委員会に申請を行います。

道路運送法

農家民宿が、宿泊サービスの一環として無償で行う送迎輸送は原則として許可対象外であり、道路運送法上の問題はないことが明確化されています。ただし、送迎に係る料金を徴収したり、送迎を利用する客と利用しない客との間に宿泊料金に差を付けたりする場合は、道路運送法の営業許可の対象となります。

旅行業法

旅行業登録をしていない団体などが報酬を得る、不特定多数を募集するなどの行為をすることは旅行業法違反となりますが、農家民宿が自ら提供する運送・宿泊サービスに農業体験を付加して販売・広告することは、旅行業法に抵触しません。

酒税法

酒類の製造及び販売業については、免許制度が設けられており、免許を受けようとする者は製造場または販売場ごとにその所在地の所轄税務署長に申請を行い、免許を受けなければなりません。また、酒類の製造者は、酒税の納税義務が発生します。酒税法では、17品目の酒類について大きく4種類に分類し、それぞれの種類に応じた従量税率を適用することとしています。

農家民宿を始めるには? 開業の流れと必要な手続き

暮らしの宿福のや、

筆者が経営する農家民宿 「暮らしの宿福のや、」

農家民宿開業を決意したら、宿のコンセプトの設定、必要な設備の設置・改修、許可取得のための手続き、体験プログラムの開発、集客のための広報活動など多岐にわたる作業をする必要があります。よりスムーズに開業するため、開業までのスケジュールや、やることリストを作成するといいでしょう。

構想を立てる

経営スタイルを明確化する

農家民宿にはさまざまなスタイルがあります。素泊まりなのか、食事を提供するのか、どんな体験メニューを提供するかなど、自分自身や家族にとって最もふさわしく、無理のない経営スタイルを考えます。経営スタイルを初めに定めることで、必要な設備の設置や改修、体験プログラムの開発をスムーズに行うことができます。

宿のコンセプトを決める

宿のコンセプトを明確にすることで、メインターゲットが定まり、そのターゲットに合わせた客室や体験プログラムをミスマッチなく提供することができます。

資金計画や収支計画を立てる

収支計画を立てることで、逆算して設備改修などにどれくらい費用をかけられるか検討がつくので開業前に立てることが必要です。

構想検討シートを作成する

とうもろこし畑

筆者のとうもろこし畑

どんな農家民宿にするか、構想を練るために構想検討シートを作成します。シートの項目としては以下のようなことが想定されます。

客室数・体験メニュー・食事の提供方法・送迎の有無・建物(既存建物か新築か)・宿泊料金・予約方法(OTA活用するか)・宣伝方法

手続きを進める

開業にあたり関わる法令に合わせた相談窓口が何カ所もあり、それらの相談・手続きを同時に進める必要があるため抜け漏れが出やすくなります。どの窓口にどのタイミングで行けばいいかなど、農家民宿開設のためのチェックシートを作成するといいでしょう。
シートの項目としては以下のようなことが想定されます。

旅館業許可申請(保健所)・飲食店営業許可(保健所)・建築確認申請(建築の行政機関)・消防法令適合通知申請(消防署)

開業を決めたら、まずは最寄りの保健所や消防署に図面を持参し早めに相談しましょう。改修後に相談に行くと、消防法上不適合で改修のやり直しを求められてしまう場合などもあるためです。

宣伝方法を検討する

宿のコンセプトに合ったターゲット層の集客を図るため、WebサイトやSNSの開設、リーフレットを作成します。予算があれば、宿のロゴデザインを作成するとサイトやSNS
のアイコン、オリジナルグッズの作成時に大変役に立ちます。

農家民宿の開業

許可が取得でき、人員体制等も整えばいよいよ開業です。初めは予約受付や接客で戸惑うこともあるかもしれません。他の農家民宿のオーナーに相談、先進事例などを参考にすると良いでしょう。

農家民宿を成功させるポイント

農家民宿を開業したけれど、思うように集客がうまくいかないという声も耳にします。
私自身が宿を経営する上で心掛けていることを紹介します。

必要な情報をきちんと発信する

宿泊客にとって農家民宿は観光地にあるようなホテルや旅館と比べると予約のハードルが高い宿です。なぜかというと、宿泊する前に得られる情報が圧倒的に少ないからです。長時間過ごす場所の様子(内装や洗面設備等)、アメニティーなど、事前に伝えられる情報は全て開示することが必要です。可能であれば受け入れるオーナーの紹介もあれば安心感が増します。また、予約や問い合わせ方法が電話のみとなると、問い合わせをちゅうちょし予約につながらないケースもあります。メールや公式SNSを開設することが効果的です。

「古い」と「汚い」は違う。心地良い空間を提供する

自宅の一室を農家民宿として開業する場合でも、宿泊客はきちんと宿泊料を支払っているので、清潔で安心して過ごせる空間を提供することが必要です。開業している施設の中には築年数が長く古い建物もあります。多くの経営者が「古い」ことを問題だと感じていますが、「古い」はそんなに問題ではなく、「趣がある」「懐かしい」など好意的に捉えられる場合もあります。古い・新しいではなく、清潔かどうかが最も大切です。お客様も利用する洗面所に自分や家族の私物を広げたままにしない、清掃を徹底的に行うなどが必要です。当たり前のことですが、案外できていないケースが多くあります。

他の農家民宿との差別化を図る

西洋にんじん

筆者が栽培する西洋にんじん

農家民宿に泊まりたいと思う方は、田舎暮らしや農業に興味のある方がほとんどです。どの農家民宿のHPやパンフレットを見ても、同じような文言や体験メニューが並び、宿泊する方からすると一体どの宿に泊まればいいのか分かりにくいこともあります。「田舎暮らし体験」や「農業体験」など抽象的な表現はさけ、地域の特色が伝わる内容や、「〇〇地域の伝統野菜〇〇を収穫する」など、その地・その宿でしか体験できないことを強調し、発信し、この宿に泊まりたいと思わせることが必要です。

農家民宿を始める際によくある質問

農家民宿を始めたいけれど多くの投資が必要なのではないか、実際にお客様は来るのかなど不安な思いをよく耳にします。実際によくある質問をまとめました。

一泊あたりの宿泊費の相場はいくらですか?

農家民宿の料金は一泊二食付きで6500円~1万円台が相場です。ただし、体験メニューで付加価値をつけ宿泊費を上げる、もしくは素泊まりで気軽に泊まれるように宿泊費を下げるなど、経営スタイルに応じて設定することができます。

消防法上の取り扱いについて

農家民宿の用途に供される部分の床面積の合計が、一般住宅の用途に供される部分の床面積より小さく、かつ、民宿等の用途に供される部分の床面積の合計が50㎡以下の場合は一住宅扱いとなり、消防法の規制対象外になります。ただし、寝室・階段・台所等に住宅用火災報知器の設置が必要です。民宿等の用途に供される部分の床面積が50㎡を超える場合は旅館扱いとなり、規制対象となり自動火災報知設備、誘導灯、誘導標識等が必要になり、適合通知を受けることになります。

農家民宿が農家にもたらすものとは

ここまで農家民宿開業におけるメリットやデメリット、また開業までに必要な手続き等について紹介しました。農家民宿の経営は自身や作物・加工品等のファンを増やすきっかけになります。農業だけでは得られない充実感や喜びを感じ、暮らしを豊かにするだけではなく副収入にもなります。今後インバウンドの地方誘客や消費拡大に向けた観光コンテンツの一つとして農家民宿はますます注目されることでしょう。これをチャンスと捉え積極的に取り組んでみてはどうでしょうか。

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