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石灰肥料とは?使い道や効果、使用上の注意点について農家が解説

鮫島 理央

ライター:

石灰肥料とは?使い道や効果、使用上の注意点について農家が解説

作物の栽培に必要不可欠な石灰肥料。しかし一口に石灰肥料といっても、原料や作り方によってさまざまな種類があり、特徴や効果も異なります。一体どの資材を使ったらよいのかわからないという方も多いのではないでしょうか。本記事では、石灰肥料の種類や使い方、効果や危険性についても詳しく解説していきます。石灰肥料の選び方や正しい使い方を覚えることで、より良い土壌環境を作れるようになりますので、ぜひ参考にしてください。

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石灰肥料(石灰資材)とは?

石灰肥料は、土壌のpHを調整するために使われます。日本の土壌は雨や土の性質の関係で、酸性が強い傾向にあります。また、作物を同じ場所で長期間栽培していると、段々と土壌が酸性に寄っていくこともわかっています。

一般的に野菜は、中性から弱酸性の土壌を好みます。酸性やアルカリ性に偏りすぎてしまうと、うまく育たなかったり、病気がちになったりしてしまいます。
石灰を適切に使用し、作物の栽培に適した土壌環境を整えていきましょう。

石灰の原材料や主成分

石灰は主に天然の炭酸カルシウムから成り、石灰岩やサンゴなどが原材料です。これらは海中で二酸化炭素と生物の遺骸が結合し、長年にわたり堆積(たいせき)して形成されます。

また、カキの殻や卵の殻から作られた石灰肥料も販売されています。カルシウムを主成分とするため、土壌改良材として広く利用されています。
卵の殻で作る肥料は自作も簡単なので、自分で作ってみてもよいでしょう。

石灰肥料を使う意味とは? 主な役割・目的

石灰肥料を使うとどのような効果があるのでしょうか。石灰肥料の主な役割や、使用目的について、次のポイントをしっかり押さえましょう。

  • 土壌のpH調整
  • 病害虫の防除や消毒
  • 作物の栄養補給

それぞれ詳しく解説していきます。

土壌のpH調整

日本は降雨量が多く、土壌中に含まれるアルカリ分が水に流されてしまいます。また、雨自体も弱酸性なので、土壌酸度(pH)が酸性に傾いていってしまいます。
しかし、多くの作物が中性の土壌を好むため、pH調整をせずに栽培するとうまく育たないこともあります。
そのため、石灰肥料を使って土壌のpHを調整することが重要になります。

病害虫の防除

石灰肥料は土壌のpHを調整するため、病原菌の消毒と害虫防除に効果的です。多くの病原菌や害虫は酸性の土壌で繁殖しやすいため、土壌をアルカリ性に近づけることで病害虫の防除ができます。ただし、土壌を過度にアルカリ性にするとミネラルの吸収不良や生育障害を引き起こす可能性があるため、作物に適した土壌酸度に調整することが重要です。

作物の栄養補給

石灰肥料はカルシウムを豊富に含むため、作物の生育に必要な栄養補給に役立ちます。カルシウムはトマトの尻腐れや白菜の芯腐れ、ネギの葉先枯れなど、特定の栄養不足に起因する病気を防ぐのに重要です。作物はカルシウムを内部で移動させるのが難しいため、土壌から直接補給する必要があります。

主な石灰肥料の種類と効果

石灰肥料と一口に言っても、原料によって種類が異なり、それぞれに特徴があります。
詳しく解説していきますので、ぜひ参考にしてください。

種類 アルカリ分 特徴
生石灰 80% アルカリ性が非常に高いが、肥料には不向き。水に触れると高温になるため、管理にも注意。
消石灰 60% アルカリ性・速効性が高い。肥料として使う際は、使いすぎや施肥の時期に注意。
炭酸カルシウム 50% 石灰岩を粉末状にしたもので、緩効性。水に溶けない。
苦土石灰 50% 緩効性で肥料としてよく用いられる。マグネシウムも含まれており、野菜栽培に最適。
有機石灰 50% カキの殻や卵の殻で作られている。有機栽培で使うことができるほか、家庭菜園などにも向いている。

生石灰

石灰岩を1000℃で加熱すると生石灰が生成されます。この生石灰に水を加えると消石灰に変わり、反応時に数百度の高温を発生させます。そのため、濡れた手での接触や誤って目に入ると大変危険です。この性質から、生石灰は園芸や家庭菜園での使用には適しておらず、扱いには細心の注意が必要です。

消石灰

生石灰に水を加えて発熱が治まったものが水酸化カルシウムを主成分とする消石灰です。これは速効性があり、土壌のpHを急速に改良するのに適しています。以前はグラウンドの線引きにも使用されました。アルカリ分が強いため、使用する際は、植物を植える2週間前までに土壌に散布しましょう。

炭酸カルシウム

炭酸カルシウムは粉砕した石灰岩から成り、緩効性で水に溶けにくい特性を持ちます。微生物の作用により徐々に土壌に溶け込むため、持続的な土壌改良が可能です。また、融雪剤としても使用されます。施肥後はすぐに植物を植えることができる安全な肥料です。

苦土石灰

苦土石灰はドロマイトという岩石から作られ、カルシウムとマグネシウムを含む肥料です。土壌のpH調整と同時に、作物に必要な栄養を補給してくれます。また、根を強くし、葉緑素の形成を促進する効果もあり、作物の根を傷めるリスクが低いため、安心して使用できます。

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有機石灰

有機石灰はカキ殻や卵の殻から作られ、炭酸カルシウムを主成分としています。アルカリ分が低いため効果は緩やかで、植え付け直前や、栽培中の散布にも向いています。また、土壌の通気性や排水性を改善する効果もあり、家庭菜園でも扱いやすい石灰肥料です。

石灰肥料の効果的な使い方

農作物にとって必要不可欠ともいえる石灰肥料ですが、効果的に使うためには正しい使い方を覚えましょう。ポイントは以下の通りです。

  • 土壌を耕しpHを測定する
  • 目的に応じた石灰をまき土を混ぜる
  • 期間を空けて元肥を入れる

それぞれ詳しく解説していきます。

土壌を耕しpHを測定する

土壌を耕してpHを調整する際、まずは除草後に深さ20〜30cmを目安に土を耕します。石灰を加えるのは元肥より前なので、元肥の入る深さまでしっかりと耕すことが大切です。
耕し終わった後には、pH測定機や試験紙を使用して土壌のpHを測定しましょう。これにより、土壌が作物の栽培に適した状態にあるか確認できます。

目的に応じた石灰をまき土を混ぜる

目的と土壌のpH、栽培する作物に合わせた石灰を選んでください。まく量は土1平方メートルあたり約100gが目安です。まいた後は土とよく混ぜ合わせます。酸性土壌を中和するにはアルカリ分の高い石灰を、植え付け前の土壌作りには苦土石灰や有機石灰を使うと良いでしょう。

期間を空けて元肥を入れる

石灰をまいた後、苦土石灰なら1週間、有機石灰なら10日ほど空けてから元肥を施すと良いです。石灰と肥料を同時に使用するとアンモニアガスが発生し危険なので避けましょう。
植え付け2週間前に堆肥(たいひ)を、1週間前までに石灰を入れ、植え付け時に元肥を施すスケジュールが一般的です。

石灰肥料を使う時の注意点

石灰肥料を使う時に注意したい点は以下の通りです。

  • 消石灰を使う時は皮膚を保護する
  • まく時期や順番を守る
  • 適切な量やpHを守る

それぞれ詳しく解説していきます。

消石灰を使う時は皮膚を保護する

消石灰を使用する際は、必ず保護メガネ、手袋、マスクを着用しましょう。消石灰の強いアルカリ性は皮膚や呼吸器に炎症を引き起こし、目に対しては腐食性があり、失明のおそれがあります。目に入った場合や誤飲した場合は、すぐに洗い流す、口をすすぐなどの対処を行い、医師の診断を受けてください。肌に触れた場合も同様に、すぐに洗い流し、体調に異常があれば医師に相談してください。

まく時期や順番を守る

石灰肥料を使用する際は、時期や順番に注意が必要です。速効性のある消石灰などは元肥と混ぜると有害なアンモニアガスが発生し、作物の枯死を招くおそれがあります。速効性のある石灰は取り扱いが難しいので、家庭菜園では緩効性の苦土石灰や有機石灰を使ったほうが無難でしょう。

適切な量やpHを守る

石灰使用時は、土壌のpHを測定器や試験紙で確認し、適切な量を守って調整することが大切です。土壌を極端にアルカリ性にすると、微量要素の欠乏や生育不良のリスクがあります。作物によって適した土壌の酸度は異なるため、植え付け前にその作物にとっての好適な土壌酸度を確認しましょう。

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作物の栽培におすすめの石灰肥料5選

市販されているさまざまな石灰肥料の中から、栽培時に使いやすいものをまとめました。
それぞれどのような石灰か説明していきます。

ハイパワー苦土石灰

「ハイパワー苦土石灰」は、苦土石灰のほか、花つき・実つきを良くするようりん、土をふかふかにする腐植酸、ホウ素・マンガンなどの微量要素が含まれた資材です。
においが少なく粒状のため、庭や花壇でも使いやすく、家庭菜園に向いています。

>>詳細はこちら

すぐ植え石灰

「すぐ植え石灰」は、カキ殻、カニ殻、海藻と天然素材で作られた石灰肥料です。有機素材のため、有効成分がゆっくり土壌に浸透するので、散布した後すぐに作物を植え付けることができます。土壌酸度の中和のほか、古い土の再生にも使える資材です。

>>詳細はこちら

カキガラ有機石灰

「カキガラ有機石灰」は、原料にカキ殻を使用した石灰肥料です。
まいた後にすぐ植え付けができます。
粉末状なので、散布時に目や口に入らないよう注意して使いましょう。

天然100%野菜の石灰

「天然100%野菜の石灰」は、天然石灰・天然マグネシウム・土の有効菌・ゼオライト・粘土鉱物の5種類の原料が入った資材です。酸度調整のほか、土作りにも使うことができます。また天然素材で作られているので、家庭菜園でも使いやすいでしょう。

>>詳細はこちら

消石灰

広い面積に散布する場合は、消石灰が良いでしょう。1kgあたりの単価も抑えめなので、大量に使うのであれば便利です。

目的や環境、作物に応じた資材を選んで使うべし

作物を栽培するうえで、酸性に傾いた土壌を中和し、作物の育ちやすい土壌環境に整えるなど、石灰肥料は重要な役割を果たしています。
石灰肥料の中にも、さまざまな種類があるので、目的や環境、作物に応じた資材を選んで使うことが大切です。プロの現場では、消石灰など扱いの難しい資材を使うこともありますが、家庭菜園などで野菜を作ろうというときは、苦土石灰や有機石灰を選んでおけば問題ないでしょう。

本記事では、石灰肥料の使い方や特徴、注意点などを詳しく解説しました。ぜひ参考にして、より良い土壌環境を作り上げてください。

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