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植物工場参入、成功のカギとは。10年目に事業拡大を果たしたイチゴ工場の秘密

植物工場参入、成功のカギとは。10年目に事業拡大を果たしたイチゴ工場の秘密

多くの企業が参入と撤退を繰り返している人工光利用型植物工場事業。そんな状況の中、10年以上植物工場でイチゴの生産を継続している企業がある。新潟県にあるいちごカンパニー株式会社だ。植物工場事業を継続する秘訣(ひけつ)はどこにあるのか。代表取締役の五十嵐松一(いからし・しょういち)さんに話を聞いた。

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農業の課題と建築業界への不安が参入のきっかけ

いちごカンパニー社イチゴ

植物工場内で実った「越後姫」(画像提供:いちごカンパニー)

「少子化・過疎化による小学校の統廃合の影響で、近所の小学校が廃校になりました。その利用方法が決まっていなかったんです」と会社設立の経緯を語るのは、いちごカンパニー株式会社代表取締役であり、開発センター所長の五十嵐松一さん。「当社は地域への貢献のため、建物としてまだまだ価値のある廃校の利用方法を考えました。そして、植物工場として利用することに決めたのです。さらに、建設業界の先行きに不安もありました。国による企業への農業参入支援にも後押しされ、農業を始めることにしたんです」

五十嵐松一様写真

いちごカンパニー代表取締役の五十嵐松一さん

いちごカンパニー株式会社は2013年に新潟県の建設会社である株式会社小野組によって設立された企業だ。小野組の建設ノウハウを生かせる植物工場で農作物を育てることにしたものの、当時は国内で黒字化している植物工場は3割程度。他の植物工場と同じように葉物野菜を育てようと考えたが、それでは差別化できない。そこで活路を見いだしたのが「イチゴ」だった。

「イチゴを育てている植物工場は、その当時極めて少なかったですし、地域の子どもたちが喜んでくれるものをという私たちの思いにもイチゴは合っていました」(五十嵐さん)

冬の新潟県は日照が少なく、育てられるイチゴの品種が限られている。日照が少ないというのは植物工場の中も同じ。そのような環境でも高品質な果実を生産できる品種、「越後姫」を育てることにした。

小野組の持つ建設技術を駆使しながら、ビニールハウスでも利用される一般的な部材を多く採用し、初期投資を抑えて廃校を利用した植物工場を設立。地元のイチゴ農家と協力しノウハウを教えてもらいつつ独自に栽培を開始した。

参入当初の最大の課題は病害虫対策だった。
「せっかく建物の中でイチゴを育てても、購入したイチゴの苗は土に植わっているため、その土から虫が出てきてしまう。おまけに、植物工場は密閉度が高いから被害が拡大するのも早いんです。結局、隔離された苗生産エリアを設けて、親株から採苗した苗を使い、土を使わない栽培体制を整えました。栽培時も培地を使い、土は利用していません。このように、トラブルが起きても、適宜対処することで事業を継続できています」(五十嵐さん)

研究と改善で年々増加している果実収量

いちご

植物工場で収穫された越後姫

現在いちごカンパニーではLEDや温度管理、二酸化炭素の供給などを駆使し、周年栽培を可能にしている。しかも、通常イチゴは2~3年ごとに親株の更新が必要とされるが、同社では驚いたことに、同じ株から3〜4年間継続的に収穫しているという。

「とはいえ、長年育てているとやはり収量が落ちてきます。クラウンが意図しない方向に長く伸びて、葉に光が当たりにくくなったりするんです。株の状態を見ながら、適宜植え替えをしています」(五十嵐さん)

継続栽培のヒントを聞くと、自然光に寄せた波長を持つオリジナルLEDの開発について言及があった。特別なLEDを利用することで、収量低下が抑えられると五十嵐さんは話す。

「イチゴ栽培で収量を上げるには、やっぱり光の管理が重要です。ただ、光が強すぎると葉が小さくなったりするんです。だから、強ければ良いという問題でもありません。イチゴの生育に合わせて、きめ細かく調整することが大切ですね。設立当初は市販のLEDを使っていましたが、イチゴに合っていなかった。そのため、地元企業と協力してオリジナルLEDを開発しました」

人工光型植物工場の様子

実際の栽培の様子(画像提供:いちごカンパニー)

設立して10年以上がたち、設備の経年劣化が課題の一つではあるが、改善を重ねながら安定生産を続けているという。
「うちのLEDも、もう10年選手。パネルの発光効率が落ちてきているんですが、イチゴへの影響は最小限に抑えられている。これも、こまめなメンテナンスと、蓄積してきたノウハウのたまものですね。例えば、うちの栽培棚は、高さを抑えつつより多くの株を植えられるように工夫しているんです。一方で、少ない株数で収量を維持する研究もしています。現在は一つの棚に16株を並べているんですが、株間を少し広げてみたらうまくいきそうで。このように試行錯誤を繰り返しています」(五十嵐さん)

現在いちごカンパニーでは全部で3000株栽培しており、昨シーズンは月100キロ以上を出荷できたそうだ。

地元への感謝の心と貢献

いちごカンパニースイーツラボ正面

いちごカンパニースイーツラボ

いちごカンパニーの強みは、植物工場での作物生産ノウハウだけではない。植物工場で作ったイチゴを使った商品開発やマーケティングにも力を入れており、注目を集めている。新潟県胎内市にある「いちごカンパニースイーツラボ」は、2023年に小野組所有の敷地内に設立された、植物工場とイチゴのスイーツショップを併設した施設だ。「たくさんの人が集まり、つながる場所を作る」というコンセプトの通り、土日は多くの家族連れやカップルでにぎわう。取材当日もひっきりなしにお客さんが来る様子が見受けられた。
施設内は非常に可愛らしい、おしゃれな空間だ。五十嵐さんによるとイチゴの可愛さを生かした施設を作るために、女性スタッフの意見をメインで採用したそうだ。地元の人々が楽しめる場を目指し、庭に噴水やベンチも備えた。

いちごカンパニースイーツラボテラス

丸い小窓からは、植物工場でイチゴが実際に生育している様子が見られる(画像提供:いちごカンパニー)

いちごカンパニースイーツラボ看板

いちごカンパニースイーツラボには訪れた人々がくつろげるようベンチなども多く配置されていた

いちごカンパニースイーツラボ噴水

噴水など、家族連れや子どもが喜ぶ仕掛けがなされている(画像提供:いちごカンパニー)

ショーケースに並ぶスイーツは、すべて当日の朝に収穫したイチゴで作っている。それらはイチゴの持ち味を最大限に引き出す工夫を凝らしたものだ。五十嵐さんはこう説明する。
「イチゴ単体で食べてもおいしいですよね。あまり手を加えすぎると、せっかくの味が台無しになってしまう。だから、素材の良さを生かすということをモットーにしています。特に、酸味と甘みのバランスを意識しています」

また、イチゴスイーツとしての見栄えもかなり工夫しているそうだ。
「越後姫は果実を切った時の断面が白っぽいんです。そこで工場では(果心部まで赤い品種の)『紅ほっぺ』も栽培し、それで赤みを足してスイ―ツの見た目を良くしています」

SNSでの情報発信も盛んで、インスタグラムには「映える」写真が多く並ぶ。SNSの運用は若手社員が中心となって行っているという。

「インスタやフェイスブックは、うちのスタッフの得意分野。写真映えするスイーツの撮影から、イチゴ栽培の様子まで、日々の活動を発信しています。おかげでフォロワーも増え、営業面でも追い風になっていますね」(五十嵐さん)

いちごスイーツ

人気のイチゴスイーツ

実際に商品を手に取ってみると、イチゴがたくさん入っている割にはお手頃な価格だ。

「地元の人に喜んでもらえる価格で提供したいと考えています。今は正直、赤字覚悟の社会貢献という位置づけですが、ブランドイメージの向上は着実に進んでいると思います。イチゴを作っている建設会社として世間に認知されるのに一役買っており、宣伝効果が大きいですね」と五十嵐さん。

職業体験

職場体験を実施している当日の様子(画像提供:いちごカンパニー)

さらに社会貢献の一環として、同社では毎年、小学生の社会科見学や中学・高校の職業体験を積極的に受け入れている。

「将来を担う子どもたちに、イチゴ作りの楽しさを知ってもらえるのはうれしいですね。体験を終えて帰るときには農業に関心を持つようになってもらえているようで、やりがいがあります」(五十嵐さん)

諦めずに挑戦し続ける勇気

いちごカンパニーのような人工光利用型植物工場で黒字化しているのは2023年には16%という調査もあり、撤退する企業が多い。そのような中、事業を継続できている秘訣はどこにあるのかとたずねると、「無理だと考えるのではなく、どうしたらできるのかを常に考えています。試行錯誤を繰り返せば、いつか突破口が開けると思いますね」と五十嵐さんは答えた。

さらに植物工場の未来についても次のように話す。

「気候変動が進む中で、植物工場の重要性はますます高まるでしょう。確かに初期投資はかかりますが、水と電気さえあれば立地条件に左右されずに安定生産できる。また、栽培技術は日進月歩で進化していますので、常に情報をアップデートして、果敢にチャレンジし続けることが大切だと思います」

地元への社会貢献と植物工場の将来的な役割。この二つを諦めずに追求し続けているからこそ、長年にわたる事業継続を実現できているのだと感じた。最後に五十嵐さんは、この仕組みを横展開して、さらなる地域貢献・農業の諸問題解決につなげたいとの抱負も語った。

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