初心者こそいい道具を使おう
2011年春、自給自足的な暮らしがしたくて茨城県筑波山麓の農村に移住した。住まいはちょっと傾いた古民家で、トイレや浴室がないなどの問題もあり、リノベーションが必要だったが、業者にまかせるつもりはなかった。DIYで自分の好きなように住まいを作りたいと思った。そのほうがお金もかからない(←ここ大事)。
とはいえ、当時DIYの経験といえば、友人の古民家リノベをちょっと手伝ったことがあったくらい。知識も技術もないに等しかったが、できないとは思わなかった。根拠のない自信だが、やってみれば大概のことは何とかなるものである。
必要な情報を本やネットで調べ、材料や道具を買うために近くのホームセンターに行った。初めてのDIYなので必要な道具は全部そろえなくてはいけない。
ただ、木工になければならない道具は、実はそれほど多くない。基本的には、木材を測って、切って、つなぐための道具があればいい。それで小さな箱も、古民家のリノベーションも、農機具小屋もとりあえずは作れるようになる。
道具について、私の経験から一つアドバイスをするとすれば、信用がおけるブランドの、なるべくいい道具を選ぶことだ。最初、私は安価な道具を買ってしまったが、パワーがない、精度が低い、耐久性がない。で、まったくいい仕事ができない。作業効率が悪いし、無駄な力が入れば疲労もする。ケガにもつながる。自分の技術の未熟さもあるが、道具がよくないと木材を正確にカットするのも難しい。それではきちんとしたものは作れない。
特に使用頻度の高いインパクトドライバーと丸ノコは、最低でも2万円以上するものを選ぶべきだ。価格でものを区別するのは好きではないが、得てして安価なものは長持ちしない。使い捨てられてゴミになり、結局、また新しいものを買うはめになる。倹約家でありたければ、多少高くてもいい道具を買うべきだ。そのほうがずっと長く使えるし、ずっといい仕事ができるからだ。一生ものになることだってある。絶対に価格以上の価値がある。
メジャーで長さを測り、サシガネで線を引く
では、木工の必須道具を一つずつ紹介していこう。
測る道具
木材を必要なサイズに切り出すために長さを測ったり、直角に線を引いたりするための道具。メジャーとサシガネは、用途が異なるので両方ともそろえておこう。
サシガネ
金属製のL字型定規で、かね尺とも呼ばれる。長さを測ったり、直角に線を引いたり、勾配を出したりするのに使う。穴や溝の深さも測れる。
L字の長い辺を長枝、短い方を短枝といい、表、裏、外側、内側に目盛りがついている。目盛りにはミリ、尺、丸目、角目があるが、DIYではミリ以外使うことはほとんどない。
尺目盛りは、今も建築で使われる昔ながらの尺貫法の単位。丸目は円の直径から円周を導くための目盛り。角目は丸太の直径を測ることで、その丸太からとれる角材の1辺の長さを求めるための目盛りだ。
30度、45度、60度の角度も容易に測れるし、長さを等分するのも簡単にできる。
シンプルだが、とても機能的な道具である。
サシガネの厚みは1~2ミリで、幅は15ミリと20ミリが一般的だ。また、断面形状は中心部がくぼんだA型とフラットなC型(JIS規格による)が主流。薄いA型タイプは軽くてしなりがよく、しならせて曲線を描くこともできる。一方、厚みのあるC型は安定性と耐久性が高いのが特徴。サイズは数種類あるが、長枝500ミリ、短枝250ミリの標準タイプがおすすめだ。
メジャー
金属製の巻き尺で、コンベックスともいう。目盛りが書かれたテープは湾曲した薄い金属製で、空中で伸ばした状態でも水平、または垂直を保持できる。一般的なテープの長さは2~5.5メートル、幅は6~32ミリ。幅が広いほうがテープを引き出した状態での水平・垂直保持力が高い。私が愛用しているのは長さ5.5メートル、幅25ミリのモデル。テープを引き出した状態で固定できるロック機能がついているものがよい。
スピーディーで正確な切断に必須の丸ノコ
切る道具
なじみがあるのはノコギリだが、木材を正確に切るにはそれなりの技術が必要。初心者には難しい。より早く、正確に作業ができるのは丸ノコだ。
ノコギリ
木材を切断するときは三つの引き方がある。木の繊維方向と平行に切る縦引き。木の繊維方向と垂直に切る横引き。そして斜め引きだ。引き方によって縦引き用、横引き用、そのどちらにも対応する縦・横・斜め兼用の刃がある。
ノコ身の両側にそれぞれ縦引き用と横引き用の刃がついたノコギリを両刃ノコギリといい、ノコ身の片側にだけ刃がついており、背の部分が補強された片刃のタイプを胴付きノコギリという。
歯のピッチ(間隔)によっても使い勝手が異なり、ピッチが広いほど素早く切れるが切り口は粗くなる。一方、ピッチが狭いと切断に時間はかかるが、切り口はきれいに仕上がる。最初の一本なら、刃渡り220~270ミリの横引き用胴付きノコギリが使いやすい。通常木材の切断は丸ノコで行うため、ノコギリはサブ的な道具として細かい切断に使う程度と考えておこう。
丸ノコ
円形のノコ刃を回転させて材料を切断する電動工具。ノコ刃のサイズは125ミリ、147ミリ、165ミリ、190ミリが主流で、取り回しがいいのは小さいサイズだが、厚みのある木材を切るには深切りできる大きなサイズのモデルが求められる。125ミリで切れる木材の厚みは47ミリ程度、190ミリなら76ミリ程度まで切れる。
電源はコード式とバッテリー式があり、安価で安定したパワーが出るのはコード式。バッテリー式は取り回しに優れるが、パワーを求めるとバッテリーは大容量の18ボルトクラスが必要になり、価格もグンと跳ね上がる。電源のある場所で使うならコード式で問題ない。また、安価なものはベースプレート(※)が鉄製だったりするが、鉄製は衝撃で変形しやすいので、アルミ製のものを選ぶとよい。丸ノコは木材をまっすぐ正確に切れる道具だが、フリーハンドでは難しい。木材に対して直角に丸ノコを保持するためのガイドを使ってカットしよう。
※丸ノコを木材にぴったりと置くための金属製の板。可動式になっており、切り込み深さや角度を調節できる。切断の精度に関わる重要なパーツ。
連続したビス打ちで威力を発揮するインパクトドライバー
つなぐ道具
木材をつなぐためのビスを打つ道具は二つある。打撃を加えながら力強く打ち込めるインパクトドライバーと締め付ける強さを調整できるドライバードリルだ。いずれも先端のビットをドリルに変えれば穴あけにも活躍する。
金づち
クギを使って木材をつなぐときになくてはならないのが金づち。玄能やハンマーともいう。用途によってヘッドの素材や形状がいろいろあるが、最初の1本を選ぶならヘッドの両側が打撃面になった両口玄能が幅広く使える。ヘッドは一方が平らな打撃面で、もう一方は曲面の「木殺し面」になっている。これはクギを打ち込むときに材料を傷つけないための工夫で、最後の一撃を木殺し面で打つことで金づちの跡が残らないのだ。ヘッドは重いほうが力強くクギを打てるが、重すぎると安定しない。200~300gのものが使いやすいだろう。
ドライバードリル
ネジ締め、穴あけをするための工具で、締め付けのスピードとトルク(ネジを締め付ける強さ)をダイヤルで段階的に調整できるのが特徴。設定したトルク以上の負荷がかかるとクラッチが空回りするので、ネジを締めすぎて、ねじ切ってしまう心配がない。繊細なネジ締めや穴あけに向いている。一方で、後述するインパクトドライバーに比べるとパワーが弱いため、長いビスを連続して打つような作業には向いていない。電源はコード式もあるが、取り回しに優れるバッテリー式が主流。バッテリーは電圧によって出力に差があり、45ミリ程度のビスなら10.8ボルトでも楽に締められるが、90ミリのビスを締めるなら18ボルトが求められる。
インパクトドライバー
作業に負荷がかかると打撃を加えながら軸が回転し、長いビスも力強く打ち込めるのが特徴。ドライバードリルがビスを締める感覚なのに対し、インパクトドライバーは打ち込むという表現がしっくりとくる。電源はやはりバッテリー式が主流で、10.8ボルト、14.4ボルト、18ボルト、36ボルトがある。ビスの打ち込みにはある程度強いトルクが求められるので、最大締め付けトルク130ニュートンメートル以上ある14.4ボルト、または18ボルトのモデルを入手しよう。単純に電圧が高ければ出力が高くなり、作業性も向上する。また、バッテリーの容量は1.5~6.0アンペア程度まであり、容量が大きいほど1回の充電で作業できる時間が長くなる。
インパクトドライバーとドライバードリルは、どちらか一つあれば、ほぼ同じ作業をこなせる。好みで選べばよいが、個人的には力強くビスを打てるインパクトドライバーがおすすめ。
移住して今の暮らしを始めてから14年になる。古民家のリノベーションを終えた後、農機具小屋やガレージ、ニワトリ小屋なども建築し、ついにはセルフビルドで新たな住まいも建ててしまった。およそ5反の田畑では自給用のコメや野菜を栽培し、庭でヤギやニワトリを飼い、今年は養蜂やアイガモ農法も始めようと準備を進めている。
何か一つの技に秀でた職人もいいが、自給自足的な暮らしではいろいろなことがそこそこできる器用さが求められる。もともと庶民を表していた百姓という言葉から連想して「百の仕事をするから百姓」と言う人もいるけれど、実際、昔の人はそうやって自らの暮らしを作ってきた。自分でできることが増えれば、それだけお金をかけずに、独立性の高い生活ができる。自分の頭で考え、手足を動かして、暮らしを作っていきたい。そのために必要なのがいい道具なのだ。
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