首都圏の圧倒的なブロッコリー需要に応える、埼玉県という一大産地
埼玉県は、年間のブロッコリー収穫量が約1万6000トンと、北海道に次いでなんと日本2位。3位以下は愛知県・香川県・長野県と関東圏外が続くため、埼玉県は関東圏におけるブロッコリーの一大産地です(※) 。
さらに、ブロッコリー消費量が多い都道府県トップ3は、神奈川県、東京都、千葉県と首都圏に集中していることから、その巨大な消費量に応え首都圏の食卓を支えているのが埼玉県だと分かります。
※農林水産省「令和3年産 作況調査(野菜)確報」
そんな埼玉県の中でも、特にブロッコリー栽培に力を入れているのが今回取材した深谷市にあるJA埼玉岡部。JA全農さいたまの年間出荷量7,100トンのうち、JA埼玉岡部だけでなんと2,800トンと約40%を担っています。
「岡部も他の地域と同様、7月ごろから播種して秋冬に出荷するブロッコリーの栽培が中心ですが、現在ではさまざまな品種が開発されたことで、11月ごろから12月末に播種して4月ごろ出荷できる春ブロッコリーも育てられるようになりました。岡部のブロッコリー農家の8割が秋冬だけでなく春ブロッコリーの栽培も手がけています」
そう話すのは、JA埼玉岡部ブロッコリー部会長の黒澤 清さん。30歳で脱サラして農家を継いで以来、約25年間ブロッコリーを育ててきたベテランです。親の代から大根やトマトとともにブロッコリーを栽培していたそうで、黒澤さんが継いでからはブロッコリーの作付面積をかなり増やして注力してきたとのこと。
「この地域はもともと大根の漬物が名産品で、大根農家がほとんどでした。大根は収穫後に農家が一次漬けをしてから出荷していて、とても手がかかっていたのでだんだんとブロッコリー栽培に変わっていったんです。同じアブラナ科の植物だから、経験が生かせるのも大きかったんじゃないかな。品種改良される中で、生育不良や基準を満たさず廃棄になることも減ってきて、効率良く収入を得られる作物となっていったことが、ブロッコリーを栽培している大きな理由ですね」と岡部がブロッコリー産地となった歴史を教えてくださいました。
秋冬はもちろん、春ブロッコリーに注力することで実現する「長く安定して継続する収入」
埼玉県全体では約50種のブロッコリーが育てられていますが、岡部では秋冬に「ピクセル」、春に「グランドーム」を採用しています。これらの品種と出会えたことが、岡部でブロッコリー栽培が伸びている理由の一つと黒澤さんは考えているそうです。
実は岡部は埼玉県内で最も春ブロッコリーの栽培が盛んな地域。それを可能にしているのが、サカタのタネの「グランドーム」だと、黒澤さんは話します。
「春ブロッコリーを栽培する季節は、秋冬と比べて病気になることが少ない分、寒さと雪などの湿気が難点。寒さに耐えられるようにビニールで被覆する必要があり、手間やコストがかかります。『グランドーム』は寒さと湿気に強いため、その手間とコストが少なく済みます。大雪でビニールがつぶれてしまった時も、グランドームは雪の下で立派に育っていて驚きました」
岡部管内のブロッコリー部会では、出荷基準サイズを定め、それが一目で分かるスケールを作成していますが、グランドームはその基準を満たさない株がほとんどないといいます。
「大きいLサイズで出荷できるのが、いちばん収入になる。グランドームはしっかりそのサイズまで育つし、色も濃く、味も良い。安心感が大きい」と黒澤さんは話します。
また、種をまく期間が11月中旬から12月末までと長いため、収穫・出荷期間も長くなります。本来の旬を外している春ブロッコリーは、競争相手が少ないこともあり高値で買われるため、長く出荷できるとそれだけ売り上げも上がります。グランドームのさまざまな特性が収益に大きく貢献しているのです。
近さを生かして、鮮度で売る。埼玉県だからできるブロッコリーの販売&ブランド戦略と今後の展望
「埼玉県も、他の都道府県と同様、高齢化などにより農家数は減少傾向にあり、岡部では10年で10軒ほどブロッコリー農家が減りました。それでも作付面積と出荷量は微増しています。ブロッコリーは農家にとって『もうかる野菜』という魅力があるのです」
そう話すのは、JA埼玉岡部の販売課長 小林数馬さん。この10年間で作付面積が増えたエリアは岡部と榛沢のみ。春ブロッコリー栽培の農家数が増えたのは岡部のみだといいます。
この流れを止めないよう、JA全農さいたま・JA埼玉岡部は様々な形でブロッコリー農家を支援しています。
JA全農さいたま 園芸販売課の小峯篤さんは、その一つの手として、スーパーなどの量販店へブロッコリーを直送する取り組みの拡大を進めています。
「従来の、産地→市場→量販店へ輸送する方法だとスーパーに並ぶまでに数日かかります。私たちは、市場・量販店と連携し、収穫したブロッコリーを量販店に直送するルートを作りました。これにより、朝取れブロッコリーを当日中に首都圏の大手スーパーで販売できるようになりました。新鮮な野菜はそれだけで差別化になり、スーパーから指名で埼玉県産の朝取れブロッコリーを求められることも増えてきました。他の産地は、鮮度維持のために氷で冷却したりしていますが、そういったコストも抑えられ、輸送による環境負荷も軽減できています」
ブロッコリーは鮮度が落ちやすく、見た目でそれが分かりやすい野菜の一つ。収穫から輸送完了までの時間を短縮することで、鮮度・栄養価が落ちないうちに店頭に陳列でき、さまざまな課題を解決できるのです。
小峯さんによると、これ以外にも積極的にさまざまな取り組みを行っているということで、「この30年で作付面積も収穫量も約2倍に成長した埼玉県のブロッコリー。とはいえ、面積では北海道などには遠く及ばない。仕組みと鮮度、そして味で勝負したい」と力強く話します。
その一つの例が、埼玉県産のブロッコリーの普及拡大・販売促進のためのスーパーでの試食会です。2024年春、食品業界大手のキユーピー(株)と協力し、関東県内各地のスーパーの店頭で新鮮なブロッコリーをおいしく食べていただける試食会を実施。埼玉県産の新鮮なブロッコリーはマヨネーズをかけるだけのシンプルな食べ方でも大変美味しいと好評だったといいます。
指定野菜に認定され、日本中で消費が伸長するブロッコリー。首都圏という大きな市場と多くの家庭での消費に、1年を通して「埼玉県産のブロッコリー」で応えていきたい。そして「埼玉県産のブロッコリーは緑が濃く鮮度が良い」と選ばれるよう、挑戦を続けたいと展望を話してくださいました。
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