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播種(はしゅ)とは? やり方のコツや発芽しない原因を農家が解説

鮫島 理央

ライター:

播種(はしゅ)とは? やり方のコツや発芽しない原因を農家が解説

播種とは、作物の種をまくことです。慣れてくると単純な作業ですが、作物によっては播種のやり方を変えたり、覆土の量を調整する必要があったりと、はじめのうちは覚えることが多く、簡単な作業とは言えません。本記事では、播種の方法や作物ごとの播種する季節、嫌光性種子や好光性種子の違い、水分管理や地温確保など注意したいポイントまで詳しく解説していきます。ぜひ本記事を参考にして、これからの播種に役立ててくださいね。

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播種とは?

農業関係の本や情報サイトを見ていると、播種という言葉が度々出てきます。日常生活ではまず使わない単語ですが、農業の世界ではきわめてオーソドックスな言葉です。本章では、播種(種まき)の実践的な方法を詳しく解説していきます。

播種の方法は大きく二つ

一口に播種といっても、じかまきと床まきの2種類があります。
それぞれどのような播種方法なのか、解説します。

じかまき

じかまきは、栽培したい場所(畝や花壇など)に直接、種をまく方法です。
種をまいた場所で、そのまま大きく育てるので、移植を嫌うダイコンやニンジン、ゴボウなどの直根性作物に向いています。

また、栽培期間が短いホウレンソウや小松菜など葉物野菜・軟弱野菜もじかまき向きの作物です。

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床まき

床まきは、育苗ポットや育苗箱、セルトレーや鉢などの容器に種をまき、苗まで育ててから畝などに植えつける方法です。キュウリやカボチャなどウリ科野菜は、床まき向きの作物です。

さまざまな資材がありますが、それぞれ向いているまき方や条件があります。
例えば、粒が大きい種やたくさん種をまきたい場合は箱まきが最適です。
植え付けの手間を少なくしたい場合は、ポットが良いでしょう。

播種のやり方の種類

播種のやり方には、次の三つの方法があります。

  • 散播(ばらまき)
  • 点播(てんまき)
  • 条播(じょうまき)

それぞれ詳しく解説していきます。

散播(ばらまき)

散播は、苗床や畝に種をばらまく方法です。
発芽するときに光が必要な作物に向いているやり方で、ベビーリーフ、ホウレンソウ、コマツナなど栽培期間が短い作物を栽培する際に用いられます。

直接種をばらまく方法が一般的ですが、あらかじめ種を10〜20倍の量の用土に混ぜておき、目の粗いふるいを使ってまくと、きれいに散播できます。

点播(てんまき)

点播は同じ植え穴に数粒の種を一定間隔にまく方法です。
散播と違って、スペースに余裕を持って育てることができるので、間引きの手間が少なく、ある程度大きくなるまで放任状態でも栽培できます。
ハクサイ、ダイコン、カボチャなどを育てる際に用いられるやり方です。

条播(じょうまき)・すじまき

条播はすじまきともいい、一定間隔で列状にまく方法です。
直線上に一列で種をまくため、発芽すると苗がきれいに並び生育状況を把握しやすいというメリットがあります。

散播や点播と比べて隣の株との間隔が狭くなるので、ニンジン、コカブなど小さめの根菜類を育てる際に用いられます。

播種をする前に知っておきたい種の種類

作物の種の中には、発芽に光が必要な好光性種子と、光を当ててはいけない嫌光性種子の2種類があります。
それぞれどのような種なのか、詳しく説明していきます。

好光性種子

好光性種子は、発芽に光が必要な作物の種のことです。野菜でいうと、ニンジンやハクサイ、コマツナなどが該当します。

播種時に土を深くかぶせると光を遮ってしまうので、少量の土をかぶせる、もしくは軽く手で押し付けるくらいが良いでしょう。

嫌光性種子

嫌光性種子は、光を嫌う種子で、カボチャやトマト、ピーマンなどが該当します。
こちらは好光性種子と違って、播種時に深く土をかぶせなくてはいけません。作物によって植え付ける深さは異なりますが、だいたい種の直径の2~3倍の深さに植えるとよいでしょう。

播種の時期は作物によって異なる

作物によって、種まきの時期は異なります。経験者であれば自然と覚えていくものですが、ガーデニングや家庭菜園に挑戦して間もないという人には、なかなか分かりづらいものです。

春まき、夏まき、秋まき、冬まき、それぞれの季節に適した作物には、どのようなものがあるのでしょうか。それぞれ詳しく解説していきます。

春まき

春にまくのは、夏に収穫や開花を迎える作物です。
種まきは3月~5月ごろに行いますが、代表的な夏野菜などは4月ごろからゴールデンウィークにかけて種まきを行う物が多いです。

また、この時期は朝夕の気温が低いため、地温を確保するためにトンネルがけや寒冷紗(かんれいしゃ)をかけると良いでしょう。

この時期に種まきを行う作物は、次の通りです。

花き

ヒマワリ、ケイトウ、ダリア、マリーゴールド、アサガオなど

野菜

シュンギク、コマツナ、エダマメ、オクラ、ダイコン、ニンジン、ホウレンソウ、モロヘイヤ、トマト、ブロッコリー、キュウリ、ナス、ピーマン、シシトウ、トウモロコシなど

夏まき

夏にまくのは、秋口に収穫や開花を迎える作物です。
7月~8月のとても暑い時期に種をまくので、地温が上がりすぎないように、マルチングや遮光資材を使って温度管理をすることが大切です。

また、夏の豪雨や台風によって、水分過多になってしまったり、土が固まる・種が流れるなどのトラブルが起きたりすることも少なくありません。

この時期に種まきを行う作物は、次の通りです。

花き

コスモス、ケイトウ、マリーゴールド、百日草、キンギョソウ、アスターなど

野菜

キャベツ、カリフラワー、ニンジン、キュウリ、インゲン、エダマメ、トウモロコシなど

秋まき

秋にまくのは、春先に収穫や開花を迎える作物です。
「秋の1日、春の7日」ということわざがあります。秋の農作業で1日遅れることは、春に7日遅れることと同じという意味で、秋の農作業は時期の見極めが大切です。
残暑が厳しい時期に種をまくと発芽しにくくなる一方で、播種が遅れると収穫も遅くなってしまいます。正しい栽培時期を守り、地温も計測することが大切です。

この時期に種まきを行う作物は、次の通りです。

花き

パンジー、スイートアリッサム、キンセンカ、ルピナス、ワスレナグサ、スイートピーなど

野菜

サヤエンドウ、ソラマメ、カブ、ゴボウ、ホウレンソウ、コマツナ、ミズナ、アイスプラント、シュンギクなど

冬まき

冬にまくのは、春や初夏に収穫や開花を迎える作物です。
冬は気温が低く、作物にとっても成長しにくい時期です。農業資材、トンネルやマルチングなどで地温を下げないよう工夫が必要になります。また、水やりは気温が高い時間帯に行うほか、回数や間隔についても注意しましょう。

この時期に種まきを行う作物は、次の通りです。

花き

カンパニュラ・ラベンダーなど

野菜

ルッコラ、ソラマメ、カイワレ、コマツナ、ニンジン、チンゲンサイ、ホウレンソウ、アスパラガスなど

播種を成功させるポイント

播種を成功させるためには、次の四つのポイントを押さえるとよいでしょう。

  1. 発芽率を把握しておく
  2. 発芽適温に合わせる
  3. 覆土は適量にする
  4. 水切れを起こさない

それぞれ詳しく解説していきます。

発芽率を把握しておく

発芽率というのは、文字通り種が発芽する割合のことです。植物の種は、そのすべてが発芽するわけではなく、発芽せずダメになってしまう種も含まれています。発芽率はその割合を示したものなのです。大体でも良いので、播種する時は、まいた種の粒数をメモしておくと良いでしょう。

なお、種によって発芽率は異なります。
例えば、キャベツ75%、オクラ70%、パセリ60%、タマネギ70%、トマト80%。平均すると70〜80%ほどです。

発芽適温に合わせる

栽培する作物ごとに、発芽適温という発芽に適した温度があります。計測する温度は気温や室温ではなく、土の中の温度であることに注意しましょう。地面に刺すタイプの地温計を使うと簡単に温度を計測できます。

夏や冬は、直接屋外で土壌やプランターに種まきをせず、発芽気温をコントロールしやすい屋内で育ててから定植することもあります。

覆土は適量にする

作物の種は好光性と嫌光性にわかれ、好光性種子は覆土が多いと発芽しません。
じかまきをした場合、播種した後に軽く土をふりかけるか、上から種を指で押し込むと、ちょうどよい深さになります。

一方で嫌光性は光を嫌うので、種の2〜3倍の深さになるよう土をかぶせなくてはいけません。まく深さは種のサイズによって異なりますが、種の大きさの2~3倍の深さ、だいたい0.5〜1cmほどが目安になります。

水切れを起こさない

種が発芽するためには、水分がしっかりあることがとても大切です。
発芽するまでは土の表面が湿っている状態を保つようにしましょう。基本的には毎朝1回、水やりをすると良いでしょう。しかし水をやりすぎると土が酸素不足になり、種が腐敗してしまいます。そのため水はけのよい土を使って、余分な水分が流れ出るようにするのもポイントです。

播種をしても発芽しない原因と対処法

播種をしても発芽しない原因と、その対処法をまとめました。

  1. 地温が低い、もしくは高い
  2. 水分が過剰、もしくは不足
  3. 覆土が過剰、もしくは不足
  4. 土の環境が整っていない
  5. 種が寿命を迎えている

それぞれ詳しく解説していきます。

地温が低い、もしくは高い

なかなか発芽しない場合、地温がしっかり確保できているかチェックしてみましょう。
種子の発芽適温と比べて地温が低い、もしくは高いと種は発芽しません。
種の袋に書かれている時期にまけば基本的には問題ありませんが、農業資材を使って地温確保をサポートするとより良いでしょう。

マルチングや寒冷紗、トンネルなどで地温を確保、もしくは下げて環境を整えてあげましょう。

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水分が過剰、もしくは不足

発芽させるためには水分の管理も大切です。
作物によって、乾燥気味を好むもの、水を好むものなどさまざまな特性があります。しかし、発芽前はどの作物も一定量の水分が必要不可欠です。

種子の発芽がそろうまでは、水切れしないように、毎日様子を見ながら水やりすると良いでしょう。しかし、水切れに注意するあまり、与えすぎるのは逆効果になってしまいます。水をやりすぎると種が腐ってしまうので注意しましょう。

覆土が過剰、もしくは不足

嫌光性種子、好光性種子のいずれかにあわせて、土のかぶせ方を考えることが大切です。播種というと、しっかり土で覆いかぶせるイメージがありますが、すべての作物でそうすべきというわけではありません。

嫌光性種子であれば、光を遮るために深く土をかぶせなくてはいけませんし、好光性種子であれば、軽く土をかけるだけで十分です。育てたい作物がどちらの種子なのか、よく調べてから播種しましょう。

土の環境が整っていない

種子の発芽には、水分のほかに栄養分が必要です。
土壌中の栄養分は、多すぎず少なすぎず、作物に合わせた状態にしなくてはいけません。畑などにじかまきする場合は、肥料や堆肥(たいひ)などを組み合わせて、土作りをしっかり行いましょう。
肥料が多すぎたり、極端な酸性・アルカリ性だと発芽しにくくなってしまうので、土壌の管理は大切です。

種が寿命を迎えている

土壌管理や温度管理、土のかぶせ方がしっかりできているのに発芽しないという場合は、もしかすると種の寿命が切れてしまっているのかもしれません。

実は種には寿命があり、ナスやトマトは4年以上の長期保存もできますが、ネギやタマネギの寿命は1〜2年と短く、時間のたった種からは発芽しないのです。
どの作物の場合も、寿命を迎えた種は発芽しなくなるので、その前に播種しましょう。

ポイントを押さえて実践を

播種は農業の始まりともいえる作業ですが、実はかなり奥深く、成功させるためには知っておかなくてはならないポイントがいくつもあります。

初心者のうちにやりがちなミスとしては、種を深く埋めすぎてしまうことや、水やりのやりすぎ、雨風で種が腐ってしまう、流れてしまうなどのトラブルが挙げられます。

はじめのうちは加減がわからず、発芽がそろわなかったり、難しいと感じることも少なくないはずです。本記事を参考にして、播種作業に挑戦してみてくださいね。

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