今、畜産がアツい青森県。インターンシップ制度が人気
青森県畜産課では、畜産インターンシップ制度を2023年から実施しています。体験では県内の肉用牛農家や酪農家のもとで、実際の仕事を学びながら具体的な就農イメージを描くことができるとあって、制度開始以来、多くのインターン生が参加、学びを得ています。
2024年度だけを見てもすでに2名が参加、年内にはさらに5名の参加が見込まれている青森県の畜産・酪農インターンシップ。参加者の背景をひも解くと、そのほとんどが非農家出身というのだから驚きです。高校生の参加者を見ても普通高校に通う生徒が多いとのこと。牛を見るのも触るのも初めてという人をも惹きつける、青森県の畜産業とは?
受け入れ先農家のひとつ、青森県八戸市の株式会社イチカワファームの代表取締役・市川広也(いちかわ・ひろや)さんに、畜産の魅力、可能性についてお話を伺いました。
“箱入り娘”、八戸毬姫牛を育てるイチカワファーム
八戸市沿岸部にある株式会社イチカワファームは、購入した子牛を肉牛に育てる肥育農家です。肥育する1200頭は全て「八戸毬姫牛(はちのへまりひめうし)」。2020年の出荷開始以来、八戸初のプライベートブランド(PB)牛として注目を集めています。
八戸毬姫牛が大手食品メーカーや県内の飲食店からの引き合いが途切れない理由は、第一にその“美味しさ”が挙げられます。交雑牛である八戸毬姫牛は、雄の黒毛和種と雌のホルスタイン種との交配により生まれます。程よいサシと上質な赤身のハーモニーが生み出す上品な甘み、キメの細かい肉質や口溶けの良い脂質。その味わいを例えるなら“華やかな美味しさ&柔らかさ”。この、唯一無二の味を育んでいるのが、一頭一頭を大切に育てている生産者の愛情と、肥育環境です。
「牛にストレスを与えないよう、風通しの良い牛舎で一頭一頭大切に育てています。八戸毬姫牛は全て雌。まさに箱入り娘として育てているのが肥育の特徴です」
と、市川さん。全て自家肥育の八戸毬姫牛は、きな粉やホモニーフィード、ミネラルを配合したこだわりの飼料を毎日、決まった時間に決まった量を食べて育ちます。
「どんなに忙しくても毎朝必ず一頭一頭の顔を見て動態をチェックすることを心がけています。わずかな変化もしっかりキャッチし、適した処置をすることで“娘”たちの健康を管理できるのがその理由です」(市川さん)
1976年に創業、2019年に株式会社イチカワファームとして株式会社化した同社は現在、社員6名で八戸毬姫牛を大切に育てています。
預託からPBへ。2代目が注力したのは“ブランディング”
市川さんが家業のイチカワファームの後継者として地元八戸にUターンしたのは2011年。高校卒業後、東京の建築会社で働いていた市川さんは、結婚を機に父親の畜産への思いを知ったと話します。
「親元を離れて数年が経っていたこともあり、父と膝を突き合わせて話すことはそれまでほとんどありませんでした。父が一代で築き上げたイチカワファームですが、長男である自分に継ぐことを強制したこともなく、継いでほしいと言われたこともありませんでした。でも、いろいろな話をするうちに父が仕事をとても愛していること、“牛屋(うしや)”であることを誇りにしていることを知り、家業について考えるようになりました」
長男として、いつか地元に戻る漠然とした覚悟はあったとはいえ、当時は具体的に考えることはできなかったという市川さん。しかし、父親がケガをしたことでその思いは一変。自然が少ない都会での子育てに限界を感じていたこともあり、Uターンを決意します。
「家業を継ぐつもりで就農しましたが、当時は預託事業だったので牛屋でありながらサラリーマンのような仕事をしていました。育て方も飼料も全て決められた通りに行うことにやりがいを感じることはできず、消化不良の日々を送っていました」
そんな市川さんのターミニングポイントになったのが、当時保育園児だった息子さんのある一言でした。
「息子に将来の夢を尋ねると、『お父さんの仕事以外のこと』と言われました。家族を養うために必死で働いているのに、自分の姿は息子にとって「やりたくない仕事」として映っていたことに大きなショックを受けました。結果、その一言がきっかけとなり、父の長年の夢である自家肥育によるPB牛の挑戦を決意しました」
預託事業を撤退し、PB牛肉の生産を開始したのは2019年。生産と同時に市川さんは異業種交流会や県内でPB牛肉を手掛ける畜産農家を訪ねるなど、営業活動にも着手。人脈が生まれることで大手食品メーカーとのつながりができ、現在は海外輸出も行っています。
「これまでの情報は、預託元の企業や同業者など内側から得るものがほとんどでした。外部の方と知り合うことでブランディングのやり方や、目指す方向が明確になったように感じます」(市川さん)
その代表的なものが「八戸毬姫牛」というネーミングです。青森県南部地方の伝統工芸品・手毬の「南部姫毬」から名付けたPB牛。そのおいしさは瞬く間に話題となり、八戸市のふるさと納税の返礼品にもなっています。
「生産から出荷、ECサイトによる販売と、一貫して携わっているのも当社の特徴です。何より、消費者からの『美味しい』という声がダイレクトに聞けることにやりがいを感じています」
と、笑顔で語る市川さんは、次世代を担う畜産農家の育成にも尽力しています。
畜産を魅力ある職業に。若手育成で八戸に貢献
イチカワファームが育てる八戸毬姫牛は、八戸市内の全小中学校の給食に提供され、食育に貢献。また、社会科見学や職業体験も受け入れており、牛舎の作業だけではなく、加工場の見学やレストランでの試食など、上流から下流までの一連の流れを学ぶプログラムも人気を集めています。
「よく、どんな人に畜産を学んでほしいかと聞かれるのですが、興味がない人にこそ畜産体験に参加してほしいと思っています。畜産の魅力、やりがいを伝えることがわたしたち畜産農家の仕事。担い手を育成することで八戸に恩返しをしたいと思っています」
と、抱負を語る市川さん。将来なりたい仕事を、「お父さん以外の仕事」と言った息子さんも今では小学生。八戸毬姫牛の生みの親である父・市川さんの仕事は息子さんにとって「憧れ」の仕事に。英語を一生懸命勉強し、海外市場で父をサポートすることが、彼の目標になっているそうです。
畜産業のおもしろさ、やりがいを知るなら畜産体験がおすすめ
畜産農家を目指す方に向け、青森県畜産課では畜産体験によるインターンシップ制度を実施しています。体験ではイチカワファームさんをはじめとした畜産農家のもとで、実際の仕事を学びながら具体的な就農イメージを描くことができます。
「牛は手をかけた分だけ応えてくれます。生き物相手の仕事なので大変なこともありますが、まずは畜産の現場を知ることからはじめてみませんか?美人揃いの“箱入り娘”たちがあなたの挑戦を待っています」(市川さん)。
動物が好き、苦手、畜産はよくわからないという方も大歓迎の青森県の畜産体験。体験終了後にはきっと、畜産業へのイメージが変わっていることでしょう。
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青森県農林水産部畜産課 経営支援グループ
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