新規就農者が前例のない作物に挑戦
富山県魚津市は、北アルプスの裾野から日本海に面して広がる人口約4万人の街。海と山が近い距離にあり、緩やかな傾斜地は豊富な水で潤い、米を中心に大根、トマト 、ネギ、サツマイモなどの野菜や果樹が盛んに栽培されています。特に果樹は種類が豊富で、県内最大の生産量のりんごをはじめ、なし、ぶどう、ももに、近年、ブルーベリーが加わりました。
市内で初めて本格的にブルーベリー栽培に取り組んだのが向中野芳和さんです。魚津市出身の向中野さんは2017年にブルーベリ-狩りが体験できる観光農園「むかいさんちの農園」を開園。日本海を望む60aの圃場で約1000本、30種類のブルーベリーを栽培しています。6月から8月下旬の開園期間には、毎年平均2,000人が来園。収益の大半は摘み取り体験料で、OEMで製造したジャムの販売や市内の菓子店、飲食店へのブルーベリーの直販にも取り組んでいます。
就農に対するモヤモヤを断ち切りたい
向中野さんが観光農園を目指す原点となったのは、小学生のときの収穫体験。育てた作物をみんなで食べる「収穫の喜び」が心に刻まれました。そこから農業に対する想いを持ち続け、大学のときにはオーストラリアでのワーキングホリデーを利用して農業も経験。大学卒業後は魚津市職員として働き、結婚し、子供にも恵まれ、充実した日々を過ごしていましたが、奥さんの実家の稲刈りを手伝ったときに、農業への想いが蘇ってきたといいます。
2013年、33歳のときに市役所を退職。隣接市の農業法人に就職し、水稲栽培に携わるうちに「自分がやりたい形の農業がほかにあるはず」と、独立を意識し始めました。
「そんな折に、愛知県のブルーベリー農園を家族で訪れ、子供たちが自分の手で収穫して笑顔で食べている様子を見て、答えを見つけた気がしました。ブルーベリーは一粒一粒収穫する楽しみがあり、皮をむかなくても手軽に食べられる。また、魚津市でブルーベリーが栽培されていないこともプラスに思えましたね」
熱心な指導のもと、憧れの観光農園開園までまっしぐら
向中野さんは農業法人を退職し、富山県新川農林振興センター(以下、振興センター)に相談に行きました。
「『ブルーベリーをやりたい』というと、振興センターの方は驚いた様子でしたね。魚津市では市内での栽培実績がなく、どちらかというと反対されました(笑)。けれども、それで却って就農意欲に火がつき、自分なりに調べて就農計画をつくろうと思いました」
振興センターに通いつつ、以前訪れた愛知県の観光農園から栽培のスケジュール感を聞いたり、栽培システムについて知るために富山市の観光農園を訪問するなど、個人でも情報収集を行い、就農計画を練っていきました。
「できた計画を振興センターに持っていくと、真剣に向き合ってくれ、細かいところまで指導いただきました。果樹は収穫できるまで年数がかかるため、それまでのお金をどう準備するのか。集客が少なかった場合は出荷し、出荷ベースではどれくらいの収量が必要かなど、あらゆるリスクを考慮して10年に渡る計画を作成しました」
収穫までの木の管理や剪定などといった栽培技術を習得するため、2014年から魚津市にある県の果樹研究センター(以下、研究センター)に1年間通いました。一方で、研究センターの助言を受け、県内で先進的な果樹栽培を行う農家の下でも施設管理などについて勉強。今でもよきアドバイザーとなっているそうです。
2015年に晴れて独立就農した向中野さん。圃場は義父の水田を果樹用に整地してプランターに苗を植え付け、富山市の先輩農家さんの自動システムを参考に、水と肥料をタイマーで撒く養液栽培自動システムを導入しました。2年間の苗木育成期間を経て、2017年に開園。1年目は思うような収穫量がなかったそうですが、2年目からは収量が安定し、地域の人の口コミやホームページ、SNSでの情報発信により、徐々に来場者が増加。今では魚津市の観光スポットとして注目を集めるほか、市役所や近隣の小学校などのイベント会場としても活躍中です。
「心強く支援してくれる行政の方や先輩農家さんたちがいるから、収益の上がらない時期も『ドン』と構えていられたと思います。ここまでこられたのは、本当にみなさんのお陰です」
2023年からは、移動販売車でアイスクリームやブルーベリーあんのたい焼きを販売。奥さんが主に担当しています。農園の繁忙期には2人の子供たちも手伝ってくれるそうで、「やりたいことをしている姿を子供に見せられるのはうれしいです」と向中野さんは微笑みます。
就農も、くらしも手厚く支援、安心できるスタートをお手伝い
魚津市では、地域おこし協力隊の制度を活用した就農支援を展開しています。最大3年間の任期中に、市内の各産地で農作業の支援を行いながら技術や知識を身につけられるほか、退任後にはスムーズに就農できるよう、産地や市、県、JAなどによる支援も受けられます。2024年には愛知県出身の20代の男性隊員が農業法人での活動後、サツマイモ農家として独立就農しました。
「市では就農希望者の安心につなげるため、産地の受入体制がしっかり整ってから地域おこし協力隊の募集を行っています。HPをご覧いただき、気になる活動分野があればお問合せください」と魚津市農林水産課 宮本祐子さんは話します。
「地域おこし協力隊の活動後に、スムーズに就農して生活ができるよう、就農先や定住先といった出口を考えた支援を検討します。様々な作目や農業形態がありますが、できるだけ本人の希望に近い形で就農できるよう、バックアップしていきたい」と、同課 本田陽一さんも力を込めます。
地域おこし協力隊の最新情報は、魚津市のホームページ、またはウェブサイト「とやま就農ナビ」から確認できます。
そのほか、首都圏移住者を対象とした移住支援金、子育て、新婚世帯に交付される移住助成金、新生活を応援する補助金など、さまざまな移住支援制度も整っています。
「新規就農は、考えたり調べたりするだけでなく、とにかく“やってみる”ことが大事だと思います。大変なこともありますが、支えてくれる人は周りにたくさんいます」と向中野さん。新規就農を目指す方は、魚津市を新たな選択の地として考えてみてはいかがでしょうか。
取材協力
ブルーベリー狩り体験園「むかいさんちの農園」
〒937-0842 富山県魚津市吉野549
お問い合わせ
魚津市役所 農林水産課
〒937-8555 富山県魚津市釈迦堂1丁目10番1号
TEL:0765-23-1032
MAIL:nosei-shinko@city.uozu.lg.jp
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