「自分は欲が深い」の意味
あずま産直ねっとは設立が2003年。農地の面積は27ヘクタールで、季節の野菜を中心にコメも栽培している。仲間の農家からも野菜を集め、生協や地元のスーパー、食品宅配のオイシックスなどに販売している。
松村さんにインタビューしたのは、オイシックス・ラ・大地が8月に開いた青果物のトレンド予想に関する発表会を取材したのがきっかけだ。そこで登壇した松村さんは「もう終活の時期に入っている」と話した。
この印象的な言葉の意味を知るため、筆者は日を改めて松村さんを訪ねた。そこで松村さんは50年前に就農してからの歩みやあずま産直ねっとを立ち上げた経緯を語ってくれた。その内容は前稿で紹介した。
話を聞きながら感じたのは、松村さんは営農をますます発展させたいという思いに満ちており、「終わり」をイメージさせるような雰囲気は全くないという点だ。まだまだ現役というのが率直な印象だ。
取材では「自分は欲が深い」とも語った。金銭欲のことではもちろんない。「1つのことをやると、次はあれをやってみたいと思い始める」。それが松村さんが言うところの「欲」。常に新しいことに挑戦してみたいのだ。
農業の到達点とは何か
松村さんは68歳。農家の平均に当たる年齢になった今、終活という言葉で何を目指すのか。答えは有機栽培へのチャレンジ。「自分がやってきたことの先には有機農法がある。それが農業の到達点だと思う」と話す。
農薬や化学肥料をできるだけ減らし、有機肥料が中心の栽培に若いころから取り組んできた。その方が野菜がおいしくなるという手応えがあったからだ。それを突き詰めると、有機栽培になるとずっと考えてきた。
一方で農薬や化学肥料を使うのを否定して、有機栽培に振り切ったりはしなかった。「有機農業だけでこの地球に住む人の食料を支えるのは難しい」との思いがあったからだ。その考えは今も変わっていない。
それでも有機に挑むのは、「農薬を極力使わず、有機肥料を中心に何十年もやってきた。有機がやれないわけがない」と考えるようになったからだ。「ここでやらないと、目標にいつまでも届かない」という思いもあった。
すでに有機JASの認証を取るために審査の手続きに入っている。対象となるのは、あずま産直ねっとの農場のうち1ヘクタールの田んぼ。稲作を中心にして、裏作でレタスなどの野菜や小麦を育てようと考えている。