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規格外の規模で西洋野菜を栽培。「少量多品目」ならぬ「中量中品目」栽培の真髄

規格外の規模で西洋野菜を栽培。「少量多品目」ならぬ「中量中品目」栽培の真髄

今や、都市近郊型農業の定番となりつつある少量多品目栽培。その中でも、とりわけ人気なのが西洋野菜である。スーパーで見掛けることの少ない西洋野菜は、飲食店やマルシェなどで引き合いが多く、消費地にほど近い地域での農業と相性が良いからだ。
一方で、首都圏の飲食店などへ自ら営業したり、遠くから運賃掛けて納品するなどのハードルもあり、地方での栽培事例はほとんど聞かない。そんな中、北海道で西洋野菜を作り、生産量の8割を道外へ出荷する農家が居る。一見合理性が無いように見える農業経営の狙いについて、三野農園代表の三野伸治(みの・しんじ)さんに伺った。

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年間30品目の西洋野菜を道外に販売

富士山に似た形から「蝦夷富士」とよばれ、標高1898mを誇る羊蹄山が村中から見ることのできる北海道虻田郡真狩村(あぶたぐんまっかりむら)。食用ユリ根やジャガイモ、ダイコン、ニンジンといった根菜類が多く栽培されています。特に、食用ユリ根は、国内生産量の99%を誇る北海道の中でも、道内作付の約3割と全国一の出荷量を誇ります。

そんな真狩村で西洋野菜をメインに栽培している三野農園。品目は西洋ネギ(リーキ)やフェンネル、ザボイキャベツ、根セロリ(セロリラブ)など、年間で約30品目、常時出荷できる商品数は20品目となるように栽培しています。雪が積もる時期でも出荷できるよう、貯蔵ができるニンジンやダイコンなどの根菜類を多く栽培しているのも特徴です。

西洋ネギ畑

同社の経営で特徴的なのが、生産量の約8割を道外の食品加工会社や青果卸会社へ販売している点。一般的に西洋野菜の多品目栽培は、都市近郊型農業の地の利を生かし、飲食店や消費者に直接販売するケースが多いと言えます。

そうした中、三野さんが選んだのは直販ではなく、安定生産、安定出荷を前提とした前述の販路。それを可能としているのが、同社の最大の特徴とも言える、約18ヘクタールにも及ぶ広大な規模での西洋野菜栽培。三野さんは「うちの場合は、少量多品目栽培ではなく中量中品目栽培と言えるでしょう。生産量が多いからこそ、安定価格・安定供給が可能となり、他の西洋野菜を作る農家と差別化するポイントになります」と話します。

三野農園の収穫機とスチールコンテナ

失敗続きの西洋野菜。信じ続けた可能性

三野農園ではもともと、父がジャガイモやビート、豆を栽培し、農協へ出荷をしていました。
西洋野菜を作り始めるきっかけとなったのが1997年ごろ、真狩村に地方や郊外にある宿泊施設を備えたレストランであるオーベルジュ「マッカリーナ」が建てられたこと。当時のシェフから国産の西洋ネギを作れないかという相談を受け、町の生産者数人が手を挙げて西洋ネギを作り始めました。三野さんの父もその中の1人でした。

三野農園の西洋ネギ

しかし、これまで縁の無かった野菜を作ることは難しく、何年も失敗続き。それは他の生産者も同様だったようで、程なくして三野農園以外の生産者は皆、栽培を諦めていったと言います。それでも父だけは西洋野菜の可能性を信じ、他の人がやっていないことに挑戦したいと、辛抱強く作り続けたと、三野さんは話します。

その甲斐あって、数年もすると品種や栽培方法を確立できたことや、その過程をブログなどにつづって情報発信していたこともあって、ホテルやレストランなどへ徐々に売れるようになっていきました。これを皮切りに、他の品目でも試験的に栽培を始めたと言います。

三野さん自信はそれまで、プロのドリフト選手を目指していたことから、タイヤ代や燃料代を稼ぐための手段として家業を手伝っていましたが、その辺りから農業が面白いと感じるようになり、徐々にのめり込んでいったと言います。

お父さんの突然の他界で後を継ぐことに

三野さんも本格的に農業を始め、西洋野菜の販路も順調に広げつつあった三野農園。暗雲が立ち込めたのが2010年、父の急逝でした。

思いもよらない形で経営を継ぐこととなった三野さん。「父が居なくなり、人の手が足らなくなることや自身の技術においても未熟なところが多かったこともあり、西洋野菜は止めるかどうか悩んだ」と当時を振り返ります。

それでも、父がここまでやってきた西洋野菜を止めるのは取引先も付いているのにもったいないと考え、西洋野菜に注力することにしました。

それからはというと、今でいうマルシェのようなイベントに出展したり、野菜ソムリエの資格を取得した妻の協力を得ながら情報発信したりと、積極的に認知を広げることに努めたといいます。珍しい野菜を作っていることも相まって、多くのメディアで取り上げられることとなり、一気に販路は拡大されていきました。

引き合いが増えていったことに併せて倉庫を建て、これまでの西洋野菜には無かった「規格」という概念を独自に作成。生産物を選別してから出荷するように変えたことで、取引先も扱いやすくなり、注文が増えていったと言います。

三野農園の倉庫

規格を設けたことで「商品としては大丈夫なのに見た目が少し悪い野菜たちの行き場は」と懸念も生まれましたが、大口の惣菜を作っている食品加工会社との取引が決まったことで払拭しました。見た目が特に良いものは青果卸会社や飲食店へ、それ以外はまとめて加工会社へといった流れが作られたことで、生産規模を拡大する判断につながったと話します。

結果として、生産量を多くする事が可能となったので、価格や運賃といった部分でも他社に比べて抑えることが可能だといいます。

西洋野菜を生産、販売するポイント

三野さんの話を総合すると、西洋野菜を生産し、販売していくに当たっては押さえておくべきポイントがいくつかありそうです。需要と供給の現状の他、それらを踏まえた売り方を聞いてみました。

人気の野菜を見極める

まずは三野農園の野菜の生産量について聞きました。「一番生産量が多いのがダイコン。各種色付きを合わせると約6ヘクタールほど栽培しています。次に多いのがニンジン、その後にジャガイモやビーツと続きます。西洋野菜を作っていると言いながら、ダイコンは中国原産という話が有力らしいですが(笑)」(三野さん)。

ダイコンの中でも特に人気なものは紅心ダイコン。ニンジンだと黄色系のニンジン。また、ビーツはあまり馴染みのない野菜ですが、特に加工会社で欲しいと言われることが多く安定的に出荷されると言います。

その他にも西洋ネギは飲食店などから安定した根強い人気があるそうです。

三野農園のゴールデンビーツ

需要を読み、栽培する

「実は、色付きダイコンやニンジンのような、需要があり加工でも使われるものは本州でも産地のようなものが既にあります。なので、需要に供給が追い付いていないかといわれるとそこまででもないような気がします。ただ、確実に少しづつ業界が伸びているのは自社の売上やデータから感じています」(三野さん)

定番品目と違い、西洋野菜は需要がある分しか供給が必要とされない側面があると言います。このため、売上を上げようと闇雲に生産量を増やしても、販売しきれなかった生産物は市場のような行きつく先はありません。実際、三野農園でも需要を読み切れずに作ってしまった品目は、販売しきれず廃棄することも少なくないと言います。

だからこそ、毎年データを取りながら蓄積をしていき、次年度に生かせるようにしているそうです。

三野農園の紫ニンジンと黄ニンジン

経験を積んでノウハウを培う

「販路開拓はもちろん大変ですが、一番の難しさは栽培の情報の無さにあると思います。西洋ネギや黄色いニンジンだけでもいくつも品種があって、品種ごとに仕上がりのタイミングが違います。逆算しながら播種の時期を考えなくてはなりませんが、国内での播種から収穫までの情報がありません。また、収穫する適期の大きさやタイミングについても情報が無いので、一度作ってみて経験して培っていかないといけません」(三野さん)

その他にも、最近は苗から栽培する農家も多いですが、西洋野菜は全て種から栽培することになります。もちろん、定番的な野菜に比べ、種自体もかなり高いです。実際、今年起こった出来事で、種が採取できなかったと急に買えなくなったと言います。定番野菜と違い品種改良がされていない野菜も多く、種が手に入らなくなるリスクも少なくありません。

また、市場仕入れができない分、生産者に掛かる重圧が大きくなります。出荷ができないとなると、食材が無くて取引先の業務が止まってしまう恐れすらあり、揉める原因にもなりかねないといいます。

生産量が少ないからこその課題が多くある西洋野菜。それでも三野さんは「解決に導いてくれる裏技は無く、当たり前のことをやり続けるしかない」と言います。情報が無いなら何年も掛けて栽培し、畑のローテーションが上手く行くまでやり続ける。取引先と情報の行き違いにならないように、コミュニケーションを大切にする。そんな地道な積み重ねが大事だと話します。三野さんも現在のスタイルを確立するまでは、何度も取引先に怒られた経験があると言います。

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三野さんが一番好きな野菜という根セロリ

需要に100%答えられる生産体系を

最後に今後について聞いてみました。

「今後、面積を増やし新たな品目や現状の生産量を増やしたい気持ちがある中で、現状、真狩村では畑が空かないですし、回ってくることがありません。だからこそ、焦らずに取引先の需要を読み切れるようにデータを集め、その需要に100%答えられるよう安定的な生産体系を実現したいです」

北海道で西洋野菜の新たな可能性を創造する、唯一無二の農業スタイルである三野農園。より安定供給が可能となれば、西洋野菜が身近になる日はそう遠くないのかもしれません。

取材協力

三野農園

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