小型の施設でも黒字化
プランツラボラトリー(以下プランツ)は設立が2014年。東大の研究者と連携して植物工場のシステムの開発や運営、システムの販売などを手がけている。本社も東大のキャンパス内にある。
自社運営の工場は西友大森店(東京都品川区)やJR倶知安駅(北海道倶知安町)の構内、仙台港の近くなど5カ所にある。栽培品目はレタスやミズナ、ケール、パクチー、バジル、ホウレンソウなど多岐にわたる。
設備の販売先は10カ所以上。最近ではJAグループとの連携も強めており、プランツのシステムが今後各地に広がっていく見通しだ。
同社のシステムの際だった特徴はそのシンプルさにある。
通常の植物工場は、大きな建物の中に高さが数メートルに及ぶ棚をいくつも設置し、さまざまな機械を使って葉物野菜などを育てる。その様子を見ると、いかにも「工場」といった印象を受ける。
これに対し、プランツの施設は拍子抜けするほど簡素に見える。植物を育てるラックはスーパーの棚と似たようなシンプルなもので、下に車輪をつければ人が押して室内で移動させることができる。
設備が小さいので、生産量もそれほど多くない。例えばJR倶知安駅の施設の生産量はレタス換算で1日当たり最大300株。出荷量が1万株を超すような植物工場と比べると、どうしても小ぶりに見える。
そしてこの点にこそ、同社の強みがある。1日に1万株も作らなくても、利益を出せる仕組みを考案したからだ。低コストで設置できるうえ、最近のように電気代が高騰するとますます強みを発揮する。
家庭用キットの開発で技術を探求
「コンパクトでも利益を出せる仕組み」と聞けば合理的と感じる人も多いだろうが、重要なのはなぜその方向で開発を進めたかにある。他の多くの植物工場は生産量を増やして収益性を高めようとしたからだ。
最初に試験的に施設を建てたのは東大のキャンパス内。もともとコンテナで植物工場を造ろうと思っていたが、コンテナは建物扱いなので、キャンパスに新たに設置できないことがわかった。
これに対し、ビニールハウスなら設置が可能だった。このとき湯川さんにあるアイデアが浮かんだ。「ハウスをアルミシートでくるめば、熱の出入りを防げるのではないか」。これが開発の出発点になった。
建物の壁に断熱材を入れるのと比べ、アルミシートなら軽くて低コストですむ。しかも実験してみると、断熱材よりも遮熱効果がずっと高いことがわかった。一連の技術で、プランツは特許を取得している。
プランツの仕組みはノウハウの塊で、その多くは企業秘密に類するため、細部にまで踏み込んで解説することは控えたい。ここから先は、技術の中身ではなく、技術開発の背景を軸に話を進めよう。
創業当時、湯川さんの頭にあったのは「野菜を育てにくい海外でいつか食料生産に貢献したい」という思いだった。想定したのは電気が届きにくく、日本と違って水を大量に確保するのが難しいような地域だ。
電力に関しては、もし近くに発電所がないなら、太陽光発電でまかなう手がある。難点は太陽光パネルで供給できる電力には限りがあること。これも、できるだけコンパクトなシステムの方がいいという発想につながった。
この構想は東北電力と組み、仙台港の近くに設置した施設で実現した。1日当たりのレタスの出荷量は最大で1万株。その栽培に必要な電力を多くを、隣接地に設置した太陽光パネルで発電している。
次の課題は少ない水で育てる仕組みを考えることだった。この点については、湯川さんが当時手がけていた別のビジネスがヒントになった。
プランツは発光ダイオード(LED)照明で野菜や多肉植物を育てる小型のキットを開発し、ある企業に提供した。その先の販路は書店やインテリアショップ、雑貨店など。一般家庭がターゲットだった。2016年のことだ。このときの試行錯誤が、植物工場の開発に生きた。
「いかに安いLEDを調達し、水を送るポンプを小さくし、少ない水で育つようにするか。そのことを一日中考えていた」。湯川さんはそう振り替える。電力と水の使用を抑えるプランツの設備はこうして完成した。
葉物野菜以外にも応用
最後にプランツの植物工場の持つもう1つの利点にも触れておこう。野菜の輸送費の削減だ。コンパクトな設備ゆえに都市部にあるスーパーやビルの空きスペースに設置できるので、輸送費が少なくてすむのだ。
いまほど電気代や燃料代が高くなければ、プランツの強みは際立たなかったかもしれない。だがさまざまなコストがこれから大きく下がると考えるのはあまりに楽観的。プランツのシステムの需要は今後も増えるだろう。
ここで重要なのは、他の植物工場と原点から発想が違った点だ。筆者はプランツが本格的に世に出る前から、湯川さんにインタビューを重ねてきた。湯川さんは一貫して「いずれうちの強みが生きる」と語っていた。
今回は割愛するが、プランツの設備の用途は葉物野菜の栽培だけでなく、他の分野にも広がりつつある。応用範囲がとりわけ広いシステムなのだ。その取り組みも、機会を改めて紹介したいと思う。