法人設立で10億円、先輩就農者が見た農業の可能性
宮崎オンライン就農講座で講師を務めた重冨裕貴さんは、都城市の出身。東京へ大学進学後、法律関係の仕事に従事。将来を考えた時、農業を取り巻く関税撤廃の動きや少子高齢化という社会課題をビジネスチャンスと捉え、地元へのUターンを決意しました。
父とともに設立した農業法人・ベジエイト株式会社は、設立から12年で目覚ましい成長を遂げています。現在では東京ドーム30個弱に相当する140ヘクタールの規模で、野菜・米の栽培をはじめ、食品加工、集荷販売、耕作受託など事業を多角化。パートを含む約100人の雇用を創出し、年商10億円を達成しました。
経営戦略のポイントについて、「機械化可能な品目への特化」という生産面での効率化と、「販売部門の人材育成や各部門の分業化で、一般企業と同様の組織体制を構築し、休暇制度や賞与など充実した福利厚生を整備している」と説明します。
締め括りに、雇用就農に関心を持つ人々へ「農業求人サイトを活用し、まずは1日からでも農業アルバイトを体験してみることをお勧めします」とアドバイス。農業や地域、職場を知ることの重要性を説いてくれました。
宮崎暮らしの良さ、就農の苦労を聞く
座談会に参加する日南市の果樹農家・蕨野さん夫妻は、夫が都城市出身、妻は福島県の出身です。二人は三重県でアウトドアや観光、キャンプ場の運営に従事した後、果樹栽培がしたいと日南市へ移住。2024年に果樹農家として新規就農したばかりです。
同じく座談会に参加の串間市のピーマン農家・甲斐道仁さんは、宮崎市の出身。服作りが好きで東京で服の企画・生産に従事していました。結婚して妻と九州一周の旅をして串間市の環境に魅かれて移住を決意。串間市の地域おこし協力隊として農業移住でJターンし、2022年に同市で新規就農しました。
質問コーナーでは、先輩就農者3組が宮崎に住んでよかったことをそれぞれの視点で回答しました。重冨さんは「災害に強いことと食べ物がおいしい、特に畜産物は日本一」、蕨野さん夫妻は「日南市は温暖で海がきれいで魚がおいしい」、甲斐さんは、これらに加えて「通勤ラッシュなどの環境ストレスが皆無で、星空や夕焼けに癒される」と答えてくれました。
また、就農に際して辛かったことについて、甲斐さんは「特にない」としながら、新規参入の独立就農者という立場で「農地とハウスを探す苦労と就農当初の生活を含めた資金繰り」を挙げました。蕨野夫妻は、「暑さや少雨は大変ですが、人の手でどうにかなるものではない。就農1年目は周囲に頼れる時期なので、いろいろな人に聞いて乗り越えた」と話してくれました。重冨さんは、「設備投資や農作物の相場による利益の考え方」など、大規模経営者ならではの苦労を語ってくれました。
座談会で語られた農家の実像
先輩就農者を囲む座談会は少人数で2つのルームに分かれ、参加者からの質問に経験談で答える形で進められました。甲斐さんが参加したルームでは、就農における現実的な課題とその対応策について具体的な話が展開されました。
自然災害への対応については、甲斐さん自身の経験が印象的でした。就農直前に台風で潅水小屋が倒壊するという厳しいスタートを切った経験から、「諦めが肝心。農家はそこから立ち上がるのが仕事」という言葉を紹介。その上で、収入保険や施設園芸共済という具体的なリスクヘッジの方法を示してくれました。
農業用ハウスの確保については、借用と買い取りの選択肢があると説明。自身は「中古ハウスを購入し、修繕費は想定を若干上回った」とのこと。失敗しないために「JAなどの仲介で内見をすることが大事」とアドバイスしてくれました。
服飾業界から転身した甲斐さんは、農業の魅力を独自の視点で語りました。「ものづくりが好きな人間にとって農業はいい仕事」と前置きしつつ、「服作りは100の工程のうち自分でコントロールできるのは10から20だが、農業は80できる」と創造性を発揮できる余地の大きさを語ったことが強く印象に残りました。
もう一方の蕨野さん夫妻を囲んだルームでは、柑橘栽培について活発な意見交換が行われ、閉講後に延長戦が実施されるほどの盛り上がりを見せました。
将来的に柑橘栽培に取り組む予定があるという参加者から「六次産業化など、あらゆるビジネスの可能性を模索したいが、どうやって進めたらいいか」という質問があった際には、宮崎市内のフードビジネス相談ステーションの紹介を行うなど、実践的なアドバイスも見られました。
リアルな話に満足度75%の高評価
アットホームな雰囲気で先輩就農者のリアルに迫った宮崎オンライン就農講座は、好評のうちに幕を閉じました。
参加者のアンケートでは、「先輩就農者からそれぞれ特徴的な農業の話が聞けてよかった」「資金繰りも含めてリアルな話を聞くことができた」などの好意的な感想が寄せられました。また、「マーケット開拓についてもっと話を聞きたい」などの要望もあり、関心の高さが窺われます。
参加者の75%が本講座を「満足・とても満足」と回答し、85%が宮崎県で就農したいと「思う・すごく思う」と回答しました。また、全員が今後同様のイベントがあれば「参加したい」と前向きな意向を示しました。
県の担当者からは、就農を検討中の方々へ向けて「まずは、相談してください」とのメッセージが送られました。次は東京でのオフラインイベントを計画しています。