野菜のこぼれ種栽培とは?

大根を収穫せず畑にそのまま残しておくと花が咲いて種ができる
通常、野菜は種がつく前に全て収穫してしまうか、処分してしまうことがほとんどです。しかし、花が咲いて種が落ちるまで畑に残しておくと、その株から種が落ち、翌年にまたその野菜が芽吹くことがあります。これがこぼれ種です。
こぼれ種で発芽しやすい野菜ですと、意図的に毎年繰り返し芽吹かせることが可能なので、種まきせずとも勝手に増えていくサイクルを作っていくことができ、しかもとても丈夫で健康的な野菜が育ちます。この半計画的なこぼれ種を利用した栽培方法を、僕はこぼれ種栽培と呼んでいます。
こぼれ種栽培のメリット、デメリット
こぼれ種栽培の主なメリットとデメリットは以下の通りです。
メリット
- 種代が不要になる
- 種まきや耕起などの手間が省ける
- 種が徐々にその土地に適応し、病害虫や天候不順に強く、無施肥でも育ちやすい野菜が育つようになる
デメリット
- 種が落ちるまで株を残さないといけないのでスペースが必要になる
- 発芽する場所がまちまちなので、手入れしにくい
- 他の株と交雑して形質にばらつきが出やすい
- こぼれ種で発芽しやすい一部の野菜のみでしかできない
- 発芽する数が安定しない
- 耕すと発芽率が落ちるので、こぼれ種エリアは耕しにくくなる
- 発芽時期はコントロールできない
こぼれ種の野菜はとても丈夫な株が育つので、病害虫や天候不順にも影響されにくく、本当に管理が楽です。ただし、生える場所や時期、数などをこちらでコントロールすることはできず、効率性や作業性を求める場合にはデメリットが大きくなりますので、家庭菜園向きの栽培方法だと言えます。
こぼれ種で栽培できるオススメ野菜5選
実際にうちの畑で毎年こぼれ種からたくさん生えてきている野菜を5つ紹介し、それぞれ解説していきます。
- 大根(秋まき)
- シソ(春まき)
- こぶ高菜(秋まき)
- かつお菜(秋まき)
- 落花生(春まき)
これら以外にもゴボウ、ニンジン、パクチー、のらぼう菜、オカノリはこぼれ種で出てくることがあるので、今後はより意図的にこぼれ種栽培にチャレンジしていこうと思っています。
また、毎年勝手に生えてくる芋類や宿根系の野菜については、次回の記事で紹介します。
1. 大根

こぼれ種で育った美濃早生(みのわせ)大根
大根はこぼれ種で発芽しやすく、大根同士でしか交雑しないため、こぼれ種栽培がしやすい野菜です。うちの畑では横川大根という鹿児島の伝統品種と、美濃早生大根という関東地方の伝統品種の2品種が毎年出てきますが、交雑して互いの特徴が出ている株もあります。
鹿児島県にあるうちの畑の場合は9〜10月ごろに発芽し、11〜1月ごろに収穫、2月ごろにトウ立ちして、3〜4月ごろに開花、5〜6月ごろに種ができるというサイクルです。
2. シソ

通路の左側に茂っているのが、こぼれ種の青シソ
青シソ、赤シソともにこぼれ種でよく発芽しますが、互いによく交雑するので注意が必要です。同じシソ科シソ属のエゴマとも交雑します。交雑すると味や食感が落ちることがあるので、シソ科の種を複数種類まく場合は、距離をとるのがいいでしょう。
3〜5月ごろに発芽し、10月ごろに種を落とします。
3. こぶ高菜

トウ立ちし始めたこぶ高菜
長崎雲仙地方の伝統野菜で、茎の真ん中にこぶができる変わった野菜ですが、非常に育てやすく味もとてもおいしいです。一般的な高菜よりもアクが少なく、生でも食べられるため、個人的にはこちらが気に入っています。
小松菜、キャベツ、白菜、カブなどの一般的なアブラナ科野菜とは交雑しませんが、高菜やカラシナとは交雑しますので注意しましょう。次に紹介するかつお菜とも交雑します。
秋の彼岸ごろに発芽し、梅雨時期に種が落ちるサイクルです。
4. かつお菜
福岡の伝統野菜で、地元の人にとってはお雑煮の青菜として定番の野菜です。福岡に住んでいた時にこの野菜を知り、鹿児島でも栽培するようになりました。独特の風味とうまみがあり、汁物にしても炒め物にしてもおいしいです。
こちらも秋の彼岸ごろに発芽し、梅雨時期に種が落ちるサイクルです。
5. 落花生
落花生は10〜11月の収穫時にさやごと畝に埋め戻しておくと、翌年の4~5月ごろに発芽します。
こぼれ種栽培をするときのポイント
実際のこぼれ種栽培のサイクルを秋まきの大根を例に紹介したいと思います。今回紹介した他の秋まき野菜である、こぶ高菜、かつお菜の他、ゴボウ、ニンジン、パクチー、のらぼう菜もほぼ同じサイクルで栽培できます。
こぼれ種に適した種を選ぶ
こぼれ種栽培をする場合は、交配種・交配・F1などと記載されていない種を選びます。これらの交配種の形質は種で引き継がれないため、こぼれ種からは親株と同じ形質のものが育たないので、避けるのがよいでしょう。
大根の場合、品種によっては春まきも可能ですが、春にまくと寒さを経験しないためトウ立ちしにくかったり、トウ立ちしても開花時期と高温期が重なって、種ができにくかったりするため、こぼれ種栽培をする際は秋まきの品種をおすすめしています。これは他の秋まき野菜でも同様です。
複数の品種の大根を植えていると交雑してしまうため、基本的には1つの品種に絞るのがおすすめです。ただ、交雑しても大根が育つのにはかわりないため、自家用であればさして問題にはなりません。
種を落とさせる株を選抜する

春になると一斉に花が咲き出すので、この時期までに選抜する
種取りをする際もそうですが、より残したい遺伝子を持った株を優先的に選抜します。特に健康的に育ったもの、その品種の特徴がよく表れているもの、姿形が良いものなどを選びましょう。しかし、同じ見た目のものばかり選んでしまうと遺伝子が偏りすぎて、しだいに弱っていってしまうので、見た目が悪くても生命力が強そうな株も混ぜておくとよいです。
1株からたくさんの種が取れますが、1本では受粉できない野菜もありますし、遺伝子の多様性のことを考えると種を落とさせる株は少なくとも3本以上は残しておきたいです。花が咲く3月ごろまでには、遺伝子を残したくない株は畑の周囲から片付けるようにします。
発芽の前に草刈りをする
うちの畑では秋の彼岸ごろに秋冬野菜が発芽するので、それまでに発芽するであろうエリアを草刈りしておきます。この時期はそのエリアをこまめに観察していないと、草刈りが遅れて発芽しにくくなったり、逆にせっかく発芽した芽を間違って刈ってしまったりすることもあるので注意しましょう。発芽したあとは鎌で芽の周囲の草刈りをしていきます。秋冬であればだんだんと草の勢いが落ちてくるので、草刈りの管理は非常に楽です。
間引き、収穫をする

こぼれ種で発芽してきたこぶ高菜
非常にたくさんの芽が出てくるので、きちんと間引きしていくことが大事です。間引きが遅れると強い株に育ちません。これは通常の野菜作りの手入れと同じです。
収穫も基本的には通常と同じですが、最終的に種を落とさせる株は残しておく必要があります。
ただこの株からは全く収穫できないのかというと、そういうわけではありません。葉物野菜の場合は根元さえ切り落とさなければ、大きくなった外葉からどんどん収穫できますし、根菜類も根の下半分だけ切って食べて、また根元の部分を埋め戻せば根付いてトウ立ちしていきます。しかし真冬の寒い時期だと根付きが悪いので、年内の寒くなりきらない時期に行います。
種が落ちた場所は極力耕さない

畑の隅の果樹の根元付近など、耕さない場所を選ぶとよい
種が落ちた場所は極力耕さないようにした方が発芽率が上がります。うちの畑は不耕起栽培なのでどの場所でもこぼれ種が発芽してきますが、そうでない場合は畑の隅の方や果樹の根元などの耕さない場所を選んで種を落とさせるとよいと思います。
こぼれた種は何回かに分けて発芽してきて、時期が合っていないと自然と淘汰(とうた)されていき、タイミングに合った時期に発芽するものが自然と大きくなっていきます。昨年の夏や秋は高温が続き、乾燥しやすく虫の発生も多い環境でしたが、こぼれ種の野菜たちは元気にすくすくと育ち、種の生命力の強さを感じました。
完全に狙い通りに栽培するのは難しいので、半分は種取りし、半分はこぼれ種に期待するというやり方がよいとは思いますが、気候変動の激しい今の時代ではこぼれ種をうまく生かす知恵と技術が必要になってくるかと思います。
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