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東京で就農して田んぼを再生 伝統の稲作文化を次代に伝える

吉田 忠則

ライター:

連載企画:農業経営のヒント

東京で就農して田んぼを再生 伝統の稲作文化を次代に伝える

都市部での新規就農が注目を集めているが、作物はほとんどが野菜。稲作で就農するケースはあまり多くない。東京都日野市で就農し、田んぼを次代につなぐ取り組みをしている馬場寛明(ばば・ひろあき)さんを取材した。

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3アール弱の田んぼでスタート

馬場さんが地元の日野市で就農したのは2019年。合わせて1.2ヘクタールの水田で、農薬も肥料も使わない自然農法でコメを栽培している。

収穫したコメは原体のまま売るほか、煎餅やおかき、麺、甘酒などに加工して販売している。ホームページ「Tanbo no wa」に設けたオンラインショップに加え、自然食品店やふるさと納税のサイトで販売している。

馬場さんの取り組みはコメやその加工品の販売にとどまらず、都内の子どもたちが参加するワークショップなどにも広がっている。そのことを説明する前に、馬場さんが就農するまでの歩みを紹介しておこう。

10代のころ、アフリカ系の音楽を好きになった。熱中したミュージシャンに菜食主義の人がいたことで興味を持ち、試しに都内にある菜食レストランに行ってみた。「おいしい」。この驚きが、馬場さんの原点になった。

馬場寛明さん

いったん農業と関係ない仕事に就いたが、子どもが生まれるのを機に転職を考え始めた。そのとき思い出したのが菜食レストラン。同じ系列の青果店で売っていたニンジンジュースのおいしさも、鮮明に覚えていた。

転職先に決めたのはその運営会社。有機や減農薬、自然農法で育てた農産物を扱う会社だった。自社運営のレストランや青果店で売るほか、環境に配慮して育てた農産物を扱うスーパーなどを販路にしていた。

自ら農業に携わるようになったのは2009年。折に触れて家族に話していた「稲作をやってみたい」との思いを、子どもが通う保育所の「お父さん仲間」の1人が知り、休耕田を持っている地主を紹介してくれた。

面積は3アール足らず。同じ保育所の父親たちの協力で、田んぼを復活させることができた。仕事外で始めたこの取り組みが徐々に大きくなり、田んぼを守ることを目標に掲げて会社を辞めることを決断した。

はざかけで稲を天日干ししている様子

ワークショップを子どもたちの学びの場に

馬場さんはコメを大規模に効率的に生産し、売り上げを増やそうとしているわけではない。それが目的なら都内で就農していない。目指しているのは、都市に住む人たちの身近な場所で田んぼを維持することだ。

1.2ヘクタールの田んぼはどれも休耕田。住宅に囲まれた小さな田んぼを、地元の人たちと一緒に再生してきた。用水路にたまったゴミを取り除き、管を通して田んぼに水を引き、土の高低差を調整して水が満ちるようにした。

重要なのは収益の確保だ。取り組みを持続可能なものにしようと思うと、利益を上げることが必要になる。だが1.2ヘクタールの田んぼでできたコメやその加工品の売り上げだけで、それを実現するのは簡単ではない。

用水路を整備している様子

そこで力を入れているのがワークショップだ。きっかけはまだ就農する前、スイミングスクールに勤める友人の「子どもたちに稲作を体験させたい」という一言。田植えなどの際に田んぼに来るようになった。

就農を機に稲作全体を体験できるプログラムを整え、有料制で農作業に参加できる仕組みをつくった。都心から近いという立地が功を奏し、渋谷区や港区から家族連れでイベントに参加してくれるようになった。

企画づくりで手がかりにしたのが、季節の節目を示す二十四節気。春分は田んぼの植物観察、立夏は代かき、芒種は田植え、寒露は稲刈りとはざかけなど。季節の変化を知ることのできるワークショップを企画した。

馬場さんは「昔農家がやっていた行事を1年かけて学び直すプログラム。二十四節気は稲作に適した暦」と話す。田んぼを再生してそこを学びの場とし、多くの人を呼び込むことが、事業の柱のひとつになっている。

子どもたちを集めて田んぼ体験

経済的価値を超える豊かさ

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