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手が掛かるけど夢がある。花豆で6次化をする伊場ファーム

深江 園子

ライター:

手が掛かるけど夢がある。花豆で6次化をする伊場ファーム

北海道浦幌町で小麦やてんさい、ばれいしょ、有機ライ麦などを育てる伊場ファーム。2014年に父から農地8ヘクタールを受け継いだ4代目の伊場満広(いば・みちひろ)さんは、近隣農家から農地を借り受けて営農面積を35ヘクタールへ拡大。この選択を後押ししたのが、白花豆はじめ高級菜豆作りだったと言います。生産者が減りつつある貴重な白花豆を栽培し、加工、販売するモチベーションは何かを聞きました。

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伊場ファーム プロフィール
酪農学園大学を卒業後、2001年4月に実家で就農。兼業農家だった父と共に近隣の精糖工場で勤務し、その後畑仕事に従事する。2014年に事業を承継し、現在の専従者はパート従業員を含む5人。35ヘクタール(有機認証圃場2.4ヘクタール含む)の圃(ほ)場で、主に小麦、てん菜、ばれいしょ、タマネギ、大豆、白花豆、黒花豆、金時豆の他、小麦、大豆、スイートコーン、ライ麦の有機栽培も手掛ける。

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畑作で土を育てる。ライ麦が土を育てる。十勝の畑作農家が実践する環境再生型農法
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「伊場ファーム」(北海道浦幌町)は、35ヘクタールを作付する十勝地方の畑作農家です。ユニークなのは、2010年に畑の一角で始めた「深く耕さない畑」を少しずつ増やしていること。10年以上にわたって土壌改良に取り組んできた伊場満広…

白花豆との出会い

―ご実家で就農した頃の話を伺うと、今の伊場ファームとは品目がかなり違いますね。
兼業農家だった父はもともと、主にてんさいや豆類、小麦を栽培しており、私も大学卒業後にそれを手伝う形で働き始めました。当時は8ヘクタールと面積も小さく、小型の農機しかなかったので作業に時間が掛かり、繁忙期には深夜まで作業をすることもありました。そんな中で、何か経営のプラスになる作物はないかと常に探していました。ニンジン、直播タマネギ、かぼちゃ、チンゲンサイのハウス栽培など、本当に色々と試しましたね。十勝の他の農家より収量が低かったので、人と同じものを作っていては豊かになれない、違うものを作って何とか経営改善したい一心でした。

―そんな時、白花豆に出会ったのですね。
2008年にJAうらほろの勧めで、10軒ほどの後継者仲間と白花豆の栽培に挑戦しました。1年目は0.5ヘクタール作付し、運良く初めから収量が上がったため面積を少しずつ増やして、現在は大豆を含む豆類11ヘクタールのうち5ヘクタールで花豆を作っています。輪作パターンはジャガイモ、秋播き小麦の後に緑肥、てんさい、豆類の4年ローテーションです。2023年は猛暑で減産したものの、反収の目安は4.5俵と、令和4年度の道内平均を上回っています。

花豆畑

6月の白花豆。苗1本に竹1本を立て4本を上で束ね、つるを高く伸ばす

―白花豆の栽培の流れを教えてください。
5月下旬に畑に直播きして、6月に細い竿竹を立てて誘引します。収穫は10月に手作業で根を切り、つるの中の竹を抜き取って、11月までニオ積みで乾燥させます。十分乾燥したら脱穀機に掛け、豆を手で選別しています。

ニオ干し

10月末の豆類の畑。天日乾燥のニオ積みにも手が掛かる

―春と秋の手間は特に大変そうです。どんなところが難しいですか。
実は播種がとても重要で、機械でまくと播種位置がバラバラで日当たりや通気性の悪いところができてしまいます。そこで、手作業でまくことで収量や品質を高めています。他にも(支柱を立てる)竹差し作業と収穫にもかなり人手が掛かるので、町内や近郊のパートさんをお願いしています。

加工によって2倍以上に価値が上がる

―ウェブショップでは乾燥豆の他に甘納豆も扱っていますね。
甘納豆は業務用の豆の一部を十勝のメーカーに送って製造委託しています。

甘納豆

黒花豆、白花豆、希少なくり豆の甘納豆

―先代は全量出荷だったそうですが、伊場さんは直販もしていますね。
現在、花豆に関してはほとんどをJAに出荷していますが、一部業務用、直販・ECで販売しています。2017年に町内のパーキングエリアの直売会で手売りをスタートし、2018年に自作のホームページ内ショップで、2019年に楽天で販売を開始しました。初めはなかなか売れなかったのですが、コロナ期間に売上が伸びて毎年売り切れるようになりました。他に金時豆、栗豆、夏は有機栽培スイートコーンなども人気です。

―加工と販売で、手間がさらに増えて大変では。
十勝の農家としては(小麦やてんさいなどと違って)直販できる作物は一種の魅力なんです。お客さんと顔を合わせること自体が張り合いになるし、思い掛けず良いヒントをもらうこともあります。白花豆は10a当たり20万円くらいの売上になるのですが、加工によって2倍以上に価値が上がる。畑の生み出す能力をさらに引き出せると考えると、可能性を感じます。

畑と伊場さん

「畑の残渣を土に戻すと土の状態が良くなる。作物本来の力を生かすことが大切です」(伊場さん)

地域の魅力を豆で発信しよう

―お話を聞いていると、仕事の厳しさと同時に楽しさも伝わってきます。
自分の住む土地でどうやって楽しく過ごすかを考えるからでしょうか。今の農地面積でできる限りいろいろな取り組みをしてリスクを分散し、それを楽しむのが自分なりの形かなと思っています。楽しく暮らすには自分だけではなく、地域の元気が大事です。浦幌には白花豆を作る農家さんが何人も居ますから、白花豆という特産品を通じて町を知ってもらう方法も考えていきたい。そうして自分たちができることを続けて、周りの方々や次世代の子どもたちが楽しく暮らせる地域であってほしいなと願っています。

【記者の眼】
2019年、伊場さんは全国豆類経営改善共励会「小豆・いんげん・落花生等の部」で農林水産大臣賞を受賞しました。白花豆の主産地オホーツクを含め各地で生産者数が減る中で、伊場さんは作付面積においてもトップクラスです。手間が品質に直結する分、省力化が難しい。そこに、地域内加工や直販で利益率を高める工夫が「効いている」と感じました。大粒の花豆とその甘納豆はウェブショップで買うことができます。

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