静岡茶輸出拡大協議会について
小規模農家が多く、まとまりにくい産地
2024年、全国で静岡県が荒茶生産量2位です。しかし茶価の下落に伴い、茶葉の栽培を止める生産者が増え、販売事業者(茶商)の廃業なども増加しています。農家数はこの10年で半減しています。今後国内における後継者不足、人口減少、ライフスタイルの変化など、さまざまな要因によるさらなる市場縮小が危ぶまれる中、海外ニーズに対応する輸出事業に力を入れていくことは、生き残りのためには重要になります。そこで静岡県が主導する形で2015年に「静岡茶輸出拡大協議会」を立ち上げました。会員は生産者、茶商と呼ばれる流通販売業者、市町、農協などおよそ300社・団体にのぼり、日本貿易振興機構(JETRO)とも連携しています。

令和5年度補正予算GFP大規模輸出産地生産基盤強化プロジェクト 静岡茶輸出拡大協議会の事業実施計画より
そう語るのは、静岡県経済産業部お茶振興課長の佐田康稔さん(さだ やすとし)さん。静岡県内にある茶葉の主要産地は22カ所です。現状では、川根茶や掛川茶、牧之原茶など、ブランド茶として各々の産地が個々にPR、輸出しています。しかし、海外市場からすれば、耳にしたことのない産地名のブランド茶よりも、「静岡茶」としてPRする方がより浸透しやすいとの考えから、お茶振興課が産地をまとめることから取り掛かりました。
静岡茶輸出拡大協議会の取組内容
課題は有機茶への転換
静岡県は鹿児島県と比較して、米国や欧州などの残留農薬規制に対応した栽培や、ニーズの大きい有機栽培への転換が遅れています。そのため、輸出されている茶の生産量は静岡県よりも鹿児島県の方が多いと考えています。海外では健康志向の高まりから、有機茶の需要が拡大しています。鹿児島県は生産農家の規模が大きいため、有機茶など輸出需要に対応した茶への転換規模が大きく、動きが早いという特徴があります。静岡県の場合は、小さな農地が密集しているため、農薬散布時に隣接する畑に農薬が飛散する「ドリフト」の問題が起こりやすく、エリア全体で取り組まなければ、農薬を使用しない有機茶への転換は難しいことが課題として挙げられます。加えて、静岡茶の9割を占める品種「やぶきた」は病気に弱いため、農薬を使わない有機茶栽培は収穫量の減少を招きかねず、一層ハードルが高くなります。
そこで静岡茶輸出拡大協議会は、本プロジェクトを活用し茶商と生産者が連携して有機茶栽培拡大の取り組みをしており、有機茶への生産体系の転換と、輸出支援に乗り出しました。具体的には、専門的な知識を持つ有機栽培推進コーディネーターを設置し、JAなどの営農指導員や、県農林事務所の普及指導員に有機栽培に関する知見を提供し、人材育成を図っています。また輸出業務に関しては、GFP(日本の農林水産物・食品の輸出プロジェクト)や輸出支援プラットフォームと連携し、県内の輸出事業者が海外での販路拡大、市場調査の効果を最大化できるよう、国内外の展示会への出展支援や、海外営業に渡航する茶商に同行するなど、一歩踏み込んだ支援を行っています。
県内3エリアで新たなスキームを構築

掛川エリアの肥料散布の様子
生産地に目を向けてみましょう。県内に点在する生産者をまとめるために、本プロジェクトではまず「牧之原エリア」「掛川エリア」「袋井エリア」の3つに分け、輸出産地モデルを形成しました。各エリアで核となる輸出事業者を選定し、連携する生産者とともに、有機茶の生産から輸出までのバリューチェーンを構築しました。
「牧之原エリア」では、従来の高品質碾茶(※1)生産を有機栽培に転換することでの生育状況、残留農薬などを分析、検証を行い、ドイツで開催される有機食品の展示会に参加。有機碾茶に関しての現地でヒアリング調査を行いました。
※1 碾茶(てんちゃ)とは、抹茶の原料となる茶葉です。茶園を覆って日光を遮り、新芽を育てた茶葉を蒸して揉まずに乾燥させたものです。
「掛川エリア」では、有機茶生産のための有機質肥料の検討や蒸気除草機の活用による除草効果を検証しました。有機茶のボトリングティーを“日本の食品”輸出 EXPOに出展し、さらに台湾での販路開拓を計画しています。
「袋井エリア」では、特に海外販路の拡大に力点を置いています。特にイタリアで日本茶の販売を手掛けている静岡県出身者と県が連携し、現地での嗜好調査などを支援しています。イタリア市場に、日本茶はまだまだ浸透していません。「どこよりも早く最初に参入することで、“イタリアに静岡茶あり”という地位を築きたい」と佐田さんは意気込んでいます。さらに3エリアでの横のつながりも重視しています。

研修会全景
協議会、エリア内の中核を担う事業者、そして生産者がつながるスキームは、確実に海外市場で“売れる”「静岡茶」の生産を牽引していると言えます。
上昇する輸送コストへの対策

共同輸送の様子
輸出にあたって、もう一つの大きな課題は輸送コストです。燃料費の高騰、円安など、コストは確実に上がっています。コロナを経て物流量が一気に増え、コンテナ不足や荷下ろしを行う人手不足などが原因で、コストはコロナ前のおよそ10倍にもなったとのことです。茶葉の輸出はコンテナに詰めて船便で運ぶのが一般的であり、茶も輸送コストの増加の影響を大きく受けています。自社でコンテナ1本を借り、お茶を満載して輸送するのが最もコストが低くなりますが、そこまでの量(5t~10t)を一度に輸出できる事業者は限られています。多くの事業者は横浜や東京の港へ荷を運び、その他の食品や機械など、様々な品目と一緒に輸送する「混載輸送」で荷を出していますが、混載輸送では静岡から横浜・東京への国内輸送費が掛かる上、自社でコンテナ1本を仕立てた場合よりもどうしても単価が割高になってしまいます。そこで本プロジェクトでは県内茶商が連携して1本のコンテナに満載し、地元港湾の清水港から輸送する「共同輸送」による輸送コストの低減に取り組んでいます。茶商のほか、市場や船会社とも連携し、来年度以降の事業化に向けた検討も進めています。コスト削減のほか、茶のみでコンテナを仕立てるので、臭い移りなどのリスク軽減や、日光の近い位置にならないよう、内側にコンテナを積み込むようリクエストが通りやすいこともメリットです。清水港は東南アジア向けの便が多いことから、地元港湾の利用率向上にも期待しています。
静岡茶輸出拡大協議会の今後の展望
昔から同じやり方を続けてきた生産者に、考え方を変えてもらわなければなりません。伝統的な手法や価値観を尊重しつつも、グローバル市場に対応するための新しいアプローチを取り入れることが求められています。静岡茶輸出拡大協議会も10年かけてようやくここまで結果をだしてきました。この過程では、多くの試行錯誤や学びがあったようですが、それが今の成果に繋がっております。協議会として地道に一つずつ、生産者と話し合い、向き合って支援を続けていきたいという気持ちで向き合われていました。
関わる方が安心して輸出に取り組めるよう、物流や販売チャネルの整備、そしてマーケティング支援も行っていく予定です。これらの取り組みを通じて、静岡茶のブランド価値を高め、世界中の人々にその魅力を伝えていくことが使命です。長期的な視点で、生産者と共に成長し、静岡茶の未来を切り拓いていこうとしています。