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農福連携の目的や種類とは?取り組むメリットや活用できる補助金も紹介

農福連携の目的や種類とは?取り組むメリットや活用できる補助金も紹介

農業と福祉をつなぐ農福連携の取り組みが注目されています。高齢者や障害者等を含むさまざまな人が農業の分野で活躍すると共に、担い手不足や高齢化が問題視される中で新たな働き手を確保できる手立てとして関心を集めています。この記事では農福連携とはどのような取り組みなのか、事例を含めて紹介します。また農福連携のメリットや問題点の他、農家が活用できる助成金についても分かりやすく解説します。

農福連携とはどのような取り組み?

畑の作業風景

農福連携は文字通り農業と福祉が連携することで、障害者や高齢者等が農業の分野で活躍できるようにする取り組み。農林水産省が厚生労働省と連携して推進しています。
「ニッポン一億総活躍プラン」が閣議決定された2016年頃から日本農福連携協会が設立され、農福連携の考え方が一般にも広がり始めました。日本農福連携協会は普及啓発活動の他セミナー等の勉強会や販売促進・販路拡大活動を行なっており、国・民間企業・NPO・農家などが一体となって活動しています。

 

農福連携の目的とは?

農業と福祉が連携することで、それぞれの弱点を補い合い、課題解決につながる可能性があります。福祉の観点では、自分に合った就労の機会に出会えない高齢者や障害者等に働く場や生きがいを提供することが農福連携の目的です。一方で、農業においては高齢化や担い手不足が全国的な課題となる中、新規就労者が確保できる可能性があります。

 

農福連携の種類は主に2つ

農福連携にはさまざまな方法がありますが、主に「農家などの生産者が障害者を雇用する」パターンと「福祉施設が農業を行う」パターンの2種類があります。

  

農家が障害者雇用を雇用する

個人の小規模な農家では継続的に障害者を雇用するのが難しい場合も多いため、一定以上の規模の農家や農業法人、農業関連企業が実施するケースが大半です。子会社や別法人を作る場合もあります。

  

福祉施設が農業を行う

障害者福祉施設などが新たに農業に参入し、農作業で就労する機会を障害者へ提供するパターンです。農業以外の事業も並行して行っている場合も多くあります。

農福連携が注目を集めている社会的背景

ハート

農福連携は農林水産省が推進しており、厚生労働省や各自治体とも連携して取り組んでいます。なぜ今、農福連携が注目を集めているのでしょうか。その理由は社会的背景にあります。

 

農業人口の減少及び高齢化

農業においては、就労者の人口減少と高齢化が大きな課題となっています。2015年から2024年までに基幹的農業従事者の人口は60万人ほど減少しており、平均年齢は67.1歳から69.2歳に上昇しています。後継者が見つからず耕作放棄地ができる、更に地域の過疎化が進むなどの問題も並行して発生します。

障害者雇用の拡大が必要

少子高齢化社会では、業種・職種によっては働き手不足が課題になります。農業は人手不足が大きな問題となっている業界のひとつです。
一方で障害者の数は増えています。とりわけ精神障害者が増加しており、1999年と比較して2倍以上になっています。

厚生労働省が2022年に行った調査では、療育手帳所持者(推計値)は114.0万人、精神障害者保健福祉手帳所持者(推計値)は120.3万人と、いずれも増加傾向にあるとされています。働き手が足りない中、障害者を雇用することは農業だけでなく社会全体の課題となっています。

農福連携で得られるメリットとは?

作業する男性

農福連携に取り組むことで得られるメリットには、次のようなものがあります。農家側、障害者側それぞれの立場で確認しておきましょう。

 

農家のメリット

農業経営を行う生産者にとって、障害者等を雇用することで得られるメリットには次のようなものがあります。

  

就労者を受け入れることで労働力を確保できる

新たな働き手を受け入れることで、労働力を確保できます。人手不足に悩む農家において、ひとりでも就労者が増えればありがたいと感じられるケースも多いでしょう。

  

作業効率が向上し規模拡大も期待できる

新しいメンバーが加わることで作業の手順や分担を見直したり、現場の雰囲気が変わったりするきっかけになります。労働力が増えることで、これまで取り組めなかった作業にも手が回るようになります。作業効率の向上や規模の拡大もできるかもしれません。

  

交流が増え地域活性化も期待できる

障害者施設などとの交流やイベントへの出店が増え、これまでとは違ったつながりができたり関係人口が増えたりする可能性があります。地域の活性化にも期待できます。

 

障害者・福祉施設のメリット

農業に従事する障害者や福祉施設にとっても、農福連携におけるメリットがあります。

  

一人ひとりに応じた仕事を設計できる

農業では座ったまま行う作業から体を大きく動かす作業、単純作業の繰り返し、他者との関わりがほとんどない作業など、さまざまなポジションや役割分担があります。障害の程度や個人の能力に応じた作業・仕事を割り当てることができます。

  

自然と触れ合うことで心身が癒やされる

体を動かし、自然と触れ合うことで心身の状態が良くなる効果が期待できます。実際に障害者就労施設で農業に取り組んだ結果、「精神の状況が良くなった・改善した」と回答した施設が57%、「身体の状況が良くなった・改善した」と回答した施設が45%という調査結果もあります。

  

地域との関わりが増え一般就労の道も出てくる

地域との関わりが増え、これまでとは違った仕事や人と接する機会が増えます。できることが増え、継続した就労の経験が一般就労へつながる可能性もあります。

農福連携には課題やデメリットもある

トウキビ畑

さまざまなメリットもある一方で、農福連携にはまだまだ課題やデメリットもあります。生産者側が知っておきたい問題点やデメリットを確認しておきましょう。

 

農家が抱える課題やデメリット

農福連携においては、さまざまな人と共に農作業を進めていくことになります。障害者の雇用や指導への経験があまりない、適切な進め方が分からないといった場合は、専門家の力を借りることも検討してみてください。

  

就労者に応じた指導が求められる

まずは就労する人の特性や能力に合った作業をしてもらい、職場に慣れてもらう必要があります。また、コミュニケーションをしっかりと取りながら、その人に合った指導を行います。
独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構からジョブコーチを派遣してもらう、あるいは
障害者就業・生活支援センターに相談するなど、必要に応じて公的なサポートを受けることも検討してみましょう。働く人がやりがいや生きがいを感じられるような職場環境ができれば、生産性の向上にもつながります。

  

就労時間や作業が不安点になる可能性もある

天候によってできない作業があったり、時期によって深夜や早朝の作業が必要になったりします。しかし福祉施設が人員を派遣できる時間が限られているため、就労時間や作業が思うように確保できない可能性があります。また、継続的な作業ができないと技術の習得が難しくなるケースもあります。

  

農具や作業の安全性を確保しなければならない

農具や機械、多岐にわたる農作業の中には危険を伴うものもあります。初めて触れる障害者に対しては丁寧に説明し、安全性を確保しなければなりません。

 

障害者や福祉施設が抱える課題やデメリット

障害者や福祉施設側にとって、課題やデメリットとなり得る事柄には次のようなものがあります。

  

時期や季節によっては仕事のリズムが不安定になることも

農家側が抱えるデメリットと同様に、時期によっては悪天候で作業ができなかったり、繁忙期に派遣要請が集中してしまったりなど、仕事のリズムが不安定になることがあります。

  

すべての人が障害者雇用を理解しているわけではない

農業の分野だけに限らず、職場にはさまざまな人が居ます。誰もが障害者雇用を理解しているわけではないため、障害者にとって働きやすい職場にならない場合があります。障害者雇用促進法において事業主は障害者への合理的配慮が定められているものの、充分な環境が整っていない可能性があるのです。

  

農家との適切なコミュニケーションが求められる

特に障害者雇用に慣れていない農家側に対して合理的配慮を求めたい場合に、単なる「わがまま」と捉えられてしまう可能性があります。障害の等級が同じであっても、必要な配慮や環境はひとりひとり異なります。自分にとって適切な条件を設定できるよう、細かくコミュニケーションを取っていく必要があります。

農福連携の優良事例

スコップ

ここからは、農福連携に取り組んでいる農家や福祉施設の事例を紹介します。

 

株式会社菜々屋(徳島県)

農福連携の優良事例として「ノウフク・アワード2024」のグランプリに選ばれた事業者です。
比較的規模の大きな4つの農業法人が協力し、徳島県産農産物の卸売サービスを行う法人として設立されました。支援学校の生徒を多く受け入れ、農作業を細分化することで障害特性に合った配置ができ、作業の効率化に成功しています。特性を生かしたスキルアップで作業効率も上がり、収益の増加も実現しました。

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元気ファーム(埼玉県)

プランターの高さを調節できる高設式の栽培システムを取り入れ、車いす利用者や高齢者、小さな子供でもいちご狩りを楽しめる観光福祉農園「元気ファーム」。障害を持つ人が通所する「社会福祉法人元気村 夢工房翔裕園」が運営しています。施設利用者は、定植や葉欠きなどの農作業の他、iPadを使ったレジ打ちなどの接客も担当しています。利用者が社会へ参画する機会を作り、農業の経験を活かした就職の選択肢が生まれる効果も期待されます。

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社会福祉法人土穂会(千葉県)

障害を持っている人の就労支援や社会参加の機会を提供している福祉施設「ピア宮敷」を運営。施設利用者や特例子会社の企業に務める障害のある社員らが農業現場で活躍できる仕組みを2019年から作っています。近隣の牧場が人手不足により続けられなくなった食用菜花の畑を借り受けて栽培を行う他、農産物加工品の製造や販売も手掛けます。職員や農家が早朝に収穫した菜の花を、通所してきた利用者がまとめて出荷作業を行うなど、時間ごとに必要な作業を分担して進めています。

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社会福祉法人白鳩会(鹿児島県)

九州最南端にある南大隅町で、半世紀近く前から農福連携に取り組む社会福祉法人。「触法障害者」と呼ばれる障害ゆえに犯罪に手を染めてしまった人の受け入れも行っています。茶や果樹の生産や養豚に加え、県庁所在地の鹿児島市にも通所施設や作業所を開設して農産物の加工や販売にも進出しました。ハムやジェラートなどの加工品は評判も良く、近隣のスーパーなどでも販売され、地域の活性化にもつながっています。

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農福連携を始める際に活用したい補助金

ハウス内通路

農福連携に取り組む法人等を対象とした支援制度があり、下記のような補助金を活用できます。原則としてソフト・ハードを併せて行う必要がある点、個人は対象外となる点に注意してください。

 

農福連携支援事業(ソフト)

生産・加工・販売技術の習得のための研修、6次産業化商品の開発、先進的な団体の視察、移動式トイレの導入などの取り組みが対象となります。上限150万円/年が助成され、事業実施期間は3年とされています。

農福連携整備事業(ハード)

簡易整備、介護・機能維持、高度経営、経営支援の4つの分野について、農林水産物の生産施設や加工・販売施設の整備への助成があります。
総事業費の1/2以内または各分野に設定された上限のうちいずれか小さい方、最大2,500万円まで交付されます。

その他の助成金

その他に高齢者や障害者等をハローワーク等の紹介により、継続して雇用する労働者として雇い入れる事業主が受けられる「特定求職者雇用開発助成金」や、継続して雇用する障害者が作業しやすいよう配慮された施設や設備を整備する費用の一部を事業主へ助成する「障害者作業施設設置等助成金」などがあります。

農福連携の始め方とポイント

ジャム

農林水産省や自治体の福祉課、JA等が農福連携に関する情報発信を行っています。農福連携の始め方に関するマニュアル等の資料に目を通した後に自治体や最寄りのJAに相談し、農福連携を始めたい旨を伝えてみましょう。

 

障害者の工賃を上げるためには「付加価値」を付けること

働く障害者にとって、賃金が安いことはしばしば悩みの種になります。農作物を生産するだけでなく、加工するなどして付加価値をつける6次産業化も解決策のひとつです。付加価値を付けて販売価格を高く設定できれば、働く障害者の工賃向上につながります。6次産業化には、直売所を作って収穫した農作物を販売する、生乳を加工してバターやヨーグルトを作る、規格外の果樹をジャムに加工してオンライン販売するなどさまざまな方法があります。

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農福連携を始めてみよう

農林水産省や厚生労働省をはじめ国や自治体も推進し、全国で広がりつつある農福連携の仕組み。農家などの生産者にとっては人手不足を解消できるだけでなく、社会貢献にもつながります。国や自治体からの各種補助金や助成金などを活用できる可能性もあります。さまざまなメリットがある農福連携について、興味がある人は検討してみても良いかもしれません。

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