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農業ビジネスの必須知識! GAP認証の基礎知識と取得手順

農業ビジネスの必須知識! GAP認証の基礎知識と取得手順

農業に関する用語で、最近耳にするGAPという言葉があります。農業生産工程管理とも言われ、生産者だけでなく消費者にも認知されてきています。よく聞くけれど具体的には知らない、認証を受けるには何が必要か分からないという人も多いかもしれません。この記事では、GAPの定義の他、GAP認証を受けるメリットや手順、費用はどのくらい掛かるのか、そして国際基準と日本版GAPの違いについてもまとめて分かりやすく解説します。

GAPとは何か?その基礎を理解しよう

1_畑の農作業風景

GAPの定義と由来

GAPはGood(よい) Agricultural(農業の) Practices(取り組み)の略で、ギャップあるいはジーエーピーなどと呼ばれます。直訳は「良い農業の取り組み、実践」ですが、農林水産省は「農業生産工程管理」と定義しています。

具体的には食品の安全や環境への影響、労働環境を含めた持続可能性などに配慮しながら、農作物を生産するルールと実践を意味します。農業の持続可能性を確保する枠組みとして、2000年代ごろから世界各地で注目されるようになりました。事実上の国際的基準であるGLOBALG.A.P.(グローバルギャップ)認証、日本の標準的なGAPであるJGAPなどの制度があります。

GAPの目的

GAPは農作物や食品の安全性の確保、環境保全、労働環境の改善などを目的としています。
農薬や動物用医薬品の適切な使用、農作物や水の衛生的な管理を行い、安全で信頼できる食材を提供することが第一の目的です。
続いて環境保全の面では、農薬や化学肥料の使用量をできるだけ抑える他、排水や廃棄物を適切に処理することで、環境に優しい農業を実践、継承します。
労働環境の改善も大きな目的のひとつです。農作業中の事故を防ぎ、安全でストレスの少ない労働環境を整えることで農業従事者の負担を減らし、持続可能な農業経営を目指します。

GAPが農業に与える影響

2_SDGS

GAPへの取り組みにおいては、農業生産の各工程で記録、点検、評価し、適切に管理や改善を行います。GAPを導入した農家や農業ビジネスは農作物及び食品の安全性が高まり、消費者からの信頼が高まります。更に、環境負荷を軽減することでSDGs(持続可能な開発目標)の達成にも寄与します。また労働環境の改善により、農業の高齢化や人材不足といった課題の解決にもつながります。農業生産における競争力を高め、経営の効率化を図る手段として、GAPはさまざまな効果があります。

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GAPの具体的な取り組み内容

3_ミニトマト

GAPでは、その目的である食品の安全性確保、環境負荷の軽減、労働者の安全と労働環境の向上を目指して必要な施策に取り組みます。
導入に際しては、農業に限らずビジネスの場で広く行われているPDCAサイクルの実践が効果的です。Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)の4つのステップを繰り返しながら、継続的に業務の改善や効率化を図っていきます。
GAPの概念や取り組みは幅広いものですが、あらかじめGAP認証を受けることを視野に入れて制度設計を行うのが一般的です。

GAP認証とは?その種類と意義について

4_カボチャの収穫

GAP認証は、農家などの生産者がGAPに取り組み、農作物の安全性や環境保全、適切な労働環境などの要件を満たしていることを第三者が保証するための制度です。
代表的なGAP認証としてJGAP、ASIAGAP、そしてGLOBALG.A.P.があります。

各種GAP認証の違い

 

種別 対象 審査・認証取得に

かかる費用

内容
JGAP 青果物、穀物、茶、家畜・畜産物 農産:10万円程度+審査員旅費実費

畜産:約25万円程度

土壌や水質・農薬残留に関わる分析費用が別途必要

 

日本国内向けに設計されたGAPで、国内で最も一般的な指標として知られている。2007年から一般財団法人日本GAP協会による第三者認証制度が行われている。
ASIAGAP 青果物、穀物、茶 JGAPの1.5から2倍程度 JGAPを基礎とし、アジア地域全体をターゲットに設計されている。国際的標準のHACCPに基づいて食品安全に関するリスク管理を行う。
GLOBALG.A.P. 青果物(モヤシ、スプラウト以外)、コンバイン作物(穀物など)、茶、ホップ、花卉と観賞用植物、種苗、水産養殖 40万円程度

土壌や水質・農薬残留に関わる分析費用が別途必要

 

世界中の農・畜・水産物を審査できる食品安全の総合的な適正農業規範基準。ドイツに本部を置く非営利団体FoodPLUSが運営しており、欧米諸国での認知度が高い。
その他 認証ごとに異なる 認証ごとに異なる 自治体や大手小売業者等が独自で定めた基準によるもの。東京都GAP、生協版GAPなど。

 

取得するGAP認証の種類により、整備する事項や認証機関、審査の内容などが異なります。また、対象となる農作物も異なる点にも注意が必要です。販路をどこまで広げる計画なのか、またコストや手間とのバランスなどを考え、戦略的な整備・活用を行いましょう。

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認証を受けるメリットとは?

5_ラディッシュ

消費者からの信頼を得やすくなる

GAP認証を表示することで、安全や健康を重視する消費者からの信頼を得やすくなるメリットがあります。GAP認証を取得した農産物は、一定の基準を満たす品質や安全性が第三者によって保証されています。安心・安全や品質をアピールする上で、客観的な指標は強みになります。

市場展開での優位性を確保できる

GAP認証を取得していると、特に輸出市場で商談が進みやすくなります。中でもGLOBALG.A.P.やASIAGAPなどの認証は国際的な基準を満たしていることをアピールできるため、海外市場での競争力を高めるツールとしても注目されています。農作物の海外輸出を視野に入れている場合は、GAP認証の取得を検討してみると良いでしょう。

また、国際的なイベントへの食材提供において、GAP認証が必要になるケースもあります。例えば2020年東京オリンピック・パラリンピックでは、選手村で提供された食事にGAP認証を受けた生産者の農作物が使われたことで話題になりました。

農業経営の効率化

GAPを取り入れる際には記録や点検を通じて生産工程の見直すため、不要な工程やコストを減らせる可能性があります。結果的に働きやすい環境を整備したり、高品質な農産物を効率的に生産したりすることにつながります。持続可能な農業経営のために、生産工程を効率化できるメリットも見逃せません。

GAP認証取得の手順

6_麦畑

GAP認証を受けるための手順は、大まかに以下のとおりです。
1. 人称を受けたいGAPの適合基準の文書・チェックリストを入手する。現状でできていないポイントを把握する。
2. 適合基準に沿った業務手順を構築する。必要な帳票をそろえる。
3. 作成した業務手順に沿って農場を運営し、記録を残す。手順通りに行われているかチェックし、都度改善しながら一定期間運営する。
4. 認証機関へ審査を申し込む。
5. 審査を受ける。認証機関の審査官が現場確認を行い、判定する。
6. 不適合の指摘があれば適切に修正し、認証機関へ是正報告書を送付する。
7. 合格基準を満たした農場には、JGAP/ASIAGAP認証書が与えられる。
8. 定期的な更新審査により認証を維持する。
団体認証の場合は事務局を設定し、各構成農場の役割分担を行うなどの手順が更に加わります。また、認証を受けるまでには、短くても半年から1年程度掛かります。

GAPの未来:農業ビジネスとグローバル市場への展開

7_羊と風力発電

GAPが求められる背景:市場と消費者の要求

近年では、食品の安全性やトレーサビリティ(追跡可能性)への関心が世界的に高まっています。消費者は健康や環境に配慮した農産物を求めており、遺伝子組み換え作物や過剰な農薬使用は避けたいと考える消費者も増えています。
国際市場でも生産者GAP認証の取得を求められる傾向があります。特に欧州では、消費者・小売業者・流通業者・生産者などにGAP認証が広く知られ、評価されています。新規の取引を行う際にGLOBALG.A.P.認証の提示を求められるなど、認証がないと市場参入が難しくなる場合もあります。グローバル市場へビジネスチャンスを広げる上で、GAPは重要な役割を果たします。

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GAPを活用した地域農業のブランド化

個人の農家や農業法人が単体で取り組むだけでなく地域全体でGAPを推進し、地域農業のブランド力を高めるケースもあります。特定の地域で生産される農産物として団体でGAP認証を取得することで、品質への安心感を消費者へ提供でき、他地域との差別化につながります。

また、GAP認証の取得時には農業生産プロセスが可視化されるため、近隣一帯で均質な農業を行うことができ、地域全体の取り組みとしてPRしやすくなります。「〇〇県産のGAP認証米」や「〇〇町のGAP認証野菜」などのブランディングにより、認知度を高めることができます。

全国に事例があり、岩手県一関市でASIAGAP認証を取得した「JAいわて平泉ブランド米部会」、
佐賀県唐津市でASIAGAP認証を取得した「JAからつ唐津地区茶業部会」などがあります。

持続可能な農業ビジネスの課題と展望

土や水、日照、雨量や気温など、自然や気象との関わりが多い農業にとって、環境問題は非常に身近で重要なものです。また、持続可能な農業による食料の安定供給が世界中で求められています。
GAPは、品質と生産性の向上、ブランディング、競争力の強化などの効果に加え、SDGs(持続可能な開発目標)の達成に貢献できる取り組みです。
また、人手不足や高齢化、後継者不足による耕作放棄地の増加、環境負荷の増大、食料自給率の低下など農業におけるさまざまな課題の解決に当たって、GAPによる経営効率化は大きな役割を果たします。個人あるいは団体でのGAP認証取得を検討してみるのも良いかもしれません。

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