厳しいルールが効果を生む GAPが鍛える日本の農業

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厳しいルールが効果を生む GAPが鍛える日本の農業

連載企画:農業経営のヒント

厳しいルールが効果を生む GAPが鍛える日本の農業
最終更新日:2019年11月12日

農産物の安全を確保するための規格としてここ数年、脚光を浴びているのが農業生産工程管理(GAP)だ。もともと農産物を輸出する際に有利になるとして関心が広まっていたが、2020年の東京五輪・パラリンピックで選手村などで提供する食材についてGAPの認証取得が条件になったことで、注目度が一気に高まった。ただGAPには、一過性の話題にとどまらない意義がある。農業経営を持続可能なものにするための、管理スキルの向上だ。

安全基準で国際承認を受けたアジアGAP

まずはGAPに関する説明から始めよう。
GAPはGood Agricultural Practice(適切な農業の実践)の略。農薬の適正な使用や異物混入の防止などの「食品安全」と、適切な施肥や節水などによる「環境保全」、作業員のケガを防ぐ「労働安全」が柱で、それぞれの目標を達成するために農作業で管理すべきポイントが詳細に定められている。
GAPの認証制度が誕生したのは1997年。欧州の大手小売業の品質管理担当者が協議し、農産物の生産者に求める基準としてグローバルGAPを作った。国境を越えてさまざまな農産物が盛んに取引されるようになったことを受け、食品の安全を担保するためのルールを設けるべきだとの声が高まったことがきっかけだ。
日本では日本GAP協会が2006年に発足し、グローバルGAPを参考にしてJGAPを作り、第三者機関による認証が2007年に始まった。2017年にはJGAPより内容の厳しい規格として、アジアGAPを作成した。協会の会員には農業法人やスーパー、食品メーカー、農機具メーカーなどが名を連ねている。

日本GAP協会のアジアGAPのパンフレットと基準書

アジアGAPが画期的なのは、世界食品安全イニシアチブ(GFSI)の要求水準を満たす規格として2018年10月に承認を受けたことだ。GFSIはウォルマートやダノン、コストコ、コカ・コーラなどの食品・流通企業で構成する組織。食品安全に関する規格の作成・運営団体から承認の申請を受け、一定の水準を満たしているかどうかを独自のガイドラインをもとに審査する。
GFSIの特徴は、国連食糧農業機関(FAO)などの公的な組織と違い、民間企業が作った組織という点にある。だが名を連ねているのは国境を越えて活動する世界の大手企業のため、GFSIの承認を得ているかどうかは規格の信用力を大きく左右する。日本のアジアGAPは、アジアのGAPで初めて承認を受けた。

2013年に都内のホテルで開かれたGFSIの会合

ではGFSIから承認を受けたアジアGAPと、JGAPは何が違うのか。一つは、認証を得るための審査でチェックされる項目数の違いだ。青果物の基準書だとJGAPが120なのに対し、アジアGAPは163ある。だがもっと重要なのは、GFSIが要求する水準を満たすため、国際標準をより意識した内容にしたことだ。
衛生管理の国際基準「ハサップ(HACCP)」に対応する項目を盛り込んだのはその象徴。異物購入などのリスクがどの作業にあるかを把握し、低減させるため、食品安全に関する幅広い知識を持つチームを作るよう生産者に求めている。
JGAPとアジアGAPのレベルの違いを実感したのが、コメの生産や加工を手がける農業法人のぶった農産(石川県野々市市)だ。社長の仏田利弘(ぶった・としひろ)さんは2009年にJGAPの認証を受けたころ、「それほど難しいとは感じなかった」と話していた。これに対し、2019年6月に認証を取得したアジアGAPは「JGAPの2倍大変だった」という。
仏田さんがアジアGAPに挑戦してとくに感じたのが、「リスクコントロールの意味を理解することの大切さ」だ。たんに基準書に載ったチェック項目に対応することが、認証を取得する目的ではない。リスクがなぜ生まれ、問題が顕在化するのかを理解してはじめて、農場を安全に運営することができる。そういう問題意識をスタッフが共有する必要性を感じたという。

国内の取引でもGAPの存在感が高まる

次にGAPの認証を取得するための手順に移ろう。例えばJGAPやアジアGAPの基準書は、日本GAP協会のホームページで見ることができる。ただ、100を超すチェック項目は現場の作業の極めて細部にわたっており、初めて取得に挑戦する農場が中身を正確に把握するのはちょっと難しいかもしれない。
そこで、GAPに詳しいコンサルタントなどから指導を受けることが、認証を取得する近道になる。農場は指導を受けながら、農作業や農場の管理に関するさまざまな情報を文書化し、作業ルールの改善を進めて審査に備える。
審査は、専門の審査機関に申し込む。審査日数は1日から1日半程度で、各チェック項目について農場の対応が基準に適合できているかどうかを判定する。項目は「必須」と「重要」に分かれており、必須項目はすべて適合し、重要項目は95%以上適合することが求められる。

「これからGAPの重要性は高まる」と話す日本GAP協会事務局長の荻野さん

そう書くと、「かなりの難関」と思うかもしれないが、GAPは一般の資格試験などと違い、審査だけで合否を決める規格ではない。目的はあくまで農場管理の向上にあり、審査で適合した項目が足りなくても、不適合との指摘を受けた項目を決められた期間内に改善すれば、認証を受けることができる。
ではGAPを取得することで、どんなメリットがあるのか。日本GAP協会事務局長の荻野宏(おぎの・ひろし)さんは、「GAPのことを『農産物を輸出するためのパスポート』と表現する人が一部にいるが、現状では輸出に際して必ずしもGAPの取得が条件になっているわけではない」と話す。
実際、イチゴやリンゴ、コメなどさまざまな農産物がアジア各国や米国に輸出されているが、そのほとんどはGAPのおかげで海外市場を開拓できたわけではない。GAPを取得していない農場で栽培した農産物も多いだろう。評価されているのは、日本の農産物の高い品質だ。

アジアGAPの認証を取得したぶった農産の仏田さん

ただし、それは荻野さんも強調するように「現状」の話。「農産物輸出でGAPの取得を求めるのは世界的な流れになりつつあり、重要性は確実にもっと高まる」。輸出の例ではないが、国際舞台である東京五輪・パラリンピックでGAPの取得が食材の条件になったのは、世界の潮流を端的に示している。
そしてこの流れは、国境を越える取引だけで起きているわけではない。大手スーパーなど多くの流通企業がGAPを取得した農産物の取り扱いを増やす方針を表明しているように、国内の取引でもGAPの存在感は増しつつある。
ぶった農産がアジアGAPを取得したのも、そうした動きに対応するのが目的だ。ある大手鉄道会社が駅構内などで売る弁当向けに、精米を販売しようと思ったことが取得するきっかけとなった。仏田さんは「これからは中小の飲食店も、原材料に高い安全基準を求めるようになる。彼らとの取引を増やすためにも、アジアGAPは有効だと考えた」と語る。

農政も農業界も隔世の感の変化

食品関係の民間企業が集まって日本GAP協会を発足させて間もないころ、農林水産省は日本でGAPを本格的に普及させることについて必ずしも積極的とは言えなかった。担当官を置き、GAPを広める姿勢を形だけ見せてはいたが、とても国際的に通用する水準のものではなかった。
グローバルGAPやJGAPのように、第三者の立場の審査機関の判定に基づき、認証を付与するのがGAP本来のルール。認証の中立性と客観性を担保するためには当然の措置だ。ところが当時、農水省は都道府県に調査を頼み、現場の自己申告ベースで「GAPを導入した産地の数」を積み上げていた。
例えば、首都圏のある農協は、県が定めた約30項目のチェックシートを農家に配り、項目に対応できているかどうか、農家に自分で記入してもらっていた。出荷に影響するのを心配し、農家はシートにたくさんマルを付けたがる。審査はない。農水省が「導入済み」とした中には、こうした産地も含まれていた。

アジアGAPとJGAPのロゴ

農水省が当時、産地に対してそうした「優しい対応」をしたのは、基準を厳しくすることで、GAPを導入したと認めてもらえない産地が増えるのを心配したからだ。産地や農家をできるだけ広く支援の対象にしようとする、農政によくあるパターンだ。だから当時、農水省は国際水準を目指す日本GAP協会と距離を置いていた。そしてそのときすでに、グローバルな食品関連企業が品質管理の底上げを目指すGFSIを発足させ、動き始めていた。
そのころと比べると、グローバルGAPやアジアGAPなど国際的に通用する基準を導入しようとする農業界の動きには隔世の感がある。農政も高い基準を広めることに対してずっと積極的になった。背景にあるのは、農政が農産物の輸出振興に本気で取り組み始めたことや、東京五輪など。訪日客(インバウンド)の劇的な増加と定着も、国際ルールの普及にとって追い風になる。
そして重要なのは、GAPなどレベルの高いルールに照らして農場を運営することが、日本の農業を持続可能なものにするための一助になるという点だ。想定されるさまざまなリスクを軽減するためのノウハウの向上は、経営環境の変化に対応できる柔軟で強い足腰を養うことにつながるからだ。それは、輸出などで農産物の売り上げを増やすこと以上に重要だと思う。

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