例外に挑むJA秋田ふるさと 農協組合長の“雰囲気に流されない”戦略とは

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例外に挑むJA秋田ふるさと 農協組合長の“雰囲気に流されない”戦略とは

連載企画:農業経営のヒント

例外に挑むJA秋田ふるさと 農協組合長の“雰囲気に流されない”戦略とは
最終更新日:2019年12月04日

農業はいつも、さまざまな形で政策の影響を受けている。多くの作物が補助金や低利融資など何らかの形で制度に支えられている以上、経営が農政に左右されるのは、やむを得ないこととも言える。だがそういう中にあっても、政策に任せきりにせず、自らが理想と思う農業のあり方を追求している農業関係者がたくさんいる。秋田ふるさと農業協同組合(JA秋田ふるさと、横手市)の組合長、小田嶋契(おだじま・ちぎり)さんもそうした一人だ。

雰囲気に流されず主食米を増産

小田嶋さんの農協運営で最近、異彩を放ったのが、2018年に農林水産省が実施したコメの生産調整(減反)の見直しへの対応だ。
農水省は毎年、都道府県に対して主食米の生産量の上限を指示してきた。上限を段階的に引き下げることで、生産量を減らしてきた。コメ消費の減少に対応し、米価の下落を防ぐのが目的だ。約半世紀にわたって続けてきたこの仕組みを、2017年を最後に廃止した。
この改定に対し、相反する予測が事前にあった。国が上限を指示しなくなるので、増産の動きが盛んになるとの見方が一つ。これに対し、上限の指示はなくなっても、コメを家畜のエサに回したときに出す補助金は残るので、実態は変わらないという見通しもあった。
結果はほぼ後者の形になった。自治体や農協が連携して主食米を減らす計画を作り、多くの生産者がそれに従った。制度による強制ではない。食生活の変化や人口減少でコメ消費は減り続けているので、産地がいっせいに増産に走ればコメが余る。自治体も農協も農家もそのことを懸念した。予想通り、飼料米の補助金が計画の達成を大きく後押しした。

管内のコメの生育状況を確かめる小田嶋さん

多くの産地のこうした行動は一見、合理的に見える。だがよく考えてみれば、民間の経済活動として疑問符がつく。すべての産地が同じ競争力を持っているわけではないからだ。おいしいコメの生産に適した気候かどうかや、生産と販売の両面にわたる産地の努力次第で、競争力には大きく差が出る。
市場は縮小していても、競争力に自信があるなら、制度の見直しをきっかけに攻めに転じるという選択肢もある。それを検討してみるのが民間の本来の姿だ。だが制度による強制はなくても、農協の間では「抜け駆けは認めない」との雰囲気が強く、ほとんどは制度が変わる前と同じ対応を続けた。
例外がJA秋田ふるさとだ。小田嶋さんは農協内部のムードを気にせず、「秋田はコメの主産地。生産を増やして当然」と言い切った。主食米の作付面積を2018年は前年比で19.1%増やし、2019年も同2.1%増やした。

2015年撮影。当時からコメの増産への意欲を語っていた

小田嶋さんは2018年になって突然、増産を決めたわけではない。農水省が2013年に「5年後に上限を指示するのをやめる」と表明したとき、「これはチャンスだ」と考えた。多くの農協が米価の下落を心配する中で、小田嶋さんには別の思いが頭をよぎっていた。「そもそも約半世紀前に生産調整が始まったとき、多くの農協は減産に反対したではないか」
だから2018年の制度改定をにらみ、周到に準備を進めてきた。コメの販売拡大を目指し、有力なコメ卸との連携を強化したことがその柱。卸との商談を収穫の1年前から始めるようにすることで、売れ残りを心配せず、翌年の増産を自信を持って農家に勧められる態勢を整えた。
もちろん、このやり方を通用させるには、卸が求めるコメの品質を保つことが必要。そのために栽培指導を徹底しているが、一連の努力を支えているのは「生産振興こそ農協の使命」という信念だ。秋田がコメの有力な産地である以上、小田嶋さんにとってコメの増産は自明の目標だった。
地域ごとに異なる条件に応じ、適した作物を作るのが農業にとって最も大事なことだ。にもかかわらず農水省は、コメに関しては全国一律に減産を進めてきた。その制度が変わったことで、多様な選択肢が浮上した。小田嶋さんにとってそれは、コメの生産と販売で攻めに転じることだった。

農家が参加して地域の振興計画を作る

JA秋田ふるさとの管内は稲作地帯だが、シイタケやスイカ、リンゴ、アスパラなどにも力を入れている。それに関連して最近、やり方を改めたことが一つある。3年ごとに改定する地域農業振興計画の作り方だ。今回の期間は2021年までの3年間で、2019年3月の臨時総代会で決定した。
これまでは農協の職員が横手市などと相談しながら品目ごとに生産や販売に関する計画を立て、農家の代表が集まる総代会でそれを追認していた。小田嶋さんは「それでは農家が当事者意識を持てない」と考えた。
そこで今回は、作物ごとの農家の集まりに小田嶋さんが出席し、計画を自分たちで作ってほしいと訴えた。「3年後に自分はどんな経営をしているのか。生産を増やす気があるのか、現状維持か、それともやめてしまうのか」。そんなシビアな問いかけをしたのは、自分たちの現状を冷静に見つめることで、向こう3年間で何をしなければならないかを考えてほしかったからだ。
そうしてまとめた計画には、農協が重点的に実施すべき項目として「マーケットインに基づく生産体制の確立」や「生産コスト低減による農業経営の支援」などを掲げるとともに、品目ごとに生産数量と販売金額の目標を明記した。小田嶋さんは「中身がこれまでとそう大きく変わったわけではない」と謙遜するが、作物ごとに直面する課題と将来のあるべき姿についての認識を、農家同士、そして農家と農協の間で共有できたことの意義は大きい。

2019年3月に決定した地域農業振興計画

地域農業振興計画の作り方を変えようと思ったのは、農水省が進める「人・農地プラン」に疑問を抱いたことがきっかけだ。地域ごとの話し合いで、中心となって農業を担う人を決めてもらい、さまざまな政策でサポートする制度で、2012年にスタートした重点施策だ。だが、小田嶋さんは「人・農地プランは形式的なものになりがちだ」と話す。
理由は「地域の将来をとりあえず誰かに丸投げし、『あいつがやってくれればいい』というノリになってしまう」と感じたからだ。農業のあり方は地域と不可分だが、同じ地域の中にもいろんな作物がある。それを地域でひとくくりにしようとするから、どこか人ごとになり、ともすると安易な人選になる。
実際、筆者の取材でも、規模拡大の意欲がなく、後継者もいない高齢の零細農家を担い手として選んだ例があった。この地域の自治体の職員によると、「手を挙げられたら、拒むことはできない」という。農水省が旗を振っている重点政策なので、形だけ担い手のリストを作ったことは明らかだろう。
JA秋田ふるさとが今回、同じ品目を作る農家同士で話し合った結果を積み上げて、計画を作ったのはそうした事態を防ぐためだ。「この地域の農業をどうするか」ではなく、「この作物をどう発展させるか」をテーマにしたほうが、当事者意識が高まり、各作物の振興につながると考えた。

スイカ農家たちとともに

こうした取り組みを始めたのは、農業界にある「人任せ体質」の危うさを日ごろから憂慮しているからだ。「生産者は何かうまくいかないことがあると『農協が悪い』と言い、農協は『(上部団体の)連合会が悪い』とこぼし、さらに農業界は『国が悪い』と批判する」(小田嶋さん)。農協を運営してきて痛感したことだ。
こうした指摘は、常に天候に左右される農業の本質に関わっているように思う。栽培がうまくいかなかったとき、「天候が良くなかった」と嘆くか、それとも「準備が足りなかった」と考えるか。巨大災害はいったん脇に置くとして、トラブルにどう向き合うかで経営の先行きは変わる。
もし事業がうまくいっていないなら、小田嶋さんのさまざまな言葉はかけ声倒れに聞こえるかもしれないが、実際は逆。よく農協に対して「農薬や肥料の調達、農産物の販売など経済事業の赤字を、金融事業の黒字で補塡している」といった批判がなされるが、JA秋田ふるさとは両事業とも黒字だ。

農協の役割は食料の安定供給

正直なところを言えば、かつて農業取材を始めたとき、何となく農協に対してネガティブなイメージを持っていた。農協を利用せず、農家が直接農産物を販売することが、ビジネスとして正しいことのように思っていた。
農業法人の経営者から「ずっと農協が農業を取り仕切っていた。だから、日本の農業が危機的状況にあるのは、農協のせいだ」などと言われると、そういうものかと思ったりした。根拠があって、そう思ったわけではない。
だが、取材を続けているうち、印象は少しずつ変わっていった。JA秋田ふるさとをはじめ、話を聞いていて頼もしく感じる農協もあるし、そうでない農協もある。これは、農業法人についても言えることだ。

生産振興を目指すJA秋田ふるさと

見方が変化したきっかけの一つに、食料問題を考えるようになったことがある。東日本大震災が起きたとき、コンビニやスーパーの店頭から一時、コメやパンが消えた。「食料が足りない」という危機感が少しでも人びとの頭をよぎると、社会は大きく動揺する。他の消費財とは違うインパクトがある。
重要なのは、適正な価格で安定的に食料が供給されることだ。
個の力で頑張る農家や農業法人の経営者に取材していると、まぶしいくらいの魅力を感じることが度々ある。リスクに向き合い、新たなビジネスの形をつくる彼らの姿は、農業の未来の希望を象徴しているように見える。
ただ、すべての生産者が自分で農産物を加工したり販売したりできるわけではないし、もしやろうとしたらマクロで見て大きな非効率になる。販売コストが膨大な規模に積み上がってしまうからだ。そして、多くの生産者にとって大切なことは、安心して栽培に専念できることだろう。
小田嶋さんは「特定の作物を特定の人だけが作っている状態を、産地とは言わない。誰もがふつうに作っていて、欲しいと思う人に安定的に供給できるのが産地だ」と話す。そこに農協の果たすべき重要な役割がある。

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「食と農」の現場を日々取材する記者が、田畑、流通、スマート農業、人気レストランなどからこれからの農業経営のヒントを探ります。

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