【アメリカ農場視察リポート】有機農業の動向と日本との違い

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【アメリカ農場視察リポート】有機農業の動向と日本との違い

連載企画:農業経営のヒント

【アメリカ農場視察リポート】有機農業の動向と日本との違い
最終更新日:2019年12月04日

日本で農業を始める若者には、農薬や化学肥料を使わない有機農業を選ぶ人が少なくない。背景にあると見られるのが、2011年の東日本大震災などをきっかけにした、経済や社会に対する考え方の変化だ。世界的に環境問題への関心が高まっていることも、長い目で見て追い風になるだろう。では日本と海外との間で、有機農業の技術に違いはあるのか。2019年7月半ばに米国の農場を視察した岐阜大学教授の荒幡克己(あらはた・かつみ)さんにインタビューした。

土作りを重視しない米国の農場

荒幡さんはコメ政策や稲作の動向に関して精力的に執筆しているほか、有機農業や米国の農業についても詳しい。今回視察したのは、米国南東部にあるジョージア州の都市、アトランタ近郊のガイアガーデン農場だ。
運営しているのは、2008年に設立されたラブイズラブ農場という会社。農地を持っていない若い新規就農者を支援するのが設立の目的だ。とくに、家畜にとってストレスの少ない飼育環境を整え、動物福祉を重視している畜産農家や、有機農業に取り組む農家などを応援することを目指している。
ガイアガーデン農場は同社が運営している複数の農場のうちの一つで、1.6ヘクタールの畑でさまざまな野菜を作っている。荒幡さんによると、米国の新規就農者が都市近郊で営む農場として最低の規模は確保されている。
荒幡さんを含む視察団を案内したのは、ガイアガーデン農場の副支配人のデメトリュウリム・ミリングさんと、ジョージア大学で農業の普及活動を担当しているアマンダ・スミスさん。スミスさんは、荒幡さんが帰国後に筆者のインタビューを受ける際、写真の送付などで取材に協力してくれた。

それでは、インタビューの中身に移ろう。
有機農業に関心のある人が畑でまず注目するのは、土の様子だ。荒幡さんは畑の土を触ってみて「有機物がたくさん入っていると、土はもっと軟らかい感じになるはずだ。ここはそうとは思えない」と感じたという。

土作りを重視しないガイアガーデン農場。視察団の一番左が荒幡さん(写真提供:アマンダ・スミス)

続けて荒幡さんは「日本人には米国の農業は持続可能性がないと思っている人が多いが、そんなことはない」と補足した。確かに、かつて筆者の取材に対し、ある研究者は「米国は効率を優先し、化学肥料を使って大規模に単一の作物ばかり作っているので、土がダメになっている」と説明した。
だが、荒幡さんによると、中西部で以前見た広大なトウモロコシ畑の土は、黒々として軟らかかったという。農薬や化学肥料を使う慣行農法だが、堆肥(たいひ)などの有機肥料も併用して土作りをしていた。そのとき抱いた印象は「日本より土作りに力を入れている畑も結構ある」というものだった。
わらや落ち葉、家畜のふん尿などの有機物を発酵させて作る堆肥には、土を植物の生育に適した状態に変える力がある。堆肥でじっくり土作りをすれば、水はけがよくて、保水性も高いなど、一見両立しそうにない状態に土が変わる。荒幡さんは「土の健全な状態を守るという農業本来のあり方」と話す。
だがそれと、今回の農場は別だった。家畜のふん尿などで作った堆肥は一切使わず、食品工場から出る食品残さを発酵させ、畑に投入していた。荒幡さんが理由をたずねると、答えは「早めに効果が出る」。視察では、食品残さの成分を細かく聞くチャンスはなかったが、土の状態の改善より、手っ取り早く作物を大きくすることを優先しているのはわかった。限られた視察時間で荒幡さんが確認したのは、ガイアガーデン農場が速効性を重視する目的だ。

中央で畑から芽が出ているのがルッコラで、その左が地力を高めるために植えたソバ(写真提供:デメトリュウリム・ミリング)

理由は、1年更新の借地契約にあった。荒幡さんは「(農地の貸し借りは)人と人との関係に依存しており、短期契約だからといって畑を返すよう求められることはまずないが、潜在的なリスクにはなる」と語る。「人と人との関係」は作物をきちんと栽培し、賃料を払うことで成立する信頼関係を指す。
難しいのは、就農したばかりの人は栽培に慣れておらず、地権者と信頼関係を築く途上にある点だ。長い時間がかかる土作りにこだわるあまり、スタートダッシュで栽培に失敗して賃料を払えなくなれば、信頼を得ることもおぼつかなくなる。だから、早めに効果が出る栽培方法は「短期の借地で営農する新規就農者にとって取り組みやすいやり方だ」と感じたという。
一方、日本と比べて徹底していると感じたのが、連作障害の対策だ。畑で同じ作物を作り続け、土中の環境が単純になると、病害虫が発生したり、作物が元気に育たなくなったりする。それを防ぐため、一つの畑でいろいろな作物を順に作るのが輪作だ。ガイアガーデン農場はソバやソルガム、タヌキマメなどを販売用ではなく、地力を維持するためだけに栽培していた。
日本の農家も連作障害を防ぐため、ふつうは輪作を取り入れている。ただ、荒幡さんが感じたのは、どこまで徹底するかの違いだ。これまで日本で接してきた農家の中には、実際に障害が出てしまってから、ようやく別の作物を作り始めるようなケースも少なくなかったという。荒幡さんはこの点について「根本原因は水田と畑の違いにある」と説明する。水田稲作は畑作と違い、連作障害が起きにくい。日本はずっと稲作中心の農業を続けてきたため、畑作が中心の米国ほど連作障害に対して敏感になりにくいというわけだ。
「米国の有機農業が(土作りを重視する有機農業の)原則に忠実でなく、比較的容易に取り組みやすい方式のみを採用しているかと言うと、そうとは限らない。輪作はかなりしっかり励行されている」。荒幡さんは今回の視察をそう総括する。

有機野菜が増え、値段が下がっている米国市場

ここまでが、荒幡さんによる米国の有機農場の視察報告の概略だ。取材ではそれに加えて、いくつかのリポートを参照しながら、米国の有機農業の動向や日本との違いを、データをもとに比較してくれた。
まず取り上げたのが、米国のどの地域で有機農業が盛んかについてのデータだ。参照したのは、米国の民間シンクタンクのピュー研究所が2019年1月に発表したリポート(“Organic farming is on the rise in the U.S.”)。耕地面積に占める有機農業の比率が最も高いのはバーモント州の11%で、次いでカリフォルニア、メーン、ニューヨークの各州が4%を超えている。
このデータから何を読み取るべきか。荒幡さんによると「環境問題に関心が強く、民主党支持者が多い地域ほど有機農業にも関心が強い」。これに対し、米国には産業の輸出競争力を重視し、遺伝子組み換え作物に肯定的で、「アンチ環境派」というべき共和党支持の人がかなりいる。そうした人々が多い中西部では、有機農業があまり普及していないという傾向がみられるという。
ここには米国の特色がよく表れている。日本も有機野菜を栽培する人や買う人には、環境問題への関心が強い人が多いが、米国ほど特定の政党や地域との結びつきは強くないだろう。米国という巨大な国をひとくくりで論じることは、有機農業についても適切ではないことがわかる。

地力を高めるため、混ぜて植えたソルガムとタヌキマメ(写真提供:デメトリュウリム・ミリング)

ものの考え方が大きく2つに分かれる状況は、有機食品を支持するかどうかのデータにも表れている。ピュー研究所の2018年11月のリポート(“Americans are divided over whether eating organic foods makes for better health”)によると、有機食品の健康効果に価値があると認める人は45%で、慣行栽培で作った食品と変わらないと思う人は51%。荒幡さんは、有機農業に対する米国人の姿勢は「分断されている」と指摘する。
一方で、「将来的に有機食品市場の拡大が期待できる」とも話す。根拠は有機食品を支持する人を年代別に見た同じリポートのデータで、65歳以上が39%なのに対し、若くなるほど支持派が増え、18~29歳は54%に達している。
ここから先は筆者の感想だが、日本でも同様の傾向を確認できれば面白いと思う。農業関係者に取材していると、「新規就農者は有機農業をやりたがる人が多い」という声をよく聞く。消費者の側にも若い世代ほど有機食品を求める人が多いなら、新規就農者にとって明るい材料になる。荒幡さんが米国について指摘しているのと同じで、市場の拡大を期待できるからだ。

中央の2列が赤さやササゲ、左が大豆、右がバジル(写真提供:デメトリュウリム・ミリング)

最後に取り上げるのが、有機農産物の価格のプレミアム(割増価格)に関する日米比較だ。日本の農林水産省が2019年8月に出した「有機農業をめぐる事情」によると、有機栽培のピーマンの販売価格は標準価格より87%、ニンジンも74%高い。
米国はどうか。米農務省の2016年5月のリポート(“Changes in retail organic price premiums from 2004 to 2010”)によると、ニンジンのプレミアムは27%で、ジャガイモは28%。ホウレンソウにいたっては7%しかない。荒幡さんが指摘するように、「米国のほうがプレミアムは概して小さい」。
日米の違いのわけを探るため、荒幡さんは上記2つのデータに加え、米国の有機野菜の市場シェアのデータを示してくれた。出所は同じ米農務省の同じリポート。それによると、ニンジンは15%で、ホウレンソウは40%に達していた。日本のデータは手元にないが、おそらくはるかに低い水準だろう。
荒幡さんはこれらのデータをもとに「マーケットに出回る有機栽培のホウレンソウのシェアが4割もあるので、どこにでもある商品になり、希少価値が低下して、一般のホウレンソウとの価格差が小さくなっている」と話す。
筆者が以前取材した高齢の有機農家で、コメの店頭価格が1キロ当たりで2000円を超す人がいた。破格の高値と言っていいだろう。それこそ何年もかけて自分で堆肥を作っている人で、育苗にもふつうよりはるかに手間をかけていた。だが、彼は高値を喜ぶどころか、寂しそうにこう語っていた。
「本当はみんなも自分のように作ってほしい。その結果、有機栽培米が増えて、自分のコメが安くなってもいっこうに構わない。でも現実には、同じやり方をする仲間がどんどん減っていってしまった」

環境問題への関心と有機農業

今回の取材を通して考えたのは、視野を広げることの大切さだ。
就農を希望する人の多くは、いったんどこかの農場で研修してから独立する。やりたいのが有機農業なら、有機農家のもとで栽培技術を身につける。
悩ましいのは、いったん就農してしまうと、習ったのとは違う手法を試すのが難しくなることだ。ふつうは始めてから数年間はさまざまな失敗を経験する。それが、技術の未熟さによるものなのか、自分の習った方法そのものの問題に起因するのかを判断するのは、そう簡単ではない。
そこで多くの新規就農者は何年もかけて経験を積みながら、自分なりのやり方を見つけていく。だが、その過程でまったく違う方法を知ることができれば、改善のペースを速めることができるかもしれない。すぐ影響されて栽培方法を頻繁に変えるのは論外だが、視野を広げる意味はあるだろう。

「米国の栽培方法が日本の新規就農者の参考になってくれれば」と話す荒幡さん

そこで、まったく違う手法を知るために今回取り上げたのが、土作りを重視しないガイアガーデン農場の事例だ。荒幡さんから帰国したときにメールをもらい、「ぜひ詳しく取材させてください」とお願いした。有機農業に限らず、日本で取材していると、土作りの話になることがほとんどだからだ。
言うまでもなく、ここのやり方が米国の有機農業を代表しているわけではない。ただ、ジョージア大学の担当者があえて荒幡さんたちを案内したことからわかるように、現地の農業学界からみても注目すべき価値がある。
農業界の話ではないが、大手企業の経営者の取材で、「環境問題への若者の関心が強くなっている」という話をよく聞く。商品を売る際も新人を採用するときも、事業が環境にフレンドリーかどうかが問われることが多くなっているという。その傾向は東日本大震災を機にじわじわと強まり、国際的な環境問題への関心の高まりが拍車をかけているように感じる。
有機農業が選ばれるようになっているのも、こうした潮流と無関係ではないだろう。だが、それがビジネスとして持続可能性を持つには、多角的な視点を持つことが必要。今回のような情報がその一助になればと思う。

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「食と農」の現場を日々取材する記者が、田畑、流通、スマート農業、人気レストランなどからこれからの農業経営のヒントを探ります。

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