挫折した植物工場の旗手、再生の武器は250グラムのレタス

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挫折した植物工場の旗手、再生の武器は250グラムのレタス

連載企画:農業経営のヒント

挫折した植物工場の旗手、再生の武器は250グラムのレタス
最終更新日:2019年09月24日

産業界から広く注目を集めていた千葉大発の植物工場ベンチャー、「みらい」が経営破綻してから4年。事業を継承して誕生したMIRAI(千葉県柏市)が、新たな飛躍を目指して本格的に動き始めた。そのための戦略として選んだのが、小ぶりとのイメージが強い工場野菜の常識を覆す、重量感たっぷりのレタスの栽培だ。再生という難局を乗り越え、業界の動向を幅広く分析したうえで同社が得た知見は、植物工場がさらに発展するためのヒントとなる。

露地栽培に見劣りしない大きさのレタス

東京都江東区にある東京ビッグサイトで2019年8月下旬に開かれた食品関連の展示商談会。抹茶を使ったさまざまな飲料や米国の牛肉、国産のパスタ、熊本の馬刺し、さらにラーメンスープや和風だしなど、膨大な数の魅力的な展示を脇に見ながら、真っ先に向かったのが、植物工場を運営するMIRAIのブースだった。社長の野澤永光(のざわ・ながてる)さんから「ようやく工場を改造できました。その成果を、展示会でお見せできます」と誘われていたからだ。
そこにあったのは、工場製としてはそれまで見たことのない大きさのレタスだった。
現在、工場で作られている野菜は結球しないリーフレタスがほとんどで、重さは80グラムが中心。スーパーなどで販売されており、指先でつまんでひょいと持ち上げることができる大きさだ。一回で食べきるにはちょうどいいが、露地で育てたレタスと比べると、どうしても小さく感じてしまう。

「ようやく前進できる」と話すMIRAI社長の野澤永光さん(東京ビッグサイトの展示会にて)

これに対し、野澤さんがそのとき見せてくれたレタスは、重さがこれまでの3倍以上の250グラム。手にとってみると、「ずしり」とまではいかないが、確かに重さを感じることができた。手のひらに乗るサイズの既存の工場レタスと違い、露地モノと比べても見劣りしない大きさで、葉っぱも厚い。
MIRAIは千葉県柏市と宮城県多賀城市の2カ所で植物工場を運営している。そのうち柏市の工場の設備の一部を、6月から8月にかけて改造した。ポイントの一つは、レタスを育てる栽培棚の段数を、11段から7段に減らしたこと。高さは4.5メートルのまま変えなかったので、上下の棚同士の間隔が広がった。その分、栽培空間に余裕ができたわけだが、それだけでレタスが大きく育つわけではない。
もっと重要なのは、栽培方法だ。野澤さんによると、「発光ダイオード(LED)照明の当て方や、棚を流れる水の速さ、棚と棚の間の空気の流れ方を変えた」。ようは栽培方法を一から見直したわけだが、「詳細についてはお話しできません」。そこには、旧みらいがMIRAIとして再生して以降、野澤さんがあたため続けたアイデアが凝縮されている。秘密にするのは当然だろう。

展示会に出したディスプレー

野澤さんが社長になったのはMIRAIになってからだが、旧みらいでも営業担当として働いていた。旧みらいが破綻する直前には、売り上げを増やすために取引先の間を奔走した。今回、公開するにいたった「重いレタス」の栽培方法は、もう二度と失敗したくないとの思いが詰まった技術なのだ。
そのため、取材では技術の細部を聞くことにはこだわらなかったが、どうやって重量を増やしたのか、野澤さんのほうから核心部分を教えてくれた。株を重くするには、葉っぱを大きくすることが必要だが、それだけでなく、葉っぱの枚数を増やすことを追求した。例えば、サラダなどによく使われるグリーンリーフで、葉っぱの枚数を10枚から25枚に増やすことに成功した。LEDの光の当て方や水流の速さも、その点に焦点を当てて最適解を探した。
筆者は数年前から野澤さんに取材をしているが、この日ほど晴れやかな表情を見せてくれたことはなかったように思う。金属製のザルからあふれるほど大きく育ったレタスを見つめながら、野澤さんは次のように語った。
「MIRAIを設立してからの3年余りは、ひたすら耐え続ける期間でした。目の前にある設備を使って最善を尽くし、売り上げを増やすことに集中してきました。これからは、ようやく本格的に前に進むことができます」

大量生産に乗り出し、売り先に困った

旧みらいは、植物工場の研究で有名な千葉大学の技術をもとに、2004年に設立された。植物工場の開発や設計、運営コンサルティングが主な仕事で、千葉大に拠点を置く産学連携のベンチャーだった。海外に設備を輸出したり、南極の昭和基地に設備を提供したりしたことで、植物工場の可能性を象徴する存在として注目を集めた。
関心は業界の垣根を越えて広がり、三井不動産と日本GEが提携先として登場した。両者をパートナーに二つのプロジェクトが立ち上がり、それぞれ柏市と多賀城市に2004年に工場を建設した。いずれもレタスの出荷量が1日1万株の、当時としては大型の施設だった。こうして旧みらいは、設備やノウハウの提供から、工場の運営へと踏み出した。これがつまずきのきっかけとなった。

千葉県柏市にあるMIRAIの植物工場

千葉大の小さな施設で作っているうちはよかった。近くのレストランに一応売ってはいたが、本業はコンサルティングだった。ところが、多賀城市と柏市の工場の生産能力は1日に計2万株と、レタスの産地でもどう売るか戸惑うような量だ。売り先に困り、レタスを半分以上捨てることもあった。
販路を見つけるうえでネックになったのが、レタスの大きさだった。「日量2万株」と宣言してしまったため、株数を追って棚の間隔を狭くした。その結果できたのが「4.5メートルの高さで11段」の栽培棚だ。いまではそれでも80グラムのレタスを作れるようになったが、当時できたのは50~60グラムのものばかり。「こんなサイズでは売れない」。営業担当は当初、小さいレタスを手に途方に暮れた。

人工光がレタスを照らす

最大のハードルになったのが、採算分岐点の高さだった。露地のレタスの出荷価格は、不作でなければ1キロで200~400円程度。一方、旧みらいが利益を出すには1000円で売る必要があった。今でこそ、植物工場は初期投資に加え、稼働後の電気代や人件費がかさむため、低コストでないことがわかっている。そして今なら、当時より効率的に野菜を作る技術も開発されている。だが、旧みらいは大型工場を造ってから、課題に気づいたのが実情だった。
そのころ、販路の開拓に奔走したのが野澤さんだった。重点的に営業をかけたのが、レストランや総菜店などの業務用だ。スーパーの生鮮コーナーなら一時レタスが消えても何とかなるが、「レタスのサラダ」や「レタスのサンドイッチ」はレタスなしでは成り立たない。しかも、不作でレタスの値段が高騰したとき生鮮コーナーなら値段に反映させることができるが、レストランや総菜のメニューはそうはいかない。ここで、工場産の安定性が武器になった。
レストランなどの業務用を狙う作戦は、植物工場の強みを「発見」することにつながった。だが、赤字の拡大はそうした努力を超えて進み、2015年6月に旧みらいは東京地裁に民事再生法の適用を申請した。破綻時に明らかになった負債総額は10億9200万円。農業界では異例の大型倒産だった。
旧みらいはその後、配線カバーメーカーのマサル工業(東京都豊島区)が買収し、2015年11月にMIRAIとして再出発した。旧会社のころから働いていた野澤さんは、その後ほどなくして社長になった。営業を担当し、工場野菜のニーズを知っていることが評価され、再生の陣頭指揮を任された。

レタスを使う側の利点をとことん追求した

ここで、MIRAIが今、栽培することができるようになった250グラムのレタスに話題を戻そう。レストランや総菜店がレタスを使ってサラダなどを作る際、ふつうは株元を切って葉っぱをバラバラにする。重さが80グラムから250グラムに増えたことで、この作業が3分の1に減る。それだけでもオペレーションの負担を軽減できるが、このレタスのメリットはそれだけではない。

レタスの葉っぱの枚数を25枚に増やした

葉っぱをバラバラにした写真を見るとよくわかるが、株の中心にあった小さい葉っぱを除くと、ほとんどの葉っぱの大きさと形がほぼ同じなのだ。そのまま皿に盛りつけて、サラダにするのにちょうど手ごろな大きさだ。もし、葉っぱを大きくすることを優先して株の重量を増やしていたら、皿に盛る前にカットすることが必要になっていた。使う側のメリットをまず考えて、栽培方法を改善した結果だ。営業ならではの発想だろう。
ここで読者の中には、「1株の重さは確かに増えた。でも栽培棚の段数を減らしたので、棚全体のレタスの重量は減ったのではないか」と疑問に思う人もいるかもしれない。答えは逆で、2倍以上の総重量を見込めるようになった。使う照明の数や従業員による作業工程、さらにレタスのロスも減ったので、経費を大幅に抑えることも可能になったという。それが、野澤さんたちが「ひたすら耐える3年余り」の間に追求してきたことの成果だ。

新しい栽培方法で大きく育ったレタス

植物工場の技術は日進月歩で、しかもどれが最も優れた設備なのか、結論は出ていない。だから最新鋭に見えた工場が、数年後には時代遅れになっていたりする。そうした中で、MIRAIは自分なりの答えをようやく見つけ、新たな一歩を踏み出した。
ただし、新しい栽培方法の導入はまだ緒に就いたばかり。柏工場はAとBの二つの栽培棟があるが、改造したのはB棟に10個ある栽培棚のうち、一つだけ。2020年以降、順次ほかの棚も改造していく計画だ。
最後にもう一つ、野澤さんの言葉を紹介しておこう。
「植物工場は試験栽培ではうまくいっても、野菜を量産しようとすると、環境のちょっとした変化やスタッフの技術の差が影響し、生産が安定しないことが多い。だからこそ品質管理を最も重視し、専門の部署を設けました」
植物工場を開発する企業の中には、まだ工場の運営がビジネスとして軌道に乗っていないにもかかわらず、わずかの成功を根拠に「最先端」と強調する人がいる。だが、技術の優位性を証明できるのは、安定供給を達成してからのことであり、そのための条件は量産化だ。野澤さんの言葉には、過去の失敗も含め、さまざまな経験を通して得た教訓が込められている。

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