十勝に巨大ヒマワリ迷路が出現 農家と地域を元気にするカラクリ

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十勝に巨大ヒマワリ迷路が出現 農家と地域を元気にするカラクリ

連載企画:農業経営のヒント

十勝に巨大ヒマワリ迷路が出現 農家と地域を元気にするカラクリ
最終更新日:2019年10月21日

北海道の十勝地方に2019年、巨大なヒマワリ畑が登場した。広さは東京ドーム1個分。畑を作ったのは、先進的な経営で知られる前田農産食品(北海道・本別町)だ。7月には畑の中に迷路を作り、地元の人を集めてイベントを開いた。農業が抱えるさまざまな課題を解くためのヒントが詰まったヒマワリ迷路だ。

出発点は連作障害の防止

前田農産食品(以下、前田農産)は農地面積が120ヘクタールと、北海道でも有数の大規模経営の農業法人。栽培している作物はメインの小麦に加え、砂糖の原料になるビート(てんさい)や、ポップコーンに加工するトウモロコシなど。そこにヒマワリが加わった。
ヒマワリの栽培を始めた理由の一つは、同じ作物を作り続けることで起きる連作障害の防止だ。これまで前田農産は4月にタネをまく春まき小麦の次に、9月にタネをまく秋まき小麦を育て、続いてビートからトウモロコシの栽培に移行するという栽培体系を組み立てていた。
ヒユ科のビートを除くと、小麦もトウモロコシもイネ科。収量が減ったりするなどの連作障害はまだ起きていなかったが、社長の前田茂雄(まえだ・しげお)さんは「そろそろ手を打ったほうがいい」と思ったという。

迷路を作ったヒマワリ畑(写真提供:前田農産食品)

キク科のヒマワリを育て始めたのはそのためだ。前田農産はこれを植えることで、春まき小麦→ヒマワリ→秋まき小麦→ビート→トウモロコシの輪作に挑戦することにした。
栽培面では、畑の中で違う品種の小麦が混じってしまうのを防ぐという目的もあった。というのも、収穫した春まき小麦のタネが一部畑に落ちたままになり、秋まき小麦と一緒に育ってしまうことがあったのだ。秋まき小麦の畑で育った数千本の春まき小麦を、2週間近くかけて手作業で引き抜いたこともある。
春まき小麦の後にヒマワリを育てることにしたのは、前田さんが「もう大変」とため息をつくこうした作業を減らす狙いもある。小麦とはまったく違う作物で育て方が異なるので、一緒に育ってしまうリスクが小さいからだ。

ヒマワリのタネを使って試作したパン(写真提供:前田農産食品)

以上は、ヒマワリを育てる栽培上の理由だ。
農業では地力の維持に目的を絞り、畑にすき込むために植物を栽培する例もあるが、前田さんはせっかく育てたヒマワリを商品にすることを考えた。パンの材料として販売するのだ。
白黒のしま模様の殻から、ヒマワリの小さなタネを取り出す。それをパンの表面にふりかけ、こんがりと焼き上げる。以前から小麦粉の販売でつき合いのある十勝の有名ベーカリー、満寿屋商店(帯広市)にこのアイデアを示した。2018年に試験的にごく狭い面積でヒマワリを栽培し、パンを試作してもらうと、商品になりそうなおいしいパンができた。

連作障害の防止という目的で選んだヒマワリは、こうして販売用の作物になる可能性が見えてきた。だが前田さんは当初から、もっと別の大きな目標も持っていた。地元の食と農のファンを増やしたい――。そのためにヒマワリ畑の中に複雑な道を通して迷路にし、イベントを開いた。ではなぜ迷路を選んだのだろうか。

圧巻! 巨大迷路を楽しむ農業イベント

イベントの開催期間は7月20日から28日までの9日間。各地の生産者がよく開いているような収穫体験イベントではなく、迷路を選んだのは、できるだけ多くの人に畑に来てもらいたいと考えたからだ。
前田さんは「女性に来てもらうには花、子どもに来てもらうには遊びが必要だと考えた」と話す。とくに「遊び」の面で圧巻なのが、東京ドームがまるごと1個入る5ヘクタール弱という広さだ。都府県の農業イベントではなかなか実現できない、北海道ならではの強みと言える。
あまりの広さに、多くの人は1時間くらい中をさまよっていたという。前田さんは「それが重要」と指摘する。「町なかで道に迷うと、すぐスマホで確認しちゃうじゃないですか。でも迷路の中だと、出会った人に自然と道を聞くようになる」。イベントに集まった人の交流の場になったと実感しているのだ。

ヒマワリ迷路を上空から撮影すると「令和」の文字が見える(写真提供:前田農産食品)

参加者は約2800人。
2020年は参加者を増やすため、夏休みが始まるのと同時にイベントを開く予定。参加者数の目標は1万人という。

計画はさらにある。イベントに来た人たちに、ヒマワリのタネを使って満寿屋商店が作ったパンを食べてもらうことだ。イベントは花の観賞と迷路が主目的。だがパンを食べてもらうことで、イベント会場が生産現場だったと気づいてもらえると期待している。前田さんは「汗だくになって迷った迷路のヒマワリが、パンになったということへの驚きを感じてほしい」と話す。

課題をチャンスに変える発想

ポップコーン用に育てたトウモロコシ

最後に前田さんの営農の特徴について触れておこう。
北海道は農場が広大で効率的な半面、多くの農家は農協などに農産物を売った後、その先どこにどう販売するかは任せきりにしている。それで生計が成り立っているので問題はないのだが、前田さんはふと素朴な疑問を抱いた。自分の栽培している小麦は本当においしいのだろうか――。
満寿屋商店などのベーカリーと接点を持つようになったのはそのためだ。自分の作った小麦を製粉会社に委託して小麦粉にした後、ベーカリーに直接販売している。その結果、「どんな品質の小麦が必要とされているか」といった情報が入るようになり、栽培を向上させるきっかけにもなった。

前田さんは「農業の魅力を地元の人に伝えたい」と話す

2016年には、袋に入ったトウモロコシをそのまま電子レンジで加熱すればポップコーンができる商品の製造販売も始めた。そのために本場の米国を自ら何度も訪ねて調査を重ね、ポップコーンに適したトウモロコシを導入した。トウモロコシを専用の袋に詰める機械も米国から輸入した。こうした商品を農家が直接製造し、販売するのは日本では画期的なことだ。

前田さんの取り組みで共通しているのは、農業ゆえの必然性とビジネスとしての有効性を結びつけている点だ。十勝の農業にとって、雪が降って農作業ができない冬場をどう過ごすかは大きな課題。小麦粉を売るようになったことで、冬場にも自分がやるべき営業という仕事ができた。ポップコーンの製造を始めたことで、従業員が冬にやることのできる作業も加わった。
ヒマワリの栽培も、そうした文脈で理解することができる。地力を維持するため、輪作体系を充実させる。春小麦と秋小麦のタネが混ざるのを防ぐ。地元の人に畑に来てもらい、農場のファンになってもらう機会をつくる。収穫物をパンに加工することを提案し、ベーカリーとの関係を深める。
そうしたさまざまな課題に応えることのできる作物が、ヒマワリだったのだ。農業が抱える制約を、一気にチャンスに変える戦略に痛快さを感じた。

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