海外経験がヒントに 食の動向から市場を取る経営戦略

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連載企画:農業経営のヒント

海外経験がヒントに 食の動向から市場を取る経営戦略
最終更新日:2019年10月28日

担い手として将来を期待される農業者が経営を任されたとき、まず考えるのが先代の築いた経営をどう発展させるかだろう。新しい栽培方法を取り入れるか、加工に乗り出すか、別の販路を見つけるか。北海道・十勝地方の大規模農場、とかち河田ファーム(北海道・音更町)の社長に2018年になった河田利則(かわだ・としのり)さんが選んだのは新しい作物への挑戦だった。栄養価の高さからスーパーフードとも呼ばれる雑穀のキヌアだ。

メーカーで海外を飛び回った日々

キヌアは南米原産のヒユ科の植物で、ヒエやアワなどと同様に雑穀に分類される。生産地は今も南米がほとんど。タンパク質のほか、マグネシウムや鉄分などのミネラルを豊富に含み、健康食品として欧米で需要が高まっている。
河田さんはキヌアのタネを独自に調達し、2019年に5.5ヘクタールで試験的に栽培した。テストと言いながら、いきなり日本の農家1戸当たりの農地面積の2倍近い広さ。都府県では想像できない北海道の農業のスケールの大きさとともに、河田さんがこの作物にかける意気込みを示す。

キヌアの収穫風景(写真提供:とかち河田ファーム)

タネをまいたのが4月。河田さんによると、「途中まで想定した以上にうまくいった」。ところが収穫期を迎えた8月に予想外のトラブルが起きた。用意したコンバインが小さかったため、収穫に手間取り、実が穂についたまま発芽してしまったのだ。収量は計画の4分の1に満たなかった。
「適期がわかってなかった。甘く見てました」。河田さんは1年目の失敗について率直にこう話す。ただし、気落ちして消極的になっているわけではない。「学習できて本当によかったと思ってます。謙虚に次の策を考えます」
河田さんはなぜ日本でまだ珍しいキヌアに挑戦することにしたのか。そのことを説明する前に、経営の概略と河田さんの歩みに触れておこう。
畑の面積は自社の所有と賃貸、作業受託を合わせて100ヘクタール。主力作物はニンジンだ。河田さんが子どものころ、一時経営が厳しくなったことがあった。そのとき苦境を救ってくれた作物だ。当時は周囲でニンジンは栽培されておらず、他の農家と差を出すことで経営を軌道に乗せた。

とかち河田ファームのニンジンの選果場

現在はニンジンのほか、ゴボウやジャガイモ、輪作作物の小麦や大豆も栽培している。すべて農協を通さず、自社の選果場を通して出荷している。そこに今年、新たな作物としてキヌアが加わった。
もともと農業を継ごうと思っていたわけではない。日本の大学で機械電気工学を学んだ後、米国の大学院で経営工学を専攻した。興味があったのが、原料が製品になり、消費者に届くまでをつなぐサプライチェーンだ。
帰国後はいくつかの会社を経て、電子部品メーカーの村田製作所に就職した。そこで念願かない、米国やアジアなど海外の拠点を飛び回って在庫を管理し、生産計画を立て、物流の仕組みを考える仕事をした。

日本でのタネの独占使用権を取得

就農したのは約6年前、38歳のときだ。今も「村田製作所のことが好きで、感謝してます」と話すように、仕事が嫌になったわけではない。だが、いつしか河田さんは、周囲の農家と違う経営をつくり上げた父親を支え、バトンを継ぐことに大きな意義があると思うようになっていた。
実家に戻ると父親のもとで、耕運の仕方から農薬や肥料のやり方、収穫まで一通り学んだ。北海道の場合、大型機械に慣れることが必要。畑から畑へとトラクターを運ぶ10トントラックを運転するため、大型免許も取った。
社長になる前に力を入れたのが、輪作体系の強化だ。今後もニンジンは経営の大きな柱。それを守るためには地力を維持し、連作障害のリスクを抑える必要があると考えた。そこで増やしたのが小麦と大豆の栽培だ。

河田さんは会社員時代の経験を生かして飛躍を目指す

ここまでは、経営をさらに飛躍させるための基盤固めと言える。次の一手が新たな戦略作物の導入だった。条件は、従業員が意欲的に作ってくれる作物であること。とかち河田ファームでは、繁忙期に約60人が働く。
河田さんは「従業員やその家族たちに『うちの会社はこんなに面白いことをやっている』と誇りに思ってほしい」と話す。会社勤めを長年やっていたからこそわかる、スタッフのモチベーションの大切さだろう。
ではどんな作物がそうした条件を満たすのか。河田さんの頭に浮かんだキーワードが「オンリーワン」だった。まだ日本では本格的に栽培されていないが、時代の流れに沿って需要の伸びが見込めそうな作物だ。

初年度に収穫したキヌアの穂

世界の食の動向を調べるうち、たどりついたのがキヌアだった。健康志向の高まりを受け、欧米で現地生産が始まっていた。日本では湿度が高い本州より、北海道のほうが気候が近い。オンリーワンになる可能性が見えてきた。北海道ならスケールメリットを発揮して価格を抑えることもできる。
栽培開始に際し、必要になるのが良質なタネの確保だ。調べを進めるうちにわかったのが、多くの国の生産者が同じタネを使っているということだった。農業分野で有名なオランダのワーヘニンゲン大学が開発したタネだ。
ここで会社員時代に海外に頻繁に出張した経験が生きた。ニュージーランドとイギリス、オランダでキヌアを栽培している生産者にアポイントメントを取り、2019年1月に訪問。ワーヘニンゲン大学が開発したタネを管理している会社も訪ね、日本で独占的に栽培し収穫物を販売する権利を取得した。

農業外での経験は営農の貴重な糧

こうして日本ではまだ珍しい作物、キヌアの本格栽培に向けた河田さんの挑戦が始まった。海外の生産者を訪ねて河田さんが驚いたのが、市場を獲得するためのスピード感だ。例えば、最初にテストで20ヘクタール栽培し、翌年いきなり100ヘクタールに広げ、販路を一気に開拓したりする。
初年度に5.5ヘクタールと日本の常識からすればかなり広い面積から始めたのは、彼らに倣ったからだ。2020年は数倍に増やす計画。周囲の農家から「農地を預かってほしい」と頼まれていることが、拡大の追い風になる。
課題は販路の確保だ。いくら面積を増やしても、売り先がなければ事業は軌道に乗らない。河田さんは当然、販路の開拓を始めているが、栽培の拡大と歯車がかみ合う形で需要が増えるかどうかは未知数。ただし、成功が100%保証された新ビジネスなどなく、だからこそ挑戦する意義がある。

丸く小さなキヌアの実

とかち河田ファームの経営が厳しくなったとき、ニンジンを栽培することで、苦境を突破したことに先に触れた。同社はいま同じように厳しい局面にあるわけではないが、新たな作物で経営を飛躍させようと試みている点では共通。そのために武器になっているのが、海外留学と会社勤めの経験だ。
営農のスタイルは農家によってさまざまで、小さい規模でも充実した暮らしを実現している人もいれば、企業的な経営で規模を拡大しようと挑む人もいる。もし後者を目指すなら、農業外での経験は大きな財産になる。

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