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海外経験がヒントに 食の動向から市場を取る経営戦略

吉田 忠則

ライター:

連載企画:農業経営のヒント

海外経験がヒントに 食の動向から市場を取る経営戦略

担い手として将来を期待される農業者が経営を任されたとき、まず考えるのが先代の築いた経営をどう発展させるかだろう。新しい栽培方法を取り入れるか、加工に乗り出すか、別の販路を見つけるか。北海道・十勝地方の大規模農場、とかち河田ファーム(北海道・音更町)の社長に2018年になった河田利則(かわだ・としのり)さんが選んだのは新しい作物への挑戦だった。栄養価の高さからスーパーフードとも呼ばれる雑穀のキヌアだ。

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メーカーで海外を飛び回った日々

キヌアは南米原産のヒユ科の植物で、ヒエやアワなどと同様に雑穀に分類される。生産地は今も南米がほとんど。タンパク質のほか、マグネシウムや鉄分などのミネラルを豊富に含み、健康食品として欧米で需要が高まっている。
河田さんはキヌアのタネを独自に調達し、2019年に5.5ヘクタールで試験的に栽培した。テストと言いながら、いきなり日本の農家1戸当たりの農地面積の2倍近い広さ。都府県では想像できない北海道の農業のスケールの大きさとともに、河田さんがこの作物にかける意気込みを示す。

キヌアの収穫風景(写真提供:とかち河田ファーム)

タネをまいたのが4月。河田さんによると、「途中まで想定した以上にうまくいった」。ところが収穫期を迎えた8月に予想外のトラブルが起きた。用意したコンバインが小さかったため、収穫に手間取り、実が穂についたまま発芽してしまったのだ。収量は計画の4分の1に満たなかった。
「適期がわかってなかった。甘く見てました」。河田さんは1年目の失敗について率直にこう話す。ただし、気落ちして消極的になっているわけではない。「学習できて本当によかったと思ってます。謙虚に次の策を考えます」
河田さんはなぜ日本でまだ珍しいキヌアに挑戦することにしたのか。そのことを説明する前に、経営の概略と河田さんの歩みに触れておこう。
畑の面積は自社の所有と賃貸、作業受託を合わせて100ヘクタール。主力作物はニンジンだ。河田さんが子どものころ、一時経営が厳しくなったことがあった。そのとき苦境を救ってくれた作物だ。当時は周囲でニンジンは栽培されておらず、他の農家と差を出すことで経営を軌道に乗せた。

とかち河田ファームのニンジンの選果場

現在はニンジンのほか、ゴボウやジャガイモ、輪作作物の小麦や大豆も栽培している。すべて農協を通さず、自社の選果場を通して出荷している。そこに今年、新たな作物としてキヌアが加わった。
もともと農業を継ごうと思っていたわけではない。日本の大学で機械電気工学を学んだ後、米国の大学院で経営工学を専攻した。興味があったのが、原料が製品になり、消費者に届くまでをつなぐサプライチェーンだ。
帰国後はいくつかの会社を経て、電子部品メーカーの村田製作所に就職した。そこで念願かない、米国やアジアなど海外の拠点を飛び回って在庫を管理し、生産計画を立て、物流の仕組みを考える仕事をした。

日本でのタネの独占使用権を取得

就農したのは約6年前、38歳のときだ。今も「村田製作所のことが好きで、感謝してます」と話すように、仕事が嫌になったわけではない。だが、いつしか河田さんは、周囲の農家と違う経営をつくり上げた父親を支え、バトンを継ぐことに大きな意義があると思うようになっていた。
実家に戻ると父親のもとで、耕運の仕方から農薬や肥料のやり方、収穫まで一通り学んだ。北海道の場合、大型機械に慣れることが必要。

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