「野菜を全部買って農家を守れ!」リスクを取って発展する地域農業のカタチ

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「野菜を全部買って農家を守れ!」リスクを取って発展する地域農業のカタチ

連載企画:農業経営のヒント

「野菜を全部買って農家を守れ!」リスクを取って発展する地域農業のカタチ
最終更新日:2019年11月13日

イタリア料理などで使う珍しい野菜を栽培し、注目を集めるさいたまヨーロッパ野菜研究会。今でこそ売り先のレストランが1200軒に達し、都市近郊農業の新たなあり方として存在感を示しているが、見たこともない野菜を作り始めた当初は試行錯誤の連続だった。成長を可能にしたのは、若い農家たちを支えるサポーターの尽力だ。

「農家は役所を信頼しない」から始まった

さいたまヨーロッパ野菜研究会(以下「ヨロ研」)は、発足が2013年。13人の農家を中心に卸会社やレストラン、種苗会社が連携するためのチームで、市の外郭団体のさいたま市産業創造財団が事務局を務めている。
ヨロ研が扱う野菜は、イタリア料理やフランス料理などで使われているが、日本にはまだあまり定着していない野菜が中心。細長いロングパプリカや断面が星形のオクラ、赤や金色のカブ、真っ白いナスなど。ズッキーニやケールのようにすでになじみのある野菜も含む。
躍進の背景には、何人かのキーパーソンがいる。その一人が、さいたま市産業創造財団の福田裕子(ふくだ・ゆうこ)さんだ。中小企業に経営についてアドバイスするのが仕事で、地元の農産物を使って飲食店をサポートできないかと考えていた。イタリア料理店を運営するノースコーポレーション(さいたま市)の社長で、以前から知り合いだった北康信(きた・やすのぶ)さんに相談すると、答えは「地元でイタリア野菜を作ってほしい」だった。

さいたま市産業創造財団の福田裕子さん

この提案には、大胆な発想の飛躍がある。ふつうの地域興しなら「地元の隠れたおいしい野菜」の発掘などを考えそうなところだろう。だが、本格的なイタリア料理を目指す北さんの要望は「地元にない野菜」を使うことだった。
北さんの提案を受け、福田さんはレストランと農家がともに参加するチームを作ることを思いついた。新しい野菜を作り、メニューに取り入れるには両者が直接連携することが不可欠と考えたからだ。
キックオフは2013年1月。市内のホテルに農家を集め、北さんらが輸入物のヨーロッパ野菜を使い、どんな料理を作れるのかを説明した。だが珍しい野菜を見て盛り上がるかと思いきや、一部の農家は浮かない表情を見せた。
「農家たちから言われたのは、『役所のことを信頼してないから』でした」。福田さんは、メンバーの農家と最初に接したときのことをこうふり返る。役所はいろいろ提案してくるが、時間をかけてねばり強く実現しようという姿勢に欠けている。農家たちはそう感じていたのだ。
そこで福田さんは、これまで飲食店などを支援してきた経験をもとに、自分ができることから着手した。狙いは、農家が自ら卸などと交渉する力を身につけてもらうこと。ヨロ研は農協に販売を任せるような方法をとっておらず、その役割を財団が代行することもできないからだ。販売条件の設定や商談の進め方、代金回収の方法、カタログの作り方などを、農家たちにひとつひとつ説明した。

ノースコーポレーションが運営するイタリア料理店「ラグーナロトンダ」(埼玉県朝霞市)のピザ。ヨロ研の野菜を使っている

とくに力を入れたのが、参加者が共通の言葉でコミュニケーションできるようにすることだ。例えば、農家は作物の量を「この畑でどれだけ取れるか」をもとに考え、卸や飲食店は「何キロ必要か」「何個要るか」という観点から考える。この考え方のズレは作る側と使う側の立場の違いを反映している。
そこで始めたのが、年に2回、農家と卸が集まる会合だ。まず農家から「この野菜を4~5月の間は週に何キロずつ出荷したい」と出荷計画を示す。卸は「もう少し欲しい」「そんなに要らない」などと応じる。この会合は、農家が買う側の事情を考えながら栽培計画を作るきっかけになった。
一方、「要求のテンポが速過ぎる」という農家の困惑の解消にも努めた。飲食店や卸は「この野菜は駄目だったので、すぐ別の野菜で試してみたい」と考えがち。だが農家にしてみれば「その野菜ができるのは数週間後」となる。
このギャップを埋めるため、福田さんは卸の担当者と一緒に畑に行き、農作業を手伝ってみた。担当者が農業の現場を知ることで、農家が「間隔が短すぎて対応できない」と戸惑うような要求は少なくなった。
ヨロ研のメンバーは新規就農ではなく、代々続く農家の出身だ。地方で農場の大規模化が急速に進む中、都市近郊で拡大が難しい自分たちは今まで通りのやり方では展望が開けないとの危機感がもともとあった。福田さんという信頼できるパートナーの登場が、彼らを新たな挑戦に導いた。

居酒屋と中華料理店が販路に

発足してしばらくすると、販路をどう増やすかがヨロ研の課題になってきた。中心メンバーの北さんは自社のレストランでヨロ研の野菜を積極的に使ってくれていた。ただ栽培量が増えたことで、野菜の売り先をもっとたくさん確保する必要が出てきた。
1年目は地元のある青果物卸がその役割を担っていたが、思うようにレストランを開拓できなかった。そんなときに登場したのが、食品卸の関東食糧(埼玉県桶川市)だ。社長の臼田真一朗(うすだ・しんいちろう)さんによると、「もともとイタリア野菜を扱いたいと思っていた」という。
臼田さんは配送網の中にイタリア料理店やフランス料理店、ホテルなどがどれだけあるかを調べ、ヨロ研の野菜を売り込みに行くよう社内で指示した。売り先はすぐに増え始めた。滑り出しは好調そうに見えた。だが臼田さんはあるとき、メンバーの農家が交流サイト(SNS)で発信した言葉を知った。
「売り上げは初年度と比べて増えてはいるが、まだまだ足りない。育てた野菜を販売できず、畑で傷んでいくのを見るのは農家にとって一番つらい」

関東食糧社長の臼田真一朗さん

「このままではまずい」。そう思った臼田さんは、自社のスタッフに「畑で育ったヨーロッパ野菜を全部買ってこい」と指示した。だが関東食糧の営業担当も、新たに扱い始めた野菜の名前を知らないという状況だった。売れ残りのリスクは農家から関東食糧へと移り、2年ほど利益が出ない状態が続いた。
こういうとき一番大事なのは、多少の足踏みにトップがたじろがないことだ。同社は「地域の飲食店が繁盛するための手助けをすること」を経営目標に掲げている。ほかの地域にない野菜を作り始めた農家を支援することも、地元のレストランの発展に寄与することになると考え、営業担当を「うちの力が試されていると受け止めるべきだ」と鼓舞した。

切ると断面が星形になるオクラ

活路は意外な方向から開けてきた。居酒屋だ。ちょうどそのころ、温めたソースを野菜につけて食べるイタリアの地方料理、バーニャカウダを居酒屋のメニューに取り入れることがはやっていた。その料理に使う野菜として、カラフルなヨーロッパ野菜の注文が増えたのだ。
居酒屋に続いて、中華料理店を販路にすることにも成功した。地元の中華料理店のグループから「使ってみたい」という要望があったことを受け、都内の有名なシェフに頼んでレシピを作成。それをメニューに取り入れた地元の店がテレビで紹介され、利用が広まっていった。
臼田さんは「スタッフはみんな必死だった」とふり返る。関東食糧は3年目からヨロ研関連のビジネスで利益が出るようになり、ヨロ研の活動も軌道に乗った。

リスクを取ることが発展の基礎

ヨロ研の意義は、都市農業の新しい可能性を示した点にある。特定の品目に絞った営農だと、広大な畑で効率的に栽培できる地方の産地と価格面で張り合うのは難しい。これに対し、ヨロ研はトキタ種苗が提供する多様で珍しい品種を育てることで、差を出すことに成功した。
地元のレストランを売り先として確保できた点も強みだ。他の産地が同様の野菜を作って売り込んできても、「地元産」をアピールすることで、レストランとの取引を維持する手がかりを得た。

発足時からのヨロ研の農家メンバー、小沢祥記(おざわ・よしのり)さん

加えて大事なのは、早い時期にメンバー同士で「名人を目指すのはやめよう」と確認し合ったことだ。同じ品目を何十年も作り続け、飛び抜けた品質の農産物を作る農家と張り合うのは簡単ではないからだ。
では自分たちの武器は何か。そう自問する中で出てきた答えが、「安定」だ。一人の農家なら欠品しかねない状況でも、何人かで補い合うことで、約束通り出荷しやすくなる。複数の農家が集まって卸や飲食店と結びつくことで生まれた「チーム力」こそ、ヨロ研の価値と言えるだろう。

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