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サクラやタケの脅威「てんぐ巣病」とは?ヤドリギとの見分け方や適切な対策について解説

itoh.tomohiro

ライター:

サクラやタケの脅威「てんぐ巣病」とは?ヤドリギとの見分け方や適切な対策について解説

日本の春を彩るサクラ「ソメイヨシノ」が今、ある伝染病によって危機にさらされています。病気は「てんぐ巣病」。てんぐ巣病が発症したソメイヨシノは花が咲きにくくなり、次第に枯れてしまいます。ソメイヨシノをはじめとするサクラの木だけでなく、多くの植物が罹患するてんぐ巣病は空気や水によって感染がどんどん広がってしまうため、見つけた場合は早期に適切な対策を行うことがとても重要です。この記事ではてんぐ巣病の特徴や見分け方、発病した場合の必要な対策方法などをご紹介していきます。

てんぐ巣病とはどのような病気?

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サクラの木を観察すると、枝の一部が密集して“鳥の巣”のような形になっていることがあります。これはてんぐ巣病かヤドリギの可能性が高く、てんぐ巣病をそのままにしておくと木が衰弱して枯れてしまうだけでなく、病原菌の胞子が空気中を飛散することで周囲のサクラにまで感染が広がってしまいます。

てんぐ巣病はさまざまな植物に感染する病気ですが、サクラへの急拡大が目立っています。てんぐ巣病にかかると花も咲きにくくなるため、全国のサクラの名所で大きな問題となっています。

てんぐ巣病とヤドリギの見分け方

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ヤドリギ

てんぐ巣病とヤドリギは、冬になると容易に見分けることが可能です。カビなどが原因で発症するてんぐ巣病は、枝の一部が膨れてコブのようになり、その先の葉が変形したり褐色になったりします。葉に白い粉が付くこともあり、次第に枯れて枝だけになります。一方、寄生植物のヤドリギは冬でも青々としており、宿主を弱らせますが伝染はしません。白色や赤色の実を付けることもあり、宿主が落葉する冬になっても緑色の葉を保ちます。

てんぐ巣病が発症する原因とは?

てんぐ巣病は、カビの一種である「タフリナ菌」が植物の組織に感染することで発症します。ソメイヨシノなどのサクラに特に発症しやすく、他にもモモやウメ、カボチャなどにも発症します。タフリナ菌は3月~5月ごろの湿気のある温暖な環境で活発に繁殖し、感染した葉の裏に胞子が大量に形成されます。それが空気中や雨水を介して他の木や枝にどんどん広がっていきます。

タフリナ菌が芽や枝などの成長点に感染するとホルモン異常を引き起こし、細胞分裂を過剰に促進します。それによってモジャモジャした枝の塊が形成されます。その姿から、英語では「witches’ broom(魔女のほうき)」と呼ばれています。

菌によって引き起こされる

てんぐ巣病は主に「サクラてんぐ巣病菌」や「タケ類てんぐ巣病菌」によって引き起こされます。

サクラでは、特にソメイヨシノで被害が顕著で、沖縄県を除く日本全国で発生しています。菌類が植物ホルモン(オーキシンやサイトカイニン)の合成量を変化させ、枝の異常な分岐を誘発してモジャモジャになり、そこから樹木全体が弱っていきます。

タケ類てんぐ巣病は日本、中国、台湾などで確認されますが、日本に多いモウソウチクへの感染は少なめです。その一方でマダケへの被害が大きく、菌が広がりやすい河川沿いの竹林に深刻な影響が出ています。

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モウソウチク

ファイトプラズマ

ファイトプラズマは細胞壁を持たない細菌(モリクテス類、Mollicutes)に属し、植物の師管組織に生息する病原体です。

トマト、レタス、カボチャ、サツマイモ、マメ類、ジャガイモ、ミツバ、イチゴなどの農作物やペチュニア、ゼラニウム、リンドウ、スターチス、アネモネ、サボテンなどの花きなど、700種以上の植物で罹患が報告され、密集した小枝の形成、葉の褐色や白色への変化、縮れやねじれなどの異常が見られます。

ヨコバイやウンカなどの吸汁性昆虫によって植物から植物へと病気が伝播し、接ぎ木や寄生植物を通じた伝播も確認されています。

てんぐ巣病になりやすい植物

樹木ではソメイヨシノをはじめとするサクラ、ウメ、モモ、桐、桑など、野菜ではトマト、レタス、マメ類など、花きではポインセチア、ペチュニア、コスモスなどがかかりやすい植物です。ただ、ポインセチアやペチュニアでは矮化(小型のまま成長する状態)が有利に働いて商業価値がむしろ高まるケースも見られます。

サクラ

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庭木の中でも、てんぐ巣病の発生がよく見られるのがサクラで、特にソメイヨシノの被害がニュースでよく取り上げられています。クローン品種のソメイヨシノは接ぎ木や挿し木で増やすため、感染した材料を使用するとてんぐ巣病がどんどん広がっていきます。枝の一部がコブのようになり、付近から出る小枝がほうき状に密集します。感染すると花芽が作れず花が咲かなくなるため、観賞価値が低下します。

タケ

タケはてんぐ巣病を発症すると葉の小型化や枝の異常が起こります。光合成を行う葉の面積が減少することで糖やデンプンなどの養分生成が低下し、地下茎の貯蔵養分も減少します。タケノコの形成には地下茎の養分が必要なため、タケノコの発生も少なくなります。
食品や建材として広く活用されてきたタケですが、以前と比べて利用が少なくなって竹林が放置された結果、てんぐ巣病が蔓延してしまったと考えられています。

野菜・花き

てんぐ巣病は多くの野菜(トマト、レタスなど)や花き(ペチュニア、ポインセチアなど)でも発症し、葉の異常や花の緑化・矮化を引き起こします。
伝染源はカヤツリグサやタネツケバナといった雑草で、ヨコバイなどの吸汁性昆虫がこれらの雑草から野菜や花きにファイトプラズマを媒介して、てんぐ巣病が発症します。

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カヤツリグサ

現時点でてんぐ巣病の予防・防除方法はない

てんぐ巣病は薬剤を用いても防除が行えず、現状では感染した部分や株を物理的に取り除くしか、有効な対策がありません。

切除作業は病気の拡散リスクが低い落葉期間に行うのが最適ですが、一度の作業では感染部位の取り残しが発生しやすいので最低でも3年間の継続的な作業を行って完全に防除することが重要です。切除した枝は他の植物への感染を防ぐため、燃えるゴミとして確実に処分しましょう。

てんぐ巣病を発症した時の対処法

てんぐ巣病は人間には無害ですが、植物にとっては薬剤による防除が確立されていない厄介な病気です。実際にてんぐ巣病が発症してしまった時にどのような対処をしたら良いのかをご紹介していきます。

発症した部分を切除する

まずは、ヤドリギかてんぐ巣病かの見極めを行います。寄生植物のヤドリギは宿主を弱めはしますが、枯らしたり周りの木まで影響を与えることはありません、てんぐ巣病は枯れるだけでなく、周りの木に感染が広がるため、罹患枝の切除が必要です。ヤドリギは落葉期になっても緑色を保つため、12月〜2月の冬場なら比較的簡単に見分けられます。

てんぐ巣に罹患した枝はコブの下から切り落とします。休眠している落葉期に作業することで樹木全体へのダメージや枯れ込むリスクを軽減できます。この時期はてんぐ巣病菌が活発ではないため、感染を広げる胞子が飛ばないというメリットもあります。野菜や草花に発症した場合は発病株を早急に抜き取り、燃えるゴミとして処分します。

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切り口にペースト剤を塗る

罹患枝を切り落とした後は、切り口をそのままにせず、ペースト剤(トップジンMペーストなど)を塗りましょう。

特にサクラは切り口から病気や害虫の影響を受けやすく、枯れ込む原因となります。「桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿」ということわざがあるほどです。
ペースト剤を塗ることで切り口にバリアが形成され、雨水や雑菌の侵入を防いでくれます。親指以上の太い枝を切ると治癒に時間が掛かるため、ペースト剤が必須です。

ソメイヨシノに代わる品種への切り替えも一案

全国のサクラの名所でてんぐ巣病への対策が課題となっています。てんぐ巣病への耐性が弱いソメイヨシノから「ジンダイアケボノ」「コマツオトメ」といった別品種への切り替えも行われています。ジンダイアケボノはソメイヨシノよりもやや早く開花し、ピンクが濃いのが特徴です。東京の国立劇場でも2017年からジンダイアケボノへの植え替えが進められています。コマツオトメはソメイヨシノよりもやや小ぶりで、花びらに丸みがあって先端がほんのりピンクに色付きます。

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早期発見と綿密な管理を!

てんぐ巣病は、ソメイヨシノをはじめ多くの植物を脅かす深刻な病気です。同じように枝がモジャモジャになるヤドリギとの違いを見極め、感染枝を落葉期に切除してペースト剤で切り口を保護しましょう。

てんぐ巣病は薬剤での防除が難しい病気でもあります。そのため、早期発見と継続的な管理によって感染の拡大をしっかりと防ぐことが大切です。適切な対策で美しいサクラや豊かな自然を守り、未来につないでいきましょう。

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