さし木・さし芽とは
さし木・さし芽とは、植物にもともと備わっている「体の一部から、全体をつくる力」を利用した「クローン技術」。
切り刻んだ茎や枝を土にさしておいたり(さし木)、親株が出したわき芽を土にさしておく(さし芽)と、土に埋まった部分から根が出てきて「独り立ち」し、新しい葉を出して、茎を伸ばし、花を咲かせます。
もちろん野菜でも同じことができます。タネをまく必要がないので種苗代を節約できるうえ、播種(はしゅ)などの細かい作業が必要ない、植物の生命力を感じておもしろいなど、メリットはたくさんあります。
以下、品目ごとに筆者なりのやり方を紹介します。
※ 現行法(2020年時点)では、自家増殖禁止品目のうち、登録品種に指定されている品種の自家増殖は禁止されています。家庭菜園や収穫物を自給する場合は上記の条件でも自家増殖は禁止されていませんが、自家増殖した種子や苗の販売・譲渡は禁止されています。また、現在検討されている法改正が施行されると、農産物を販売する場合は自家増殖するのに許諾が必要になる可能性があります。該当するかどうか、農林水産省などのホームページで調べたり、問い合わせてから行ってください。
芽で殖やすトマト・ジャガイモ
トマトの栽培ではわき芽をかき、ジャガイモの栽培では伸びてきた芽を数本残してとってしまいます。じつは、これらの芽からもトマトやジャガイモを殖やすことができます。
トマトをわき芽で殖やす

トマトのわき芽
放任栽培でない限り、ふつうは各葉っぱのわきから出てくる「わき芽」をかきます。このうち10センチメートル前後になったわき芽から苗をつくります。
かいたわき芽をすぐに水を張ったバケツに浸して給水。その後、葉っぱを2枚ほどに減らしたうえで、バーミキュライトなどの肥料分が少ない土にさします。

トマトのわき芽を土にさした直後
「明るい日陰」のようなしおれにくい場所に置き、葉っぱがしんなりしたら、霧吹きなどで葉っぱだけに水をかけます。何日かたつと、新しい根を出して、葉っぱがしんなりしにくくなってきます。その後は、通常の苗のように管理します。

さし芽をして2週間後のトマト

根が再生し、根鉢ができている
タネまきから始めるよりも育苗に時間がかかりません。できた苗を植えると、親株のトマトが疲れてきた頃に収穫ができ、長いあいだ収穫することができます。
獣害で全滅したジャガイモも復活
数年前、まだ若いジャガイモがイノシシに丸ごと荒らされたことがありました。悔しさのあまり、イノシシの食べ残しの芽を土にさしてみると、小ぶりながらもジャガイモを収穫することができました。
ジャガイモの場合は、トマトのようには気を使いません。親株から余計な芽を引っこ抜き、雨の前日の夕方に土にさします。マルチをしているなら、その後に水やりをしなくても、しおれたり戻ったりして、いつのまにか自然と根づいています。
一株からとれるイモの量は少ないので、タマネギを植えるときのように15〜20センチの間隔で密植します。

さし芽をして、2週間後

収穫までまだまだだが、小さなイモがつき始めている
春の2番芽から苗をつくるカリフラワー・ブロッコリー
秋冬野菜の収穫が終わり、収穫残さをすき込もうとすると、カリフラワーやブロッコリーの太い茎から、いくつもの芽が出ています。
地際付近の芽のうち、根っこがついているものをかきとり、これを土に植えて、苗として仕立て直します。

初春、収穫後の株から吹き出したカリフラワーの芽
カリフラワーやブロッコリーの場合は一度しおれると回復しにくいため、最初はトマト以上に水を切らさないように気を使います。数日すると新しい根が出ますので、通常の苗のように管理し、ポットに根が回ったタイミングで植え付け、初夏に収穫します。

さし芽から2週間後。すでに根鉢はパンパンでもう植えられる状態に
切り枝から殖やすサクラ
野菜以外に、花や花木でもさし木ができます。私がやるのはキクやナデシコ、アジサイなど。
昨年は春先に、ケイオウザクラのさし木にも挑戦しました。タネから育てると途方もない時間がかかるうえ、苗木の値段もそこそこするものですが、かなり豪快なやり方で「さし木」をしています。
ケイオウザクラを切り枝として出荷する際に余ってしまう太い枝を、木づちなどで畑に打ち込みます。あとは、雨任せで、放置。杭のような太さの太枝でも活着しますし、太ければ太いほど、その後の成長は早くなります。

1年でこれだけ大きくなった。2年で花が咲く

1年前に中央の太い幹を地面にさした
これからの梅雨時期は曇天の日が多く、湿度が高いため、さし木・さし芽が成功しやすい時期です。ぜひ、チャレンジしてみてください。