小さなラベルでイタリアナスを売れ筋に
去年の夏のこと。タネ袋にある美しい写真にほれて、「ロッサビアンコ」というイタリアのナスを育ててみた。薄紫色で、まんまる。表面につやがあり、ピカピカとしたとても奇麗なナスができた。
自信満々で直売所に持っていったが、これが全然売れない。売り場を見ると、普通のナスに埋もれていても目立つおかげか、かなりたくさんのお客さんが「へぇ」「きれいね」「こんなのもあるんだ」と手にとってはくれる。だが、カゴには入れず、すっと棚に戻してしまう……。
大量の売れ残りを持って帰ろうとすると、近所のおっちゃんが「ここではそういう珍しいナスは売れん。だから、みんなつくらんのや」と心に刺さることを言う。
しかし、売れなくとも、一度植えたら秋まで収穫しなきゃならないのがナスをはじめとした果菜類の宿命。
忙しい夏の合間をぬって、なんとか売れる方法を模索しつつ、たどり着いたのが、下画像の超シンプルなラベル(シール)だった。あとで紹介するネット上の無料ツールでおよそ5分でつくった、素人の手抜きデザイン。
これをペタッと袋に貼る、ただそれだけ。なのに、売れ残りがなくなり、よくできたものなら1個150円で売れるようになった。千両ナスや長ナスなどの定番ナスのなかでもよく目立つうえ、他の農家がいまさら苗を植えてマネすることもできず、競合も出てこない。満足のいく値段で、売り切ることができた。たかがラベルと思っていたが、あなどれない。
「ラベルやポップをつくるなんて、難しいだろうし、めんどくさそう」と思っていた私だが、最近は私のようなパソコン音痴でも簡単に、しかも無料で使えるものがたくさんある。検索するといろいろ見つかるが、以下、私が愛用している無料ツールを2つ紹介したい。
ものの5分でラベルを作成できる「ラベル屋さん」
先ほどのロッサビアンコのラベルは、「ラベル屋さん」というインターネット上の無料ツールでつくった。家庭のインクジェットプリンター用のラベル用紙を扱う、スリーエム ジャパン株式会社が運営している。
私の場合は、ロッサビアンコのほか、あまりなじみのない西洋野菜や中国野菜、白いオクラなど「おいしいけど、見た目で敬遠される」ような野菜にラベルをつけることにしている。
このウェブツールのいいところは、スリーエム ジャパンが扱うラベルシートであれば、品番を入力するだけで、そのシートサイズに合わせたデザインができ、サイズ間違いによる印刷ズレなどの失敗がないところ。凝ったものでなければ、ものの数分でオリジナルのラベルをつくることができる。
つくったデザインはパソコン上に保存できるうえ、アカウントをつくればウェブ上にも置いておける。
農家ならではの写真つきのポップが簡単にできる Fotor
写真つきのポップがあるのとないのでは売れ行きがまったく変わってくるのが、野菜苗や花壇苗などの苗物。
ナスなどの実がなる果菜類の苗や、まだ開花していない花壇苗などを売るときは、果実や花の写真を使ったポップを添えることで、10倍は売りやすくなる。
タネ袋にある写真でもいいが、せっかく自分で生産している農家なのだから、自分が「おいしそう」「きれい」と思って撮影したオリジナル写真を使ったほうが説得力は高まるはず。
私が愛用しているのが「Fotor(フォター)」というウェブツール。これも無料で使うことができ、アカウントをつくるとウェブ上に保存ができる。
有料のデザインソフトのような凝ったことはできないが、そのシンプルさゆえに使いやすい。大きな写真1枚と、キャプション(見出しや説明文)だけで構成するようなデザインなら誰でも簡単にできるし、それで十分だと思う。
印刷したポップは、ラミネート加工をするとキレイに見えるし、屋外でもシワシワにならない。
値下げして売るよりも、よっぽどお得
近頃はこうした便利で簡単なツールが豊富。ぜひ、自分にあったものを探して、チャレンジしてみてほしい。
小さなラベル1枚にかかる費用は、自分でやればインク代も含めて1枚2円もかからないはず。ポップだって、安いものだ。
売れないからといって、野菜の価格を10円や20円値下げするのはやり方としては簡単だが、それで売り切れる保証もない。
せっかくいろいろと考えて作付けした大事な野菜。少しくらい手間をかけても、ちゃんとした値段で売ってみませんか?